ぶんかつブログ

ぶんかつ4年目の歩みと今後の展望(前編)

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は2018年、国立文化財機構に設置された組織です。今年2022年7月1日に設立から4周年を迎えました。
〈ぶんかつ〉は、多くの方が文化財を通して豊かな体験と学びを得ることができるよう、さまざまな活動を行なっています。設立時は企画、貸与促進、保存、デジタル資源の4つの担当セクションで事業を開始し、その後総務担当に設けられたファンドレイジングのチームも加わりました。
このブログでは〈ぶんかつ〉4年目の歩みをふりかえりつつ、今後の展望について、設立時からセンター長を務める旭充と、今年度から副センター長に着任した丸山士郎が語ります。


旭充(文化財活用センター長)、丸山士郎(副センター長)

企画担当―開発したデジタルコンテンツを各地へ展開することも目指す―

文化財に親しむためのコンテンツの開発とモデル事業の推進にとりくむ企画担当。
昨年6月にオープンした、東京国立博物館〈トーハク〉本館特別3室「日本美術のとびら」は、企画担当がこれまで開発してきた文化財の複製や映像等を活用した新感覚の体験型展示スペースです。


トーハク 本館特別3室「日本美術のとびら」展示室風景

(旭) 新型コロナウイルス感染症が終息をみない状況の中で、ウィズ・コロナを念頭に〈ぶんかつ〉は企画を展開してきました。そのなかで「日本美術のとびら」がトーハクの総合文化展(常設展)にできたことは、ひとつ集大成といえるでしょう。

「日本美術のとびら」は、ずっと同じ展示内容ではなく、季節にあわせて日本美術の名品の複製を展示替えしています。この4月にはトーハクの入館にあたって事前予約が不要になりました。トーハクに来たお客さまに、まずはじめに訪れてほしい!受け継がれてきた文化財のすばらしさを体感していただきたい!という思いがあります。

昨年9月から11月にかけてトーハク表慶館で開催した展覧会「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」は、乃木坂46と日本の文化、我々が生きる日常、自然とが、地続きの存在であることを実感していただければという試みでした。アンケートでは、来場者の約40%が20代の方であり、また約70%の来場者が「トーハクにはじめて訪れた」と回答しています。

(旭) 過去のものが古い、今どきのものが新しいというわけではなく、誰かが懸命に表現しているものを、文化財と掛けあわせたらどのようになるか。そう考えて乃木坂展を企画しました。

また、ミュージアムを利用する機会が少ない方々へアプローチするという〈ぶんかつ〉のミッションにのっとった展開ともいえます。アンケートをみても非常に好評いただいたことがわかります。新しい形の日本美術の鑑賞ができたと。

お客さまは、乃木坂46だけを見にきたのではなく、日本美術をふくめたこの展示空間を、自分なりの見方で楽しんでいました。いい意味で狙いや期待とは違う、収穫がありました。この成果は次の展開にも活かせると思います。

企画担当が開発したデジタルコンテンツは、トーハクだけではなく、各地域でも利活用いただいています。トーハク×びじゅチューン!「なりきり日本美術館」のコンテンツの一部は、昨年、大分や山口を巡回しました。また、文化庁受託事業「地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト)」において〈ぶんかつ〉の提案が採択され、愛知、宮崎、新潟など4館のミュージアムにコンテンツを提供しています。

(丸山) 我々学芸員は展示で伝えたいことがたくさんあるんですが、そのツールはいつも限られてしまうという感覚でした。これまで企業側から学芸員に新しい技術の売り込みはあったのですが、手を組んで実現することはほとんどありませんでした。その点、企画担当では企業との連携でさまざまな技術を展示に応用できるコンテンツをつくれるわけですね。さらに、企画担当が開発したコンテンツをどうやって活用、応用していくか、地域への展開もふくめてよく検討したいですね。

文化財の複製を用いて、全国各地の子どもたちが文化財に親しむための出張授業を行なう〈ぶんかつ〉アウトリーチプログラムは、今年で開始から4年目を迎えました。昨年度は10校の小中高等学校のほか、教員研修やミュージアムのワークショップで利用がありました。

(丸山) 〈ぶんかつ〉がトーハク以外のところでどんな活動をしているか、という部分はみえにくいところでしたが、アウトリーチプログラムは大きな成果をあげています。

(旭) アウトリーチも今年で4年目。昨年度はコロナの感染拡大の状況によって中止せざるを得ない状況もありました。しかし、いろいろなところからお声がかかるようになってきたということを実感しています。

企画担当はこの秋、トーハク150周年を記念する特別企画として「未来の博物館」を、それから来年の年明けには「デジタル法隆寺宝物館」という常設展示コーナーを設置する予定です。

デジタルコンテンツを制作することも、ある意味〈ぶんかつ〉とトーハクだからできることです。しかし、ただ作っただけじゃなくて地域への展開がないと、続かないと思っています。一過性の展示イベントではなく、その次にどういう風に地域に使ってもらうか、応用してもらうか、ということを考えています。

貸与促進担当―志のあるミュージアムと一緒に―

各地のミュージアムに、国立文化財機構の施設である東京、京都、奈良、九州の4つの国立博物館の収蔵品をお貸し出しする「国立博物館収蔵品貸与促進事業」にとりくむ貸与促進担当。国立文化財機構の収蔵品を自らの施設で展示するだけでなく、外部のミュージアムにも貸与することで、各地の展覧会に協力しています。


佐賀県立美術館「白馬、翔びたつ―黒田清輝と岡田三郎助―」展示室風景

(旭) 令和3年度からトーハクだけではなく国立文化財機構4館の収蔵品がお貸し出しの対象となりました。わたしも昨年、福島と佐賀で開催された貸与促進事業の展覧会にいきましたが、地域のミュージアムだけではできなかった企画(展覧会)ができて、ありがたかったという声を直接いただいています。この事業の目的である日本の歴史や伝統文化の発信、地方創生に貢献しているという実感があります。

「国立博物館収蔵品貸与促進事業」では文化財のお貸し出しと、それにかかる作品輸送費等も支出します。また一部の対象館には交通広告等の広報支援も行なっています。

(旭) 予算の問題でふだん展覧会の周知までは行き届かないというミュージアムもあるでしょう。この事業ではそういうところも含めて支援しています。

「国立博物館収蔵品貸与促進事業」には、文化庁長官の承認を受けた公開承認施設及び博物館法で定められた登録博物館、博物館相当施設であれば、公私立を問わずにご応募いただけます。

(旭) 令和3年度からは私立のミュージアムからの応募も可能になりました。どこのミュージアムも、マンパワーや予算、そして所蔵作品数も限られた中でやっています。しかし、文化財も動かせば保存の観点からはリスクになります。文化財も生身、バランスをとりながら、留意しながらやってかなければいけません。

「国立博物館収蔵品貸与促進事業」への申請にあたって、借用希望作品リストを作成いただきます。ミュージアムが自ら設定したテーマに沿って文化財を選択して貸し出し希望の作品リストをつくる方法以外に、【日本考古】や【黒田清輝作品】については、あらかじめ貸し出し可能な文化財を一覧にした「貸与可能作品リスト」も提示しています。


丸山副センター長の専門分野は彫刻です。最近では特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」(2021年東京国立博物館にて開催)を担当しました

(丸山) 「貸与可能作品リスト」を利用することで、さらに質の高い企画(展覧会)になるという良い循環がうまれるといいですね。貸与促進事業では今後、彫刻(仏像)分野の貸し出し可能作品リストを提示することも考えています。

(旭) それは素晴らしいです。ぜひやりましょう。志のある地域のミュージアムと一緒になってやっていくことが大切です。貸与促進事業は今後も拡大して取り組んでいきます。

〈ぶんかつ〉4年目の歩みを振り返る本ブログ、前編では企画、貸与促進についてお送りしました。
来週公開予定の後編では、保存、デジタル資源、総務担当(ファンドレイジング)についてお届けします。お楽しみに!

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カテゴリ: ぶんかつとは