ぶんかつブログ

ぶんかつ4年目の歩みと今後の展望(後編)

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は今年2022年7月、設立から4周年を迎えました。
〈ぶんかつ〉4年目の歩みを振り返る本ブログ、先週公開の前編では企画、貸与促進についてお送りしました。
後編では、保存、デジタル資源、総務担当(ファンドレイジング)について、センター長を務める旭充と副センター長の丸山士郎が語ります。

保存担当―奇をてらわず、一歩一歩着実に―

各地のミュージアムにおける文化財の展示・収蔵環境に関する相談を随時受け付け、適切な助言や支援を行なう保存担当。昨年度は229 件の保存環境に関する相談対応、調査協力をしました。

(旭) 各地のミュージアムは文化財の展示や保存環境に関するさまざまな問題に頭を悩ませています。収蔵庫の問題、指定品を展示するための課題、近年はコロナ対策と文化財の保存との並立などもあります。ただ、そういう悩みや状況改善にむけて、〈ぶんかつ〉保存担当に相談すればいい、ということがだいぶ認知されてきたことは対応件数が示すとおりです。いずれにしても保存担当は、奇をてらわず、一歩一歩着実に、こうした成果を積み重ねていくことが肝心です。

保存担当は保存環境に関する研修会の開催など、文化財保存の知識のある人材の育成にも取り組んでいます。「博物館・美術館等保存担当学芸員研修(基礎コース)」を毎年開催、また環境調査や管理に関する深い知識を学ぶ「保存環境調査・管理に関する講習会」も行ないました。


博物館・美術館等保存担当学芸員研修(基礎コース)の様子

(旭) 文化財の保存環境に関する研修や講習会は、昨年度はコロナのこともあり、少ない人数の開催とせざるを得なかったのですが、定員を上回る多くの応募がありました。

(丸山) それだけ文化財の保存環境について、学ぶ場が少ないということですね。

(旭) できるだけ多くの方が文化財の保存について学ぶ場を提供したいですね。たとえば2019年に企画担当が複製品の活用について、2021年に総務担当がミュージアムをめぐるファンドレイジングというテーマでシンポジウムを開催したように、次は保存担当が文化財保存をテーマに〈ぶんかつ〉公開シンポジウムを開催するというのも一案です。

デジタル資源担当―データベースを使う側の利便性を高める―

国立文化財機構の各施設で公開してきた文化財にかかわるテキストや画像といった情報を連携させ、データベースを統合的に運用するデジタル資源担当。昨年度は、e国宝(国立文化財機構所蔵 国宝・重要文化財 デジタル高精細画像)が、画像相互利用の国際規格であるIIIF(International Image Interoperability Framework)に対応しました。また、ColBase(コルベース/国立文化財機構所蔵品統合検索システム)には約2万7千枚の画像を追加するなど、文化財の情報の利活用を促進しています。


e国宝トップページ

(旭) 海外のミュージアムにおける画像などデジタル資源の公開数を考えても、ColBaseの充実は急務といえます。しかしデータベースの充実といっても、これをやったからデータ登録数が飛躍的に伸びるという分野ではないことも承知しています。

(丸山) デジタル資源の充実に関しては、コツコツでは時間がかかりすぎます。なにか一気にできる手立てを考えないといけませんね。

(旭) 一気に加速するためには、それなりに予算がかかるということも聞いています。そういう予算の確保などの手立てを我々でなんとかしたいですね。これまでデジタル資源担当が取り組んできたように、データベースを使う側の利便性も高めていきたいです。


丸山副センター長は博物館情報課にも在籍していたデジタル通。非破壊で文化財の内部を見るⅩ線CT装置を駆使して得たデータの分析に勤しみ、一喜一憂する日々です。めざせ、彫刻史上の大発見。

▷1089ブログ「聖林寺 国宝 十一面観音菩薩像のCT調査」の記事を読む

デジタル資源担当の発案で、データベースを利用した日本・東洋美術の楽しみ方を〈ぶんかつ〉ブログで紹介しています。子どもから大人まで人気のあるNintendo Switchのゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」(以下、「あつ森」)について、ColBaseにある画像データを使った遊び方を紹介する連載記事で、昨年までで計4本の〈ぶんかつ〉ブログを公開しました。

(旭) いまある材料(データベース)を使って、こんなこともできますよ、という提案は素晴らしいと思います。このあつ森企画のような、デジタルデータ活用の方法を楽しく示す事例は、今後もどんどん展開していきたいです。

総務担当(ファンドレイジング)―なんのためにやるのか、寄附する方にわかりやすく―

企業、各種団体、および広く個人を対象に、文化財の継承を目的としたファンドレイジング活動にとりくむ総務担当。多くの人が文化財に親しみをもつとともに、文化財の保存と活用に参画する機会を創出しています。昨年末をもって寄附の受入を終了した〈冬木小袖〉修理プロジェクトでは、多くの方にご支援いただき、目標金額1,500万円を上回る16,451,470円ものご寄附を頂戴しました。

(旭) 2019年度に総務担当に設けられたファンドレイジングのチームとともに、多くの人に文化財に親しんでもらうひとつの手段として、修理のための寄附をつのるプロジェクトを進めてまいりました。ここで見習うべき例として以前、薬師寺の写経勧進の話をしました。そこで集められたお金は伽藍の復興に使われるそうですが、参加した方は、薬師寺を身近な存在として感じられ、長く見守ってもらえます。

(丸山) つい先日は法隆寺がファンドレイジング活動を開始するということで、大きな注目を集めましたね。

(旭) 法隆寺のファンドレイジング活動に多くの寄附が集まっているように、もともと日本人には、お金を出しあって、お互い助け合おうという心があると思います。義理ではなく、自分の納得する形だったら寄附をしようと。ありがたいことに、〈冬木小袖〉修理プロジェクトも当初の想定より早く目標金額を達成し、寄附をつうじて多くの方に関わっていただきました。

ミュージアムを取り巻く状況は、コロナの影響で活動が制限され、昨今大きく変化しています。運営維持や施設改修等をクラウドファンディングで実現させようとする動きが活発化しており、ファンドレイジング事業は、いまや多くのミュージアムが関心を持ち、課題を抱えるテーマです。その議論に資することが出来ればと〈ぶんかつ〉総務担当は今年2月、公開シンポジウム「ミュージアムをめぐるファンドレイジング」をオンラインで開催しました。


公開シンポジウム配信会場の様子

(旭) シンポジウムでも話題にあがったように、ただお金を集めればいいというのではありません。なんのためにやるのかということを、プロジェクトを立ち上げる側としても、寄附をする方にわかりやすいようによくよく議論した上でファンドレイジング事業を立ち上げることが大事だと思っています。

今年4月から、トーハクと共同で踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクトがはじまりました。文化財の修理をきっかけに、ひとりでも多くの方と一緒に文化財をつないでいきたいという思いがあります。皆様のご支援を、どうぞよろしくお願いいたします。

〈ぶんかつ〉5年目にむけて

(旭) 〈ぶんかつ〉は、文化財の保存と活用の両立に留意しながら、多くの人に文化財を通して豊かな体験と学びを得る機会を提供する、ということを意識してさまざまな活動を行なってきました。

〈ぶんかつ〉の事業や実績がふえて活動の幅が広がるにつれ、地域のミュージアムとのかかわり、それから企業団体との連携も広がっていっている、そんな実感があります。

(丸山) わたしは企業団体がもっている新しい技術や方法を、文化財の展示とどうからめていくか、ということに興味があります。彫刻(仏像)のような立体を、デジタルで扱うのは難しい課題なのですが。それから我々が開発したものをどうやって活用していくか、ということもふくめて今後の展開を考えたいです。

(旭) 企画やデジタル分野で経験豊富な丸山副センター長という新たなメンバーを迎えて、頼もしいかぎりです。本当に〈ぶんかつ〉にぴったりの方が来てくださったと思います。ぜひ丸山さんが率先して彫刻のあらたなコンテンツを作ってほしいですね。

〈ぶんかつ〉のスタッフ皆のおかげで、やるべきことも見えてきました。文化財を「つなぐ」ということは、人がつないでいくということ。つなぐ人材、つなぐ組織を、皆さんと一緒に、ひきつづき支えていきたいと思います。

トーハクだけではない国立文化財機構の、文化財活用の中核となる〈ぶんかつ〉に、また全国のミュージアムにとっても、頼れる〈ぶんかつ〉に。そういう流れをつくっていくという覚悟です。

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