ぶんかつブログ

「あつ森」で考える、ゲームの学術的な可能性

「あつまれ どうぶつの森」の世界でも、秋が深まってきました。木を揺らしてどんぐりを拾う日々です。
フータ(研究者のフクロウ)の博物館に、新たにハトのマスターの喫茶店ができることになりましたね。マスターの喫茶店でコーヒーを飲めるのが楽しみです。

今回は、「あつ森」でゲーム×学問の少し真面目な話をしたいと思います。

・はじめに
みなさんは、人文情報学(デジタル・ヒューマニティーズ)という学問を聞いたことはありますか?
ごく簡単に説明すると、人文学(文学・歴史学・芸術学など、人間と文化を研究する学問)に情報学(情報技術や情報の仕組みを研究する学問)の技法や技術を応用する、新しい学問領域です。

文化財活用センターが提供している「ColBase」[https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja]や「e国宝」[https://emuseum.nich.go.jp/]などのデジタルアーカイブ(データベースなど)も、人文情報学の重要な成果のひとつです。

その他、国立文化財機構の各施設が公開しているデータベース一覧
▷国立文化財機構データベース

文化財の情報をデジタルで簡単に参照できることは、人文学研究のインフラとして近年重要視され、さまざまなデータベースが世界中で公開されています。

・「あつ森」と人文情報学(デジタルヒューマニティーズ)
そんな人文情報学の中で、「あつ森」が注目を集めているのをご存じでしょうか?

アメリカにあるスタンフォード大学のQuinn Dombrowskiさんとアリゾナ州立大学のLiz Grumbachさんが中心となってAnimal Crossing: New Digital Humanitiesという興味深い活動をされています。

Animal Crossing: New Digital Humanities [https://digitalhumanities.stanford.edu/acndh]

Animal Crossing: New Digital Humanities(以下ACNDigHum)は、「あつまれ どうぶつの森」の英語タイトル「Animal Crossing: New Horizon」をもじったプロジェクト名です。日本語で言うと「新しい人文情報学をしようよ どうぶつの森」といったところでしょうか。

ACNDigHumは、昨年コロナ禍で物理的に世界中の人とコミュニケーションをとることが難しくなったことがきっかけで誕生したプロジェクトで、その名の通り「あつ森」を会場として使用し、人文情報学について研究発表や議論を行なっています。
具体的には、これまで東アジア研究、オスマントルコ文字の自動翻刻システム、中世の写本などの研究会があり、今後もデータ管理や人種差別、ジェンダーなどさまざまなテーマで開催される予定です。
斬新で楽しい方法での研究会に興味を持った学生、人文情報学研究者、図書館員などがACNDigHumに参加しているようです。


東アジア研究についての研究発表をみんなで聞く様子

ACNDigHumでは、「あつ森」をプレイしている人はゲーム内の飛行場が発行するワンタイムパスワードを使って会場となった島に飛行機で遊びに行くことができます。そこには会議場のような、あるいはその会のテーマに沿った飾り付けがされていて、島の中を自由に歩き回ることができます。
また、その様子はオンラインで配信されているので、Nintendo Switchを持っていない人でも気軽にその様子を見ながら研究会に参加することができます。


研究会の後の懇親会も「あつ森」で

コロナ禍にあって、会議はZoomなどオンラインで行なえるようになりましたが、顔の映像と音声のみのコミュニケーションとなり、現実世界でのコミュニケーションのあり方を完全に再現しているわけではありません。また、プライバシーの観点から顔を映したくないという方もおられるでしょう。

そこで、ゲーム自体が現実世界のシミュレーションであること、またコロナ禍が始まりつつあった2020年3月に発売された「あつ森」が、twitter上で人文情報学の研究者の間で話題になったことにヒントを得てこのようなプロジェクトが発足したそうです。

「あつ森」なら、自分の好きなようにアバター(ゲーム上のキャラクター)を作ることができ、島をさまざまなもので飾り付けて、独自の世界を作り上げることもできます。このような「あつ森」のカスタマイズ性の高さ、探求心や創造力を育む仕組み、そして平和でのんびりとした世界観は、文化・教育と相性がいいと言えるでしょう。


マイデザイン機能で作られた中世写本の上で、中世写本の研究会をする人々

例えば西洋の中世写本の研究者が発表する会では、マイデザイン機能でさまざまな中世写本のモティーフを作成したり、中世の物語の場面を再現した場所を設置して、それらについて詳しく解説することで中世写本に対する理解を深めることが試みられました。ただ画面を見るだけでなく、一つのデジタル空間に入り込んで文化財の楽しさを皆で共有できることは、「あつ森」ならではの体験と言えるでしょう。


中世アーサー王物語『ガウェイン卿と緑の騎士』に登場する「緑の礼拝堂」を再現した場所で

このようにACNDigHumでは、Zoomでの研究会とは一味違った楽しくクリエイティブな研究発表が行なわれており、プラットフォームが人間の思考に与える影響についても考えさせられます。

・日本での「あつ森」×人文情報学
また、「あつ森」は、日本の人文情報学研究者からも注目されています。 もうすぐ「あつ森」を使ってミュージアムコレクションの活用について考えるイベントが開催されるようです。
ご興味のある方は、チェックしてみてはいかがでしょうか。

「あつ森で語ろう! 農工大×AMANE×女子美コラボイベント − 大学博物館・美術館所蔵コレクションの新たな活用の可能性 −」
[https://www.facebook.com/events/1020433365381228??ti=ia]

日時:2021年10月25日(月)13:00〜16:00
zoom・YouTube配信によるオンライン開催

・さいごに
ACNDigHumのような「あつ森」の使い方を見ると、ゲームはもはや単なる「遊び」ではなく、「学び」にとっても重要な役割を担い得ることがわかります。

文化財活用センターでは、来たるデジタル時代でも文化財を楽しく学んでいただけるよう、ColBaseやe国宝のようなデータベースをさらに充実させてまいります。

今後も「あつ森」で文化財の魅力を伝える記事をたびたびお届けいたしますので、どうぞお楽しみに!

Animal Crossing: New Digital Humanitiesに関する情報
ウェブサイト [https://digitalhumanities.stanford.edu/acndh]
Twitch [https://www.twitch.tv/acndighum](研究会の様子はこちらで配信されます)
Twitter @ACNDigHum [https://twitter.com/acndighum]

 

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カテゴリ: 文化財の情報