〈冬木小袖〉修理レポート・7【修理完了】
尾形光琳が秋草模様を描いたきもの、〈冬木小袖〉を皆様のちからで未来につなぐ、〈冬木小袖〉修理プロジェクト。シリーズで文化財修理が進む様子をレポートしています。
前回の番外編でもお伝えしましたが、2年3か月の長きにわたる〈冬木小袖〉の修理もいよいよ完了。
3月末、修理工房内で東京国立博物館(トーハク)に輸送される前の最終確認が行なわれました。
修理作業については進行の都度、確認をしてきていますが、衣桁(いこう)に掛けて展示することを想定し、無理な負担が生じている部分がないか、再度チェックを行ないます。
裾の部分に薄く入れられていた綿も今回の修理で入れ替えられました
今回の修理において、一つのポイントとなっていたのが、秋草の絵画表現上にかかる補修糸の縫い目。
▷関連ブログ「〈冬木小袖〉修理レポート・3【補修作業】」の記事を読む
この機会にあらためて確認させていただこうとしたのですが…「あれ?新しい補修糸ってどこに入ったんでしたっけ?」と探す結果に。
緯糸の欠損が多い部分には、作品を安全に保存するためにどうしても外すことのできなかった古い補修糸も残っていますが、安全性と両立しながら尾形光琳が描いた秋草をこれほどクリアな状態で鑑賞する修理が実現したことにあらためて驚きを感じました。
修理技術者の方からは、平織に比べて経緯糸の交差点が少ない綾織の補修は難しく、特に欠損部の生地端部分では補修糸で留められていた綾地の緯糸がふわっとなくなってしまいそうな怖さを感じていたというお話も伺いました。
また、旧修理は全く補修のない非常に不安定なところから柄を合わせつつ行なう気の遠くなる作業であったはずで、「細やかに通された補修糸に『このきものを何とか残したい』という想いを感じた」、ともおっしゃっておられました。
さて、作品のチェックが終われば〈冬木小袖〉の修理は完了。と思いきや、もう一つ大事な確認が残っています。
それは、作品の保管方法。作品をいかに負担のかからない形で保管していくのか、修理が完了した瞬間から次の世代に伝えるための準備が既に始まっているのです。
前回の番外編の記事と一部重複しますが、保管のために作られた箱や道具には、さまざまなリスクに配慮した工夫がてんこ盛り。今回はその内容をもう少しクローズアップしてみてみましょう。
まずは作品をできるだけ動かさずに収納箱に出し入れできるしっかりとした台紙。
これも前回の番外編でご紹介しましたが、トーハクでは通常、きものは折りたたんで収蔵されていることが多いところ、今回〈冬木小袖〉は折り畳みによる負担を軽減するため、袖のみを折り畳んだ状態で保管することになりました。保存箱やこの台紙もその形状に合わせたサイズとなっています。
台紙の上に寝かせていれば、安定した形のままで保存箱からの出し入れが可能。展示作業に伴う作品への負担をさらに軽減することができる、というわけです。
快適なベッド、もとい台紙
台紙は箱に直接接触しないように〈冬木小袖〉を包む白布とセットになっていますが、〈冬木小袖〉よりも少し大きめに作られ、白布と台紙の折り返し部分で作品が圧迫されることがないようになっています。
作品よりも少し大きめに作られています
白布の縁は作品と擦れないように縫い目が外
折り畳む際に折れ山が深くなる恐れがある袖や衿などの部分には、専用の枕が用意されました。
こちらは衿用の枕
研究員からのリクエストで使用する際の向きが刺繍で示されています
こちらは袖用の枕
衿にあたる部分は凹ませてあります
そして、最終的に入るのが保存箱。
保存環境によっては桐箱が選択される場合もあるそうですが、今回は温湿度環境が整った博物館の収蔵庫内での保管ということを踏まえて、中性紙製の箱になりました。
保存箱は上げ底。今回の修理前の裏地などが一緒に保管できるようになっています
修理作業の中でも常に感じられた、作品への負担を少しでも減らすための工夫がここでも存分に発揮され、今後も〈冬木小袖〉を守ってくれる。こんなに頼もしいことはありません。
これで本当に修理は完了。〈冬木小袖〉はトーハクへと輸送され、収蔵庫の中で公開を待つことになります。2年3か月にわたる修理作業、ありがとうございました。
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たくさんの人の手で守り伝えられてきた〈冬木小袖〉が、皆様のご支援と素晴らしい修理を経て、また次の世代へと大切に伝えられていく、その光景に立ち会えたことを大変光栄に思います。
長きにわたりお付き合いをいただきましたこのレポートも今回で終了となりますが、引き続きトーハクおよび文化財活用センター〈ぶんかつ〉の活動を見守っていただけましたら幸いです。
〈冬木小袖〉修理プロジェクトの開始から3年余り、いよいよ成果であるお披露目を待つばかりとなりました!
修理後初のお披露目は、描かれている秋草の季節、2023年10月3日~12月3日。東京国立博物館本館10室で公開されます。
多くの方のご支援で実現した〈冬木小袖〉の修理。その成果をぜひ展示室でご覧いただければと思います。 皆様のご来館、お待ちしています。
過去の〈冬木小袖〉修理レポートもどうぞご覧ください。
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- 2023年04月20日 (木)