ぶんかつブログ

ヘビを自在に動かしてみた

あけましておめでとうございます。2025年は巳年。ヘビは脱皮して成長することから、巳年には新しい挑戦の年というイメージもあるのだとか。なんだかワクワクしますね。
ところで、みなさんは覚えていらっしゃいますでしょうか。1年前に私が「ヘビを自在に動かしたい」とお話ししたことを…。

▷▷「ヘビを自在に動かしたい」のブログ記事を読む

何のことやら?という方のために少しおさらい。
ヘビやカマキリ、コイ、タカ、龍などの生き物を金属で写実的に表し、その頭や胴、手足などを自由自在に動かせるものを「自在置物(じざいおきもの)」と呼びます(略して「自在」とも)。熱した金属を鎚(つち)で叩いて形を整える「鍛造(たんぞう)」という技術でつくられたパーツを組み合わせ、鋲(びょう)などで留めて全体ができています。

自由自在に動かせるので「自在置物」。そう聞いたら、動いている様子を見てみたくなりませんか?
そういうわけで、私たちは2022年から“ヘビを自在に動かしたい”プロジェクトに取り組んでいます。はじめに「自在蛇置物」(東京国立博物館所蔵)の複製づくりから挑戦がはじまりました。
その様子をつづった前回のブログで「改良版の制作を進めています」と書いて以来、ヘビのように息をひそめていた本プロジェクトですが、実はひっそりと進行しておりました。まずは、改良版の複製をご覧ください。


自在蛇置物複製 2023年(着色は2024年)
株式会社SELECT D(3Dデータ作成)、協栄産業株式会社(造形)、株式会社 トリアド工房(着色)


プロトタイプ版の複製(2022年)

改良版の複製(2023年)

 

2022年に制作したプロトタイプ版と比較すると、外見も、とぐろを巻いたときのしなやかさも、 進化したことがお分かりいただけるのではないでしょうか。どんなところが変わったのか、簡単にご紹介します。

・可動性の向上
プロトタイプ版はなるべく実物と同じ形状・構造になるよう3Dデータを作成しましたが、可動性に課題が残りました(構造の詳細は前回のブログをご覧ください)。改良版では実物のなめらかな動きに少しでも近づけるべく、3Dデータを修正しました。
動きを妨げている 原因として、複製の強度を保つために各パーツの内側に少し厚みをつけていること、出力時にくっついてしまった部分があること、実物に比べて表面がざらついていることなどが考えられるため、改良版では鱗パーツの穴(パーツ同士をつなぐピンを通すためのもの)の形状を楕円形に変更して少し大きくするとともに、ピン穴側の角を少し削りました。また、一直線に通ったピンの中央部分をきれいに出力するのが難しいことから、構造的に不要なピンの中央部分は削除しました。
頭部の出力方法も変更しました。プロトタイプ版では実物の構造にあわせて上下のあごを別々に出力してからピンで留める方法で制作しましたが、ピンが外れやすいため、改良版では一体で出力しました。


プロトタイプ版の鱗パーツ3Dデータ

改良版の鱗パーツ3Dデータ

 

・造形後の着色
「自在蛇置物」のからだは深い茶色、目は金色です。実物は鉄鍛造でつくられていますが、おそらく錆(さび)止めに漆を塗っているのでしょう。一方、金属3Dプリントで造形した複製はメタリックな銀色で、かたちは同じでも実物とは印象が異なります。外見を実物に近づけるために、可動性に影響しない造形後の着色方法を検討し、ラッカー塗料をスプレーして吹き付ける方法を採用しました。


検討過程では酸化発色も試みましたが、発色する部分と発色しない部分があり、さまざまな色が出るという結果に。着色には失敗したものの、おもしろいですね。

さて次は、この複製をどう動かすか、です。
もちろん自在を手に取って動かすのも楽しいですが、私たちにはプロジェクト開始当初から叶えたい目標がありました。ずばり“生きているように”動かすこと。体をくねらせたり、とぐろを巻いたり、自在置物の中でも特になめらかに動かすことができるのが、自在蛇の大きな魅力のひとつです。きっと本物のヘビに負けず劣らず、にょろにょろと動けるにちがいない…!そう確信し、自在蛇が歩く(?)ための装置をつくりました。自在がひとりでに動いているように見えてほしいので、動かす仕掛けが極力おもてに出ないよう工夫しました。自在の動きに関しては国立科学博物館の吉川夏彦先生にもアドバイスをいただき、ヘビらしい自然な蛇行を目指しました。


この装置をつくったのはnomenaのみなさん。蛇行の大きさや速さなど、動きを細かに調整してくださいました。


自在蛇は口も開閉することができます。吉川先生によれば、本物のヘビが、食べたり、敵にかみついたりするとき以外に口を開けるのはあくびをするときなどで、蛇行しながら口を開けることはしない のだそうです。

それではいよいよ、自在蛇が動く姿をみなさんにご覧いただきましょう。
動く複製は、東京国立博物館で開催中の特集「博物館に初もうで ―ヘビ~なパワ~を巳(み)たいの蛇(じゃ)!―」にて展示しています(本館特別2室、~1月26日まで)。

動く様子はこちら(ぶんかつXへ)
https://x.com/cpcp_nich/status/1874651838508577252

実際に動く様子はぜひ、展示室 でご覧ください。同じ部屋に展示されているホンモノの自在蛇置物もお見逃しなく!

最後にもうひとつ、みなさんに予告があります。この動く複製展示は、国立科学博物館とのコラボレーションにより、さらにパワーアップいたします!

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、国立科学博物館と共同し、全国各地のミュージアムに出張できる巡回展示キット の開発を進めています。生きているヘビはどのように動くのか?自在ではその動きをどうやって 再現しているか?など、科学と美術それぞれの視点で観察しながら“ヘビの動き”に迫る展示です。2025年度の完成を目指して鋭意制作中。ご期待ください。

特集 博物館に初もうで ―ヘビ~なパワ~を巳(み)たいの蛇(じゃ)!―

会期 2025年1月2日(木)~1月26日(日)

会場 東京国立博物館 本館 特別1室・特別2室

開館時間 9:30~17:00、金・土曜日は20:00まで(入館は閉館の30分前まで)

休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)

観覧料 総合文化展観覧料(一般1,000円、大学生500円)もしくは開催中の特別展観覧料[観覧当日に限る]でご覧いただけます。

詳細は東京国立博物館ウェブサイトをご確認ください。https://www.tnm.jp//

 

カテゴリ: 複製の活用