ぶんかつブログ

弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作(後編)

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、先端技術を用いて国立博物館の収蔵品の複製やデジタルコンテンツを開発し、それらを活用する活動を行なっています。
前回に引き続き、九州国立博物館(きゅーはく)が2022年度に制作した「四区袈裟襷文銅鐸」の復元模造についてご紹介します。


左:四区袈裟襷文銅鐸(J271) 右:六区袈裟襷文銅鐸(J272)

きゅーはくでは、大きさがほとんど同じなのに、重さが全く違う2つの銅鐸を所蔵しています。
ひとつは、四区袈裟襷文銅鐸(よんくけさだすきもんどうたく)(J271)で、重さ5.5kg。もうひとつは、六区袈裟襷文銅鐸(ろっくけさだすきもんどうたく)(J272)で、四区袈裟襷文銅鐸と大きさはほぼ変わらないのですが、重さは約2kgと、四区袈裟襷文銅鐸の半分以下です。

2つのよく似た銅鐸の重さに2倍以上の差がある原因は、銅鐸の厚みが異なることでした。
これは、銅鐸をつくる際に用いる鋳型(いがた)の材料が、石製か土製かの違いによるもので、この差は「鳴らす銅鐸」から「飾る銅鐸」への変化と対応している、ということを「前編」でお話ししました。
この違いをわかりやすく展示でご紹介するために、2種類の復元模造をつくろうという取り組みをはじめました。

▷関連ブログ「弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作(前編)」の記事を読む

2種類の方法で銅鐸を復元する、というのはかなりおおがかりな事業です。このため、2022年度はまず、石製鋳型を用いた銅鐸の復元に取り組むこととしました。すなわち、四区袈裟襷文銅鐸(J271)の復元製作です。今回は、過去に幾度も銅鐸の複製品製作を成功させている、京都府の和銅寛という鋳造工房にお願いすることにしました。

石製鋳型による銅鐸の鋳造(ちゅうぞう)工程は、大きく、以下のような流れとなります。
1. 鋳型の外型となる石材の採取。
2. 外型の彫り込み。
3. 中子(なかご)の製作。
4. 鋳型の焼き上げ処理。
5. 鋳型の組み上げ。
6. 溶けた青銅(湯)の流し込み(鋳込み)。
7. 鋳型の取り外し、製品の取り出し。
8. バリ外し、磨き。

順に見ていきましょう。

1.鋳型の外型となる石材の採取
鋳型の石材は、できるだけ均質できめが細かく、細かい文様が彫れる程度に軟らかく、そして高温に強い、という性質を併せ持つものを選ぶことが重要です。近畿地方で多く出土する銅鐸の石製鋳型の多くは凝灰質砂岩、特に兵庫県六甲山地で採れる神戸層群の堆積岩が多く用いられています。北部九州で多く出土する武器形青銅器の鋳型のほとんどは、福岡県矢部川流域の石英長石斑岩が用いられています。弥生人たちは、鋳型に適した石材をよく知っていて、強いこだわりを持って選んでいたと思われます。

今回も、当時用いられていた石材を使えればそれがよいのですが、残念ながらすでにこれらの石材を採取できる採石場がありません。そこで、きめが細かいこと、適度に軟らかいことを重視して、造園・建築用の石材で知られる兵庫県の竜山石(たつやまいし)を用いることにしました。


左:石切り場 右:切り出した石材

2.外型の彫り込み
外型の掘り込みは、鋳型に平坦な面を作って下書きしたのち、粗彫り、そして文様の彫り込みへと進んでいきます。弥生人たちはすべて手作業で行なっていたと考えられますが、現代人である私たちは、粗彫りを電動工具の恩恵を生かして効率的に進めることができます。一方文様の彫り込みは当時と同じく手作業で、実に地道な作業です。


粗彫りを終えた鋳型。今から手作業で文様を彫り込んでいく

3.中子の製作
銅鐸は内部が中空なため、外型のほかに中子という鋳型を作り、それを組み合わせて鋳造します。

中子は弥生時代を通じて、土や砂で作られます。中子の作り方は、次のとおり。まず外型ができたら、それをいったん組み合わせ、その内側に土を詰め込みます。

次に外型を外して、かたまった土を出します。これが中子の原形です。

さらに、銅が流れ込む厚さ分だけ、中子の外側を削っていきます。この時、すべてを削ってしまうのではなく、中子を均等に支えるためあえて削り残し部分を作ります。これを「型持ち」と呼びます。


削って一回り小さくなった中子。型持ち部は四角く削り残す。裾の舌が当たる部分は銅鐸の内側で帯状に突出させるために、溝を彫っておく。

4. 鋳型の焼き上げ処理
中子を乾燥させたら、外型とともに火にかけて加熱します。これにより、鋳型の中に含まれる水分をできるだけ蒸発させ、鋳造の際に生じるガスの量を低減させます。
これで、鋳型の準備作業はすべて終了。石材の入手からここまで約4か月。長い道のりでした…。

5. 鋳型の組み上げ
ようやく鋳込み作業に入ります。外型2つと中子1つを組み合わせて、ずれないようにしっかりと固定します。
固定した鋳型のセットは、湯を流し込むときに動かないよう、また流し込みやすい高さにするため、地面に穴を掘って埋め込みます。


左:鋳型を固定する。弥生時代には蔦(つた)やワラ縄などを使ったのだろうか。
右:地面に埋め込む。作業効率のほか、万が一(破裂など)に備える意味もあるという。

6. 溶けた青銅(湯)の流し込み(鋳込み)
いよいよ、溶けた青銅(湯)を鋳型に流し込みます。まず、流し込むための湯口を鋳型に取り付けます。そして、二つの湯口から、息を合わせて一気に湯を流し込みます!


湯口の取り付け


湯の流し込み。高温で溶けた青銅は中子より比重が重く、棒などでしっかりと押さえていないと、湯を流し込んだ際に中子が浮き上がるという。

7. 鋳型の取り外し、製品の取り出し
流し込んだ湯は1500度近くまで熱せられていましたが、鋳型に流し込むと一気に冷えて固まるので、それほど待たずに鋳型を外すことができます。5.~7.までの鋳込み作業はおおよそ半日。それまでの長い準備と比べて、あっという間です…。


左:流し込んだ直後は湯がまだ赤く輝いている。 右:すぐに冷えて黒く変色する。


型から外したばかりの銅鐸。バリや汚れがあちこちに見える。石型も一部破損した。

8. バリ外し・磨き
鋳型から取り出した製品は、まだバリ(湯がはみ出した部分)がついていたり、煤で汚れたりしています。これを丁寧に磨き上げることで、ようやく金色に輝く銅鐸が完成です。これもまた、地道な作業…。


完成した銅鐸の復元模造。弥生時代の輝きと音色が今によみがえった。

完成した復元銅鐸は、2023年8月8日(火)から、きゅーはくの4階文化交流展示室の第7室で開催される「~Touch the History~さわって体験 本物のひみつ」展で展示します。
▷「~Touch the History~さわって体験 本物のひみつ」展の概要を見る
https://www.kyuhaku.jp/exhibition/exhibition_pre185.html

ぜひ会場にお越しいただき、実際に持ちあげて重さを体感したり、振り鳴らして音を楽しんでみてください!

四区袈裟襷文銅鐸の復元の過程はこちらの動画でも紹介しています。ぜひご覧ください。
https://youtu.be/wqLlUjeyzhQ

今回の事業では、ただ復元銅鐸を製作するだけではなく、弥生時代における、石型を用いた銅鐸の鋳造が理解できるような復元を目指しました。つまり、模様が彫り込まれた鋳型や中子のほか、鋳造を終えて片方の型だけを外し、鋳型から取り出す前の状態の銅鐸なども製作しました。これらを実物とともに並べることで、触ったり鳴らしたりすることができない実物の音色を体感したり、銅鐸がどうやって作られたのかを学んだりすることができる展示になりました。

しかし、思い出してみてください。今回の復元製作の始まりは、石型で作られた四区袈裟襷文銅鐸(J271)と土型で作られた六区袈裟襷文銅鐸(J272)という、大きさがほとんど変わらないのに重さが倍以上異なる2つの銅鐸を、その理由を含めて体感しながら理解できる展示を実現する、というのが目標だったはずです…。

なんと!〈ぶんかつ〉による2023年度の複製品製作事業として、土型で製作された六区袈裟襷文銅鐸(J272)の複製品製作事業が採択されています!2023年度末の完成を目指して、こちらも頑張って進めていきますので、ご期待ください!

文化交流展示 ~Touch the History~さわって体験 本物のひみつ

展示期間 2023年8月8日(火)~10月1日(日)

会場 九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4-7-2)文化交流展示室 第7室

開館時間 9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)

観覧料 文化交流展(平常展)観覧料(一般700円、大学生350円)
※特別展のチケットで、文化交流展(平常展)もご覧いただけます。
その他詳細は九州国立博物館のサイトでご確認ください

九州国立博物館 公式サイト https://www.kyuhaku.jp/

カテゴリ: 複製の活用