ぶんかつブログ

沖縄でみる琉球展(2)―工芸の美と技が伝える想い

15世紀初頭に誕生し、19世紀後半まで約450年続いた琉球王国。日本や中国、東アジアとその周辺の国々をつなぐ交易をつうじて、琉球は各地の文化や技術を積極的に吸収し、それを独自の文化として昇華させていきます。琉球ではぐくまれた美の世界と、そこで暮らした人びとの歴史的な営みを紹介する展覧会「琉球-美とその背景-」が現在、沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)で開催中です。

本展覧会は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉の「国立博物館収蔵品貸与促進事業」により、東京国立博物館と九州国立博物館から計49件の文化財をお貸し出ししています。前回のブログにひきつづき本展覧会の見どころを、とくに琉球工芸の美と技に着目してご紹介します。
▷「琉球―美とその背景―」の開催概要を見る
▷関連ブログ「沖縄でみる琉球展(1)―文化財を次世代に伝えるために」の記事を読む

おきみゅー琉球展にて公開される文化財198件のうち46件を展示替・場面替して、先週11月8日火曜より後期展示がはじまりました。


(左)染分地遠山に椿柴垣梅桜菖蒲文様紅型木綿衣裳 第二尚氏時代 19世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵 
(右)浅葱地窓絵枝垂桜文様紅型苧麻衣裳 第二尚氏時代 19世紀 九州国立博物館蔵 ※ともに後期展示

第2章「琉球の美」より、琉球の豊かな織りと染めの美を紹介するこのコーナーは、すべての衣裳が展示替。前期展示をご覧になった方も、後期展示ではまたちがった琉球の染織の魅力に出会えます。

芭蕉(ばしょう)や苧麻(ちょま)、木綿(もめん)、絹といったさまざまな素材の持つ風合いや美しさが映える琉球の織物。琉球藍や福木(ふくぎ)、車輪梅といった琉球に自生する染料のほか、ときに他国との交流でもたらされた染料をつかい、あざやかな色合いに染めた糸をもちいて織り上げています。

後期展示の織物衣裳。手前は、経糸と横糸の水色の部分を少しずつずらしながら3種類の絣(かすり)模様をあらわした衣裳(那覇市歴史博物館蔵)。奥は、ピンク(朱)に先染めした芭蕉をベースとして、水色や白色の絹糸を経糸にもちいた縞模様の衣裳(沖縄県立博物館・美術館蔵)。あざやかに染めたこうした芭蕉布は「煮綛芭蕉(にーがしーばさー)」といい、士族の女性が着たものと考えられています。

そして中央の、華やかなタータンチェックの衣裳はいったい?!と一瞬で目を奪われる方は多いと思います。高貴な方、おそらく若い男性が身に着けたといわれるこの衣裳は、琉球王国における最高職を務めることもあった有力な士族、福地家に伝わったものです。チェック(格子)のなかの緑の部分は芭蕉、赤と黄の部分は木綿という、あざやかな色に染めた異なる素材の糸をもちいて織り上げています。


緑地黄赤格子芭蕉木綿衣裳 第二尚氏時代 18~19世紀 那覇市歴史博物館蔵 ※後期展示

芭蕉の糸で織られた緑の部分、よくみるとうっすら透けてみえるのがわかりますか?
芭蕉布は、琉球に自生するイトバショウ(糸芭蕉)の茎からとれる植物繊維を織った布です。軽やかで通気性がよい芭蕉布はかつて各島でさかんにつくられた、琉球で独自に発達した織物です。高貴な人から庶民にいたるまで、芭蕉布は琉球の人びとの生活のなかで愛用されてきました。

ただ、この衣裳にもちいられるような細く柔らかで上質な芭蕉糸は、原料となるイトバショウからごくわずかしかとれません。その繊維を細く裂いて、繋いで糸にするのにも熟練の技術を要します。さらにこの緑色は、黄檗(きはだ)と藍を重ねて染め出した色といわれています。これを織り出すのにかかる気の遠くなるような手間と時間、高度な技術に思いをはせつつ、琉球の手わざの凄みをぜひ会場でご覧ください。

芭蕉布の染織からもう1件。首里王府から神女(ノロ)に下賜されたという芭蕉布の衣裳「黒地香袋桜牡丹文様描絵芭蕉衣裳」(J.フロントリテイリング史料館蔵)も見逃せません。沖縄県内では初公開だそうです。会場では写真撮影不可ですが、トーハクブログに写真付きで掲載した記事があります。
▷関連ブログ「織の国、琉球」琉球染織の魅力は「織物」にあり!という小山さん(東京国立博物館工芸室長)の1089ブログ記事を読む

さて、琉球の染物といえば、あざやかな色づかいの絵模様が目に楽しい紅型(びんがた)です。
衣裳の紅型は、いくつもの型紙をつかって生地に糊を置き(防染)、顔料などで色差しをして模様をあらわした染物です。王都の首里を中心に紺屋という工房でつくられていたこの染物は、古くは形付(カタチキ)など呼称もさまざまでした。この字をあてて最初に「紅型」とあらわしたのは、沖縄文化研究に大きな足跡を残しのちに型絵染の人間国宝になった鎌倉芳太郎であり、大正14年(1925)の講演においてでした。


浅葱地窓絵枝垂桜文様紅型苧麻衣裳 第二尚氏時代 19世紀 九州国立博物館蔵 ※後期展示

この紅型衣裳の生地は苧麻。苧麻は、琉球に自生するイラクサ科の多年草・苧麻(カラムシ)の茎の表皮からとった繊維で作る麻織物で、首里王府に貢納されました。宮古島で作られる苧麻は「宮古上布」と呼ばれ、その技術は今日重要無形文化財に指定されています。

紅型特有の模様の色、おもに交易によってもたらされた顔料をつかっています。この紅型衣裳は生地の表裏、両面に模様を染めています。色差しした模様部分を糊で覆ったのち、地の水色部分は染料の藍で染めました。つまり模様のなかの白い部分が、染め残した生地の苧麻の色です。

この衣裳の模様にある枝垂桜(しだれざくら)、温暖な気候の沖縄では自生しないはずの枝垂桜が、紅型の模様にあしらわれています。不思議だと思いませんか?


染分地遠山に椿柴垣梅桜菖蒲文様紅型木綿衣裳 第二尚氏時代 19世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵 ※後期展示

これだけではなく隣の衣裳の雲形の枠のなかには、流水に燕子花(菖蒲)といった日本では王朝文学で親しまれたデザインや、遠山桜あるいは雪がふっている山…

そう、琉球の紅型にあらわされる模様は、日本で古くから好まれたデザインが多いのです。
こうした琉球にはない動植物を、どのように紅型の模様にとりいれていったのか。その疑問を解く鍵となる資料が隣に展示されています。

享保三年戊戌五月吉日銘絵手本 江戸時代 1718年 多良間村ふるさと民俗学習館 ※前後期場面替 ※右=前期/左=後期

この本は日本で出版されたもので、沖縄本島よりさらに南方の多良間島に古くから伝わってきたそうです。日本では17世紀中頃から、京や大坂、江戸などの都市部で版本の刊行がさかんになり、小袖模様雛形本といったきもののデザイン集も多くの種類が刊行されました。日本で刊行された絵手本や雛形本が琉球にもたらされ、デザインの参考にされたことがわかります。

ところで琉球の衣裳(琉服)の“かたち”に注目すると、日本のきもの(和服)とは違う仕立て方になっていることにお気づきでしょうか。


浅葱地窓絵枝垂桜文様紅型苧麻衣裳 第二尚氏時代 19世紀 九州国立博物館蔵 ※後期展示

たとえば袖口をみると広くあいていて(広袖)、衿(えり)は幅広く、外側に返しています。身頃はゆったりめで、和服でいう身八つ口部分には、三角形の襠(まち)がついています。和服の考え方でみていると、帯の位置はどうなってるの?などと思われるかもしれません。

なぜ琉服は、和服とちがう仕立て(かたち)になっているのでしょう。その答えになりそうな資料が、本展覧会の最終章に展示されています。

(左;参考)按司夫妻図 友寄喜恒筆 第二尚氏時代 19世紀 東京国立博物館蔵 ※展示されていません。
(中)琉球国奇観 江戸時代 19世紀 東京国立博物館蔵 ※前後期場面替
(右)古琉球風俗田舎娘「旅姿女人の図」 作者不詳 明治~大正時代 沖縄県立博物館・美術館蔵 ※全期間展示

琉球の人びとが琉服を身につけた様子を絵画でみてみると、それが和服の着方とは異なることがわかります。男性は帯を前結びにしているのに対し、女性は上着の上から帯をつけていません。ゆったり羽織って前を打ち合わせる「ウシンチー」などと呼ばれる着方をすることが一般的でした。展示された衣裳をみただけではわからない琉球の人びとの暮らしが、第3章「島の暮らしと祈りの世界」に展示されています。

ぶんかつ「国立博物館収蔵品貸与促進事業」により、東京国立博物館と九州国立博物館から文化財をお貸し出しした本展覧会は、先だって東京と九州で開催された特別展「琉球」の関連展でもあります。沖縄復帰50年の節目にあたり、東京・九州・沖縄それぞれの博物館の学芸員や多くの関係者が展覧会の開催に向けて力を合わせ、さまざまな調整を重ねてきたそうです。

「おきみゅーの琉球展は、これまで沖縄で公開される機会のなかった文化財をはじめ、沖縄の人たちにぜひ見てほしいというものを選りすぐりました。」
そう話してくれたのは本展覧会を担当した学芸員のひとり、篠原あかねさん。
篠原さんに、個人的にイチオシしたい作品をおしえていただきました。


焼締貼付文八角厨子甕 第二尚氏時代 康熙52年(1713)銘入り 個人蔵 沖縄県立博物館・美術館寄託

釉薬をかけずに焼き締めた陶製の厨子甕。首里王府は薩摩や福州の技術を取り入れながら、17世紀頃から陶業技術を発展させていきました。写真ではわかりづらいですが、高さ77.8㎝もある大きな厨子甕です。厨子甕とは琉球独自の蔵骨器、つまり骨壺です。近世の琉球では亡くなった方を風葬にして、数年後に洗骨して専用の蔵骨器に収める習慣がありました。

「厨子甕は亡くなった方へ、最後のプレゼントというか。供養の気持ちを込めて用意されたものとわかります。胴部の模様、側面には蓮の花と合掌する人物があらわされています。正面の建物に3つの窓が開いていますね。ここから魂が出入りすると言われています。おきみゅーでは多くの厨子甕を所蔵していますがこの厨子甕は、なかでも造形的な美しさが際立っています。焼き締めによる艶も見どころです。」
と篠原さん。そう聞いてあらためて厨子甕をみてみると、堂々たる姿に、細部までこだわった装飾が施してあることがわかります。

ほかにもご紹介したいものはたくさんありますが最後にもう1件、琉球の美の世界をあらわしたような華麗な七絃琴をごらんください。


朱漆桐鳳凰螺鈿七絃琴 第二尚氏時代 16世紀 九州国立博物館蔵 ※全期間展示

赤い漆の面に、白い貝殻を薄く加工して貼り付ける螺鈿という技法で、優雅に羽をひろげる鳳凰や太陽をあらわした七絃琴。周りの黒漆の地には、ためいきのでるほど繊細な花文が施されており、上から、横から、じっくり見入ってしまいます。前回のブログで飯田さんがふれていた食籠(じきろう)や箙(えびら)、そしてこの七絃琴、琉球の美術工芸を代表する漆器の数々が、本展覧会には集合しています。どれも写真では伝わりづらい細部にまで宿ったその美しさと輝きを、ぜひ会場でお楽しみください。
 

沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)は、那覇空港からモノレールで約20分「おもろまち駅」を下車して徒歩で約10分。那覇市内では新都心の便利な立地にあります。

琉球の美を知り、そこに生きた人びとの暮らしや想いにふれる本展覧会、展示室入口のメインビジュアルにはこのようなキャッチコピーがありました。
「琉球王国450年の想いが、今、あなたへ届く。」
沖縄でみる琉球展は12月4日まで。ぜひ、あなたにも届きますように。

重要文化材 旧首里城正殿鐘(万国津梁の鐘) 第一尚氏時代 天順2年(1458) 沖縄県立博物館・美術館蔵 ※全期間展示
展示室にはいって一番はじめに目にする万国津梁(ばんこくしんりょう)の鐘。その銘文には、琉球がアジア各地を結ぶ架け橋となり、国中には外国産の珍しい文物が満ちあふれている、と記されています。まさに時代を超えて、琉球の繁栄と文化を今に伝える文化財です。

おきみゅーでは、万国津梁の鐘オリジナルステッカープレゼントキャンペーンを実施中!
本展覧会の会期中、「#おきみゅー」「#琉球」のハッシュタグをつけてSNS投稿した画面を、1階のミュージアムショップでみせると、万国津梁の鐘オリジナルステッカーがもらえますよ。

 

復帰50年展「琉球-美とその背景-」

会期 2022年10月14日(金) ~ 2022年12月4日(日)

会場 沖縄県立博物館・美術館(沖縄県那覇市おもろまち3丁目1番1号)

開館時間 9:00~18:00(金・土は20:00まで) ※入場は閉館の30分前まで

休館日 毎週月曜日

観覧料 一般:1,400円(1,200円)、高大生:700円(560円)、小中生:500円(400円)
※(  )内は、前売料金・20名以上の団体料金 ※障がい者手帳・療育手帳をお持ちの方と介助者の方1名までは無料。

沖縄県立博物館・美術館公式サイト https://okimu.jp/

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