ぶんかつブログ

沖縄でみる琉球展(1)―文化財を次世代に伝えるために

2022年は沖縄復帰50年となる年。現在、沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)では復帰50年展「琉球-美とその背景-」が開催されています(12月4日まで)。

琉球は大小240余りの島々の総称で、海を通じて周辺の国々とさまざまな交流をする中で独自の文化を築きあげました。本展覧会は琉球王国にまつわる美術工芸品や文書、考古、民俗資料が余すところなく紹介され、まさに目で楽しみ、見て学ぶ格好の場となっています。
本展覧会は文化財活用センター〈ぶんかつ〉の「国立博物館収蔵品貸与促進事業」によって、琉球王国に関する絵画や書跡、染織、漆工、民俗資料など、東京国立博物館(トーハク)から28件、九州国立博物館(きゅーはく)から21件が貸し出しされました。

このブログでは前半に、わたし〈ぶんかつ〉の飯田から、おきみゅーで現在開催中の琉球展の様子と、トーハクよりお貸し出しした漆工や民族資料についてご紹介します。また、今回は文化財の貸し出しにあたって、展示効果や文化財輸送時などにおける安全性を高めるため、クリーニングや応急的な修理を行ないました。ブログの後半で、こうした文化財の修理について、トーハク保存修復室の野中さんがご紹介します。

▷「琉球―美とその背景―」の開催概要を見る


沖縄県立博物館・美術館の愛称は、おきみゅー


おきみゅー「博物館」2階の琉球展入り口

会場となる沖縄県立博物館(おきみゅー)は、5つの部門(自然・考古・美術工芸・歴史・民俗)と美術館によって構成される全国でも珍しい総合博物館です。今回の展覧会も、おきみゅーのさまざまな部門の学芸員が開催に向けて総力を結集したとのこと。

まずは琉球王国の多様な文化がはぐくまれた背景のひとつ、進貢貿易に関連する資料をご紹介します。
この作品は明・清との冊封体制の中にあった琉球が用いていた進貢船の模型。全長150㎝とかなり大型で、内部構造までしっかり作りこまれています。船首には獅子が、舷側(船の側面)には目玉が描かれています。ほかにも渡航の安全を祈念し、船体にはさまざまな意匠が描かれています。会場では、ぜひケースの周りをぐるりと回ってご覧ください。


進貢舟模型 明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 ※全期間展示


進貢舟模型の船首

進貢舟模型の船尾

琉球の美術工芸を代表する漆器。食籠(じきろう)は食べ物を入れた容器で主に宴席で用いられました。華やかな赤漆と螺鈿(らでん)による細やかな人物描写に思わず見とれてしまいます。宴の場も大いに盛り上がったことでしょう。


(左)朱黒漆樹下人物螺鈿沈金食籠 第二尚氏時代・18世紀、(右)黒漆家紋葡萄栗鼠螺鈿箙 中山宇根 第二尚氏時代・18世紀末~19世紀
いずれも東京国立博物館蔵 ※全期間展示

食籠の隣は、矢を収めて持ち運ぶための箙(えびら)です。正面に家紋が、その周囲には豊穣や多産を表す吉祥文・葡萄(ぶどう)や栗鼠(りす)の模様があしらわれています。


箙の底面「中山宇根 良方製之」の銘

箙の底面には「中山宇根 良方製之」の銘がありますが、このように作者銘のある作品は琉球では非常に稀です。なぜなら琉球王国においてこうした漆器は、官営工房である「貝摺(かいずり)奉行所」など、ほとんどが王府主導で作られていたためです。

正面からみると栗鼠は見当たりませんが、側面に栗鼠がいます。側面や底面の写真はColBase(国立文化財機構所蔵品統合検索システム)でご覧ください。
▷ColBaseで「黒漆家紋葡萄栗鼠螺鈿箙」を見る

トーハクの琉球関連資料の多くは、明治政府の依頼によって万国博覧会や内国勧業博覧会をきっかけに収集されました。一方、独自の関心から資料を収集した人物もいました。農商務省博物局に勤めていた田代安定(1857-1928)です。植物学者でもあった田代は、当時よく知られていなかった八重山諸島の調査を実施し、数多くの動植物や風俗に関する資料を記録しました。
本展の第3章に展示されている田代が寄贈した「藁算」(数などを記録する紐)とその解説「八重山島風俗一斑」を見比べてみてください!


八重山島風俗一斑、藁算、村算、板札 八重山諸島 明治時代・19世紀
いずれも東京国立博物館蔵 ※全期間展示

さて、博物館に収蔵されている文化財は時間の経過とともに状態が変化してしまうこともあります。特に今回お貸し出しした文化財は100年以上前に収集されたものが大半。そのためお貸し出しするにあたり作品の状態をくまなくチェックし、必要とあれば作品のクリーニングや応急処置を行ないます。こうした文化財の修理について、ここからは野中さんにご紹介いただきましょう。
 

トーハク保存修復室の野中です。
保存修復室では収蔵品が安全に保管、移送・輸送、展示活用できるように、事前に担当者と文化財のコンディションを確認し、収蔵品の状態が経年劣化などで不安定な場合、損傷の状態にあった処置を行なっています。

本展のお貸し出しでは、百田紙、杉原紙、桑布、桑経、桑皮などの繊維作品はクリーニングと折れぐせを直すフラットニング、書跡作品の伝尊円筆の円頓止観は横折れを緩和するためのフラットニング、黒漆家紋葡萄栗鼠螺鈿箙、朱黒漆樹下人物螺鈿沈金食籠の漆工品は剥落(はくらく)止めとクリーニング、琉球玩具16点のうち彩色の浮きや構造が不安定な14点は剥落止めや再接合などを行なっています。
今回はそのうち琉球玩具2点の処置についてご紹介します。この処置は、立体作品の修理を専門とする外部技術者の足立収一さんが担当してくださいました。

琉球玩具は厚紙を用いた張り子の形状に彩色が施されているもので、すべての作品に細かな彩色の浮きが生じており、輸送や展示の際の取り扱いが不安なものでした。またこれら琉球玩具は、今から20年ほど前にも彩色層の剥落止めが行なわれたものでした。そのため、制作当時の技法だけではなく過去の修理記録も確認しながら、どのような材料を用いた処置が今後の作品のために良いか、技術者と相談をしながら行ないました。


張子 鷹 第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵 ※前期展示(11/6まで)

これは琉球玩具のうち「鷹」です。柔らかく優しい姿に、当時の沖縄の子供たちに愛され、大切にされてきた様子が目に浮かびますね。 近くでみると彩色に細かく亀裂が入り、彩色層が浮いている状態でした。

この画像は鷹の肩の部分です。赤色の彩色層が浮いています。

この浮きの隙間に筆先の細い筆で接着剤を差し入れ、今回は形状に沿うように電気ゴテで丁寧に圧着する方法をとりました。(剥落止め)

剥落止め処置後の画像です。彩色の浮きが無くなり、安定した様子がお分かりになるでしょうか?(剥落止め)

これは別の位置の彩色層の浮きを電気ゴテで温めながら圧着している様子です。
このように一つ一つの彩色層の亀裂や浮きを確認しながら、損傷がさらに酷くならないように予防も含めて、全ての作品に剥落止めを行ないました。

また、彩色層の浮きや剥落だけではなく、過去の修理部分の再接合も行ないました。


爬龍船競漕 第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵 ※全期間展示

こちらは沖縄の伝統行事ハーリー(またはハーレー)で用いられる船の様子を表した作品です。
活気のある歓声が聞こえてくるような、勢いと温かみが溢れる造形ですね。

この作品は彩色の剥落のほかに、過去の修理時にも接合した竹で作られた櫂(かい)の細い柄の部分が再度とれてしまっていたため、典具帖紙(てんぐじょうし)とよばれる薄い和紙で補強をして接合しました。

過去の修理時に接合した櫂の柄の部分が外れている状況です。

細い柄の接合は接着剤だけでは強度をたもてないため、薄い和紙を用いて鑑賞上も違和感の生じない接合と補強を行ないました。

櫂の柄を接合後に、人形に設置している様子です。

今回ご紹介した修理の様子はほんの一部ですが、保存修復室では、このような処置を貸し出し前に行ない各館で安全に作品を活用していただけるように日々取り組んでいます。


琉球玩具の展示風景、おきみゅーにて

私たちが現在、出会える文化財は、さまざまな歴史や環境を経て伝わってきています。その状態をよりよく保ち、次の世代へバトンタッチしていくため、文化財の状態に合わせた修理を検討し、専門の技術者と共に展示活用を進めています。 ぜひ、沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)で開催されている復帰50年展「琉球-美とその背景-」へ足を運んでいただき、「これらの文化財がどのように守られて伝わってきているのか?」など、沖縄の歴史に思いを馳せ、ご覧いただけたら幸いです。

ぶんかつブログ、次回も引き続き沖縄県立博物館・美術館(おきみゅー)の琉球展より、とくに工芸の美と技に着目してご紹介します。独自の魅力にあふれる琉球の織りと染め。人々はどのようにそれを身につけ、日々の暮らしを営んでいたのでしょう。どうぞお楽しみに。

復帰50年展「琉球-美とその背景-」

会期 2022年10月14日(金) ~ 2022年12月4日(日)

会場 沖縄県立博物館・美術館(沖縄県那覇市おもろまち3丁目1番1号)

開館時間 9:00~18:00(金・土は20:00まで) ※入場は閉館の30分前まで

休館日 毎週月曜日

観覧料 一般:1,400円(1,200円)、高大生:700円(560円)、小中生:500円(400円)
※(  )内は、前売料金・20名以上の団体料金 ※障がい者手帳・療育手帳をお持ちの方と介助者の方1名までは無料。

沖縄県立博物館・美術館公式サイト https://okimu.jp/

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