8Kモニターと懐中電灯で、仏像調査を体験してみませんか?
昨年、東京国立博物館(トーハク)で実証実験を行ない、ご好評いただいた、8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」。
これは、文化財活用センター〈ぶんかつ〉、トーハク、シャープ株式会社の共同研究プロジェクトとして実施したものですが、このたび、その第2弾として、8Kで文化財「みほとけ調査」をトーハクの法隆寺宝物館にて2021年12月5日まで開催しております。
法隆寺宝物館中2階の資料室にて開催中
わたしの専門分野は日本・東洋彫刻です。仏像をお好きな方は多いと感じますが、なじみのない方にとっては、少しむずかしい印象を与える分野かとも思います。どの仏像を見ても違いがわからない、という話もよく聞きます。そこで、シャープ株式会社との共同研究のテーマに取り上げ、仏像の魅力をもっとわかりやすくお伝えできないかと考えて開発したのが、このコンテンツです。
ところで、われわれ学芸員が仏像と向かい合うのは、必ずしも展示室ではありません。その美術史的・文化財的な価値を明らかにするために収蔵庫内で、時には寺社の堂内で様々な仏像の調査を行なうことがあります。その大きさを計測し、材質や構造を確かめ、必要に応じて、懐中電灯で細部を照らしながら、間近に熟覧し、その特徴を調書として記述します。そうした成果を、研究や展示によって社会に還元すべく日々努めています。
もちろん、展示室に展示された仏像も、その魅力を十分に伝えてくれています。とはいえ、もっと間近に見られたら、照明の影になる部分を懐中電灯で照らせたら、、、と思うことも多々あります。学芸員による仏像調査をご体験いただければ、仏像をもっと身近に感じていただけるのではないかと思いました。
そこで、懐中電灯型の操作デバイスを新しく開発し、モニターに映された仏像に光をあてる動作を行なうことで、普段は見ることのできない細部までご覧いただくように工夫しました。70インチの大型モニターに映された3体の仏像の高精細3D画像は、センサーで前に立つ人を感知し、モニターに近づけば仏像が拡大され、のぞき込めば仏像の角度が変わるなど、まるで目の前で仏像と向き合っているかのようです。専用のブースをご用意したので、仏像鑑賞の没入体験が可能です。
没入感を味わうために、ブース内は暗くなっています。体験はおひとりずつどうぞ。
体を前後に動かすと仏像が拡大・縮小され、体の向きをかえると仏像の向きもかわります。
さらに、腰をかがめるなど体を上下に動かと、仏像を見る視点も上下に動きます。枠のなかでさまざまに動いてご体感ください。
コンテンツに登場する仏像は、この3体です。
(左から)菩薩立像、十一面観音菩薩立像、菩薩立像
名前だけ並べると、ほとんど違いがありませんね(笑)これも仏像を苦手だと思われる方の理由の一つかもしれません。しかし、左の菩薩立像は2世紀にガンダーラ(現パキスタン)で、中央の十一面観音菩薩立像は7世紀に中国で、右の菩薩立像は13世紀に日本で造られた仏像です。大きさや材質、技法、その姿の特徴はそれぞれ個性的で、造られた時代や地域の特色を反映しています。いずれもトーハクの彫刻を代表する3体ですが、ご覧いただける展示室はそれぞれ違うため、じっくり見比べる機会に恵まれません。本コンテンツでは、それぞれの仏像を高精細3D画像で詳しくご覧いただくことで、その違いや魅力をお楽しみいただくことができるでしょう。
詳しくは実際にご体感いただきたいので、ここでは少しだけイメージ動画をご覧ください。
ぶんかつYouTubeチャンネル
8Kで文化財「みほとけ調査」東京国立博物館にて開催(2021/11/16~12/5)
https://www.youtube.com/watch?v=PnJjZjoD-H4
コンテンツをお楽しみいただけたら、周りのグラフィックにもぜひご注目ください。横長の壁には、コンテンツに登場した3体の仏像が、少しずつ回転したデザインであしらわれています。よく見ると、黄色い文字で細かく文字が書かれているのにお気づきでしょうか?これは、わたしが実際に3体の仏像に対してとった調書から引用したものです(字が汚くてお恥ずかしい限りです)。本当は一続きの文章ですが、トーハクデザイン室の荻堂が仏像の関連する部分にレイアウトしてくれました。
仏像の大きさや部分の特徴が黄色い文字で記されています。
調書は文字による記述だけでなく、装身具などはスケッチも交えて記録します。
初めて見る方には少しわかりにくい記述ばかりだと思いますが、じつはほとんどが伝統的に整理されてきた用語と方式にのっとったものです。仏像を記述する行為には、その仏像が造られた頃から長い歴史がありますが、いまわれわれが用いている形式の調書は、明治以来、仏像の研究者が工夫を重ね、仏像を修理する技術者による修理報告書の記述も採用しながら整備してきたものです。文化財の調書は分野によって形式が異なり、とりわけ彫刻分野の調書の原型は、戦前に文部省国宝鑑査官を務めた丸尾彰三郎(1892~1980)によって作られ、文化財保護委員会や、戦後はその後継である文化庁をはじめ、全国の自治体で行なわれる文化財調査で広く用いられてきました。調書自体が公にされる機会は多くありませんが、丸尾によって編纂が開始された研究叢書『日本彫刻史基礎資料集成』(1966~刊行中)の作品記述は調書を基本として編集されており、調書形式の普及に貢献してきました。資料館にも配架されているので、ぜひご覧ください。必要な項目が整理され、一定の用語によって仏像の特色が余すところなく記述されています。このグラフィックからも、少しでも調査現場の雰囲気をご体感いただければ幸いです。
コンテンツの最後に、表示されるQRコードを読み込めば、学芸員の雑談をお楽しみいただけます。
また、コンテンツの最後に、「みほとけ雑談」というおまけをご用意しております。「雑談」というだけに、トーハクの彫刻担当者であり、本コンテンツの制作にあたった皿井舞・増田政史・西木の3名が、本当にただ雑談しているだけの音声コンテンツです(笑)日頃、担当者としてそれぞれの仏像に接する3名が、ざっくばらんに話す内容は仏像への愛にあふれており、学芸員の仏像へのまなざしがかいまみえることと思います。このポッドキャストは下記のURLからご覧いただくこともできますので、お時間のある方はぜひお試しください。
ぶんかつYouTubeチャンネル
みほとけ雑談 https://youtu.be/I5mmQBfNF00
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8Kで文化財「みほとけ調査」
会期 2021年11月16日(火) ~ 2021年12月5日(日)
会場 東京国立博物館 法隆寺宝物館資料室
開館時間 9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)
観覧料金 (総合文化展)一般1,000円、大学生500円、高校生以下無料
※総合文化展観覧料または開催中の特別展観覧料(観覧当日に限る)でご覧いただけます。
※入館にはオンラインによる事前予約(日時指定券)が必要です。
主催 文化財活用センター・東京国立博物館・シャープ株式会社
トーハクウェブサイト https://www.tnm.jp/
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- 2021年11月16日 (火)