ぶんかつ貸与促進担当から3周年によせて
文化財活用センター〈ぶんかつ〉は2021年7月1日に3周年を迎えました。
〈ぶんかつ〉では企画、貸与促進、保存、デジタル資源、総務の担当セクションがそれぞれの歩みを進めています。〈ぶんかつ〉3周年リレーブログの最後は貸与促進担当課長の沖松から、貸与促進担当の取り組みについて、これまでとこれからの展望をご紹介します。
そもそも、貸与促進担当がどのような部署かというと、「国立博物館収蔵品貸与促進事業」(貸与促進事業)を取りまとめ、推進する部署です。
これまで国立博物館は、国内外のミュージアムが企画する展覧会にかかる所蔵文化財の借用希望に対し、保存状態や所蔵館での展示スケジュールに差し支え無い範囲で無償でお貸し出ししています。それを私たちは「通常貸与」と呼んでいます。
その通常貸与と貸与促進事業の大きな違いは何かといえば、
①特に各地域の歴史と文化に関わる展覧会の開催に寄与することを目的としている
②保険料も含めた作品輸送費、事前調査のための出張費、展覧会の広報費などを〈ぶんかつ〉が支出する。
③文化財機構の職員と機構外の学識経験者等により構成される選定委員会の審議を経て、開催館が決定される
この3点があげられます。
事業としては、1申請につき
①21件~50件の所蔵品をお貸し出しする【大規模貸与】(各年度1~2か所)
②20件以内の所蔵品をお貸し出しする【小規模貸与】(各年度4~5か所)
の2つのカテゴリーに分けられます。
選定委員会による審査では、貸与促進事業の目的である、「各地域の歴史と文化に関わる展覧会の開催に寄与する」という点にそって、対象となる所蔵品がどれだけ効果的に活かされている企画か、に重点が置かれます。
貸与促進事業は、最初は2017年度に東京国立博物館(トーハク)単独で開始された事業でしたが、2018年度開催分からトーハクと〈ぶんかつ〉との共同事業となりました。
2020年度からは、新たな取り組みとして、お貸し出し可能な文化財を一覧化した「貸与可能作品リスト」(日本考古資料、黒田清輝作品)を作成しました。申請館が展覧会のテーマに沿って選んだ作品は、保存状態や展示スケジュール等の都合でお貸し出し不可の場合もありますが、リスト掲載作品は、保存状態や展示スケジュール上支障なく貸与促進事業で優先的にお貸し出し可能な作品です。これらを組み合わせることにより更に幅が広がることが期待できます。
また、2021年度開催分からは京都、奈良、九州の国立博物館が加わって4つの国立博物館の所蔵品を対象とした事業へと拡大されました。
対象施設も文化庁長官の承認を受けた公開承認施設及び博物館法で定められた登録博物館、博物館相当施設であれば、公立・私立を問いません。
通常貸与では、一つの展覧会で複数の国立博物館所蔵品の借用希望がある場合は、個別の問い合わせや手続きが必要ですが、貸与促進事業の場合は、〈ぶんかつ〉が窓口となって輸送手配や保険の手続き、印刷物の確認などにおいて、各館と連携を図ります。
この3年間を振り返ると、合計で16施設に、248件の所蔵品をお貸し出しし、164,391名の方々にご覧頂きました。
都道府県別にみると、青森、宮城、富山、茨城、千葉、東京、三重、滋賀、大阪、福岡、大分の11都府県になります。2021年度は既に実施された施設も含め、5施設、89件、福島、三重、奈良、佐賀、沖縄の5県が対象となっています。
2020年度までに来場者アンケートを実施した施設のうち10施設において90%以上の満足度となり、そのうち2施設で100%の満足度という結果でした。良質な展覧会に協力できたことは大変有難いことです。
いくつかご紹介いたしましょう。
斎宮歴史博物館チラシ
▷「斎宮のまわりにも魅力がいっぱい -斎宮で自由研究②-」斎宮歴史博物館
2018年7月14日~9月2日、来場者数1,744名、貸与件数1件、満足度100%
本展では三重県明和町金剛坂出土の「壺」(弥生時代(後期)・1~3世紀)がおよそ100年ぶりの里帰りを果たし、大きな話題を呼びました。
2020年度は新型コロナウィルス感染症拡大防止のための人流の抑制や臨時休館による会期の短縮などによって、例年の同じ時期よりも来館者数が減少するという大変な局面がありました。しかし、その中においても展覧会自体の企画の良さで来館者から高い評価を得た施設が多かったことは、印象深いことでした。
古河歴史博物館チラシ
▷「国宝参上。-鷹見泉石像と古河ゆかりの文化財-」 古河歴史博物館
会期2021年1月9日~17日、貸与件数15件、来場者数1,503名、満足度96.2%
「国宝 鷹見泉石像」の里帰りは古河歴史博物館の開館から30年来の念願でした。これを含む合計15件の里帰りでしたが、新型コロナウィルス感染拡大防止のための臨時休館により、当初会期2020年10/17~11/23が翌年1月に変更され、更に8日間に短縮されました。それでも地元の方の来館が多く、関心の高さが伺えました。なお、臨時休館となった代わりに、新しい試みとして3Dビュー+VR映像を制作し、2/10~9/30までヴァーチャル展示を公開しています。
▷オンラインで展示をお楽しみいただける「こがはくde国宝VR」はこちらから[https://www.city.ibaraki-koga.lg.jp/lifetop/soshiki/rekihaku/tenji/13871.html]
土浦市立博物館チラシ
▷「東城寺と『山ノ荘』-古代からのタイムカプセル、未来へ」 土浦市立博物館
会期2021年3月20日~5月5日、貸与件数14件、来場者数5,833名、満足度100%
土浦市立博物館の展覧会も来館者は地元の方の割合が高く、各地域の歴史と文化に関わる展覧会の開催に寄与することを目的とする事業趣旨にとても合致した展覧会でした。
茨城県の指定文化財(史跡)である東城寺経塚群が発見されてから、2021年で130年目の節目を迎える記念の年に、トーハク所蔵の東城寺経塚出土資料と、経塚理解をするうえで欠かせない、わが国の経塚造営の始まりである藤原道長造営の金峯山経塚出土で、道長自筆の重要文化財 紺紙金字法華経などをお貸し出ししました。
今後の展望として、企画力が高くても、輸送費の問題や施設の特性などさまざまな要因によって、通常では実現しがたい展覧会が、本事業を通じて実現されることが増えていくことを目指します。
その一例として、今年度事業のトップバッターとして行なわれた福島県やないづ町の斎藤清美術館の「斎藤清とハニワ!」があげられます。
斎藤清美術館チラシ
▷「斎藤清とハニワ!」やないづ町立斎藤清美術館
会期2021年4月24日~6月6日、貸与件数7件、来場者数1,534名
トーハクと縁があり、その縁によって埴輪を実見する機会を得、そこから自身の表現の幅を広げることとなった世界的に著名な版画家の斎藤清。彼がトーハクで見て、創作の源泉とした埴輪の実物と、それをモチーフにした版画作品とを間近に見比べられる貴重な機会となったのが、「斎藤清とハニワ!」です。
斎藤清美術館は、版画作品を中心にした絵画作品を展示する館のため、ケースの仕様も埴輪が展示されることは想定されていないものでした。しかし、本事業をきっかけとして、同館の担当学芸員の方の高い企画力と、福島県立博物館との展示協力によって実現されたことに、貸与促進担当一同大きな喜びを感じております。
今年度開催が予定されている貸与促進事業の詳細はこちらでご覧いただけます。
▷貸与促進事業 展覧会情報
今後も、常に事業の実施方法等の検討もしながら、それぞれのミュージアムの企画力が発揮された、全国各地域の歴史と文化に関わる良質な展覧会の実現の一助となることを目指してまいります。
ぶんかつ3周年記念リレーブログ、今回をもって無事にゴールとなりました。
読んでくださった皆様に、心から感謝申し上げます。
今後もぶんかつの「懸命の走り」を、叱咤激励、また応援いただきますよう、お願いいたします。
3周年リレーブログ
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- 2021年07月20日 (火)