ぶんかつブログ

ぶんかつセンター長から3周年によせて

2021年7月1日、文化財活用センター〈ぶんかつ〉は3周年を迎えました。
3年間の活動とこれからの未来について、旭センター長が語ります。


旭センター長 2021年6月にオープンした東京国立博物館 本館 特別3室「日本美術のとびら」にて

3年の手ごたえ 多面的な活動ができる組織〈ぶんかつ〉の強み

3年間を振り返り一言でいえば、早かったというのが率直なところです。と同時に、「文化財活用の新しい方向性」を打ち出せたという手ごたえを感じています。

文化財の「保存」と「活用」の両方を掲げているのが、私たち〈ぶんかつ〉の強みです。企画、貸与促進、保存、デジタル資源、総務の5つのセクションがあり、これらのセクションではそれぞれ最新技術を使った展示や、体験型企画、文化財の貸し出し、保存に関する相談、デジタル資源化、そして、文化財を守り継承していくためのファンドレイジングなどに取り組んでいます。このバラエティに富む活動が、〈ぶんかつ〉のいいところで、こういう組織ってありそうでなかなかないでしょう。

さらに〈ぶんかつ〉は、単体で動いているわけではありません。国立文化財機構の4つの国立博物館および2つの文化財研究所との協働もさることながら、全国のミュージアムとのつながりや、企業との連携も大切にしています。こういう組織が誕生しその土台を築いてきたことは非常に意義深いと改めて思っています。3年間の活動を通じて社会のなかに〈ぶんかつ〉という存在が位置づけられてきたのではないでしょうか。

コロナ禍で 試行錯誤のホップ・ステップ・ジャンプ

1周年のブログでは1歩ずつ着実に「ホップ・ステップ・ジャンプ」と話しました。その言葉どおり、発足2年目には方向性が定まり、展示室での鑑賞体験や、ものに触れるワークショップ、人と語り合う場など、人を集め、交流を図る事業を中心に行なってきました。しかし、2020年春以降の新型コロナウイルス感染拡大による影響は大きなものでした。これまで通りの事業展開は不可能になり、「ホップ・ステップ・ジャンプ」のつもりが、ステップの途中で試行錯誤の状態に後戻りすることになりました。

一方で、〈ぶんかつ〉が旗をふるデジタルの重要性が高まり、オンラインを通じた事業を加速することができたのも事実です。ちょうど、去年の今頃はミュージアム界隈も途方に暮れるような状況でしたが、そんななかで私たちは新たな筋道を見つけ、進めることができたと思っています。平穏が戻った後にも続けて活用していけるコンテンツがたくさんできましたし、これらは今後も発展させてみなさんに提供することができると思います。試行錯誤のすえ暗い中にも光を見出すことができたという感じです。
そして、文化財がエッセンシャル(本質的に必要)なものだということも改めて感じました。これを読んでいるみなさんも、思いを同じくしていただけることと思います。

不易流行-「いま」の人たちと未来へすすむ

「不易流行」、松尾芭蕉の俳諧の理念で、伝統を踏まえつつ、一方では新しいものを取り入れることが大切だとする説ですけれど、わたしはこの言葉を長年にわたって展覧会事業、そして文化財に関わる中でずっと大事にしてきました。
時代や社会の変化に応じて変わるものと変わらないもの、変えなきゃいけないものと変えてはいけないものということがあると思います。〈ぶんかつ〉の事業においても当てはめて考えることができるのではないでしょうか。このコロナ禍での試行錯誤を通じていっそうそのような思いを強くしました。

わたしは文化財の研究者ではありませんが、展覧会に関わる仕事をこれだけ長くやっていると、みなさんに文化財をどんなふうに見てもらうか、どう楽しんでもらうか、いろいろなことを考えます。
〈ぶんかつ〉の一番のミッションは、文化財を多くの人々に知ってもらう、魅力を感じてもらうことです。「いま」の人たちに文化財にどう親しんでもらうかがポイントです。中学生や高校生など若い人たちに、文化財のファンになってもらうのがその第一歩です。

「わぁ!こんな文化財があるんだ!」という出会いは、例えばケース越しに見せるだけではないですし、上から目線でこれはこうです、と一方的に示すものでもない。
この秋には、文化財の複製を活用したユニークな展覧会を準備しています。現代アートや、ポップカルチャーと、何世紀も前の日本美術を組み合わせる試みです。どちらが優れているとか、価値があるとかそういうことではなくて、若い人たちが身近に感じているものの根底に100年前、200年前の文化財がある、つながっているんだということを感じてもらえる機会になるのではないでしょうか、ご期待ください。

極端な話、文化財の保存のためには、ずっと収蔵庫内で管理して展示公開することなく1000年後の人に渡すのが一番です。しかしそうではなくて、文化財を活用して「いま」の人たちに見てもらい、次の世代につないでいく。これが、これからも変わらず〈ぶんかつ〉が大切にしていきたいミッションです。

旭センター長から、各セクションの事業についてひとこと

●企画担当

2018年、東京国立博物館(トーハク)での開催を皮切りに全国に巡回した「なりきり美術館」シリーズや、今年6月にトーハクに常設展示としてオープンした「日本美術のとびら」などの体験型展示を筆頭に、先端技術を用いた文化財の新しい鑑賞方法を提案し続けてきました。企画担当には最新の情報も集まってくるので、積極的にトライアルし、先駆けとなる提案ができればと思います。
また、未来を担う子どもたちに向けたアウトリーチの取り組みはありがたいことに好評で多くの学校からお問い合わせをいただいています。〈ぶんかつ〉の職員で対応できる数には限りがありますので、今後は各学校の先生方や各地域のミュージアムなどでも展開していただけることを願っています。

●貸与促進担当

貸与促進事業は、〈ぶんかつ〉が一部費用を負担し、国立博物館の所蔵品をお貸し出しするというものです。トーハク所蔵の文化財からスタートし、2021年から国立博物館4館の所蔵品が対象になりました。さらに、公立だけでなく私立ミュージアムからの要望も受けることができるようになりました。
2021年1月に茨城県・古河歴史博物館で開催した「国宝参上。―鷹見泉石像と古河ゆかりの文化財―」は、国宝が地元へ里帰りし、地域の方々にもよろこんでいただけました。しかし、残念なことに新型コロナウイルスの影響で開幕からわずか7日間で閉幕することに…そこで〈ぶんかつ〉と開催館が協力し、ネット上に展示室のVR画像を公開しました。さまざまな問題の解決を、全国のミュージアムと一緒に行なっていくのが〈ぶんかつ〉のよさです。

●保存担当

昨年は、展示室における消毒が文化財にどんな影響を与えるかなど、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う相談が寄せられ、一緒に解決をしていきました。それができたのは日頃から各地域のミュージアムから気軽に相談してもらえる関係性を築いていたからこそでしょう。
文化財を保存しながら活用していくうえで、展示に適した環境をつくっていくのが保存担当の重要なミッションのひとつです。どうすれば安全に展示できるかアドバイスし、問題解決までサポートするのが〈ぶんかつ〉です。また、保存に携わる人材育成のための研修も好評で非常に多くの参加希望をいただいています。

●デジタル資源担当

「e国宝」(国立博物館所蔵 国宝・重要文化財)[https://emuseum.nich.go.jp/]を、2020年10月にリニューアルしました。また、「ColBase」(国立文化財機構所蔵品統合検索システム)[https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja]も日々情報の更新を続けています。多言語化によるデータベースは国内外の人に文化財を知ってもらうための重要な入口です。現在、ルーヴル美術館、メトロポリタン美術館、大英博物館など世界でも代表的なミュージアムが作品の画像公開を進めており、コロナ禍でより加速しました。
ただ、「e国宝」のアクセス数を解析してみると、新型コロナウイルスによる臨時休館にともない減少傾向にあることもみえてきました。おうち時間に比例してアクセスが増えるのではなく、ミュージアムへ出かける行動と合わせて、これから見に行く、あるいは見てきた文化財について検索するといった人々の行動パターンも垣間見える気がします。ここにさらなるデジタル資源活用のヒントがあるのではないでしょうか。

●総務担当

2年目から手掛けたファンドレイジング事業、その第一弾が「〈冬木小袖〉修理プロジェクト」です。新しい試みでしたが初音ミクとのコラボや、オリジナル返礼品の展開などにより、多くの方にご寄附をいただいています。ファンドレイジングでは、お金を集めることも重要ですが、プロジェクトを通じて文化財ってどんなものか知ってもらうきっかけになればいい。参加いただいた方が、10年後、20年後にまた〈冬木小袖〉を見たときに、子どもたちに「わたしね、これに参加したのよ」なんて話をしたり、次世代に誇れるといいですね。

この1年は〈ぶんかつ〉内のセクションをまたいだ連携がうまくいった事例が増えてきたという感触があります。多面的な組織〈ぶんかつ〉の良さが発揮されているのではないでしょうか。さらに、セクション個々の活動の充実を図りながら〈ぶんかつ〉全体の力を高めていきたいと考えています。
あっという間の3年間でしたが、ここまでの積み重ねを基にひとりでも多くの人に文化財に親しんでいただけるよう、ここからもうひとつ文化財活用の輪を大きく拡げていきたいと思います。

▷関連ブログ「旭センター長が語る!〈ぶんかつ〉一年の歩み」の記事を読む

〈ぶんかつ〉3周年を記念して、このブログを皮切りに各担当課長によるリレーブログを連載します(全5回予定)。次回の記事は「〈ぶんかつ〉企画担当より3周年によせて」、お楽しみに!

カテゴリ: ぶんかつとは