ぶんかつブログ

〈冬木小袖〉修理プロジェクト 返礼品が新登場!(前編)

東京国立博物館〈トーハク〉と文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、尾形光琳が秋草模様を描いたきもの〈冬木小袖〉をご寄附で未来につなぐプロジェクトを実施しています。 これまでに個人や企業から12,692,430円(2021年3月31日時点)もの温かいご支援をいただいています。
目標額の1,500万円まで、あと230万円。さらに多くの方に文化財の魅力を知っていただき、ご支援の輪を広げるために、4月27日より〈冬木小袖〉ゆかりの地である江戸・深川に着目した返礼品「江戸の手しごと・伝統工芸品」がスタートしました。

〈冬木小袖〉は京都に住む光琳が江戸に逗留する際の寄宿先、深川の材木問屋・冬木家の夫人のために描いたきものと言われています。残念ながら冬木家の屋敷は現存していませんが、冬木の名は地名として今も残っています。 新たな返礼品は、その深川で伝統工芸品を展示販売する「ギャラリー&ショップ 季華」と企画した本プロジェクトのオリジナルです!ご寄附を検討の皆さまへ、職人の方々へのインタビューをもとにその魅力をご紹介できればと思います。

万華鏡のように桔梗柄が広がる「ぐい吞み」

最初にご紹介するのは「ぐい呑み」。底面に〈冬木小袖〉をモチーフにした桔梗柄が彫られた江戸切子です。考案したのはガラス専門店「GLASS-LAB株式会社」を営む椎名隆行さん。椎名さんのお父さんと弟さんの技術で作り上げた一品です。


ぐい呑み(江戸切子)


水を注ぐと模様が側面まで広がり、幻想的

この砂切子には、側面に「平切子」、底面に「サンドブラスト」という2つの技法が使われています。 まずは江戸切子の技法の一つである「平切子」。グラスの口磨きや皿の底面を平らにする技術で、お父さんの康夫さんが得意とするこの技法ができる職人は今や全国に10人ほど。グラスの側面を花びらのようにカットし、美しい装飾を生み出しています。

工房の中には目の粗さや材質が異なる4つの研磨機がありますが、最後の仕上げで使われる研磨機の素材は、なんと「木」。荒摺り、磨きを重ね、丁寧に仕上げられているそうです。


桐の木版(きばん)でできた研磨機

次に、底面に使われている「サンドブラスト」。弟の康之さんが得意としており、一般的にはトロフィーの名入れ等に使われていた技術でしたが、改良を重ね今では0.09ミリの細さまで彫ることができるようになっているそうです。瑠璃色とライトブルーのガラスを重ねた「色被せ(いろぎせ)ガラス」を彫り分け、桔梗の花のグラデーションが見事に表現されています。

「2人の技術を生かした製品を」と隆行さんが考案したのが、この作品。 特徴は、グラスの中に透明な液体を注ぐことで際立ちます。満たしたグラスを上からのぞくと、サンドブラストで描き出された底面の柄が、万華鏡のように平切子部分に反射し、空っぽのグラスとは別の表情を見せてくれます。

「使う喜びのあるグラスに仕上がったと思います。色味も冷酒が合いそうですね」と椎名さん。ちょっと贅沢な気分になれる江戸切子です。


椎名さん。研磨機を背景に

秋草模様がふんだんにあしらわれた「ピンブローチ」

続いては「ピンブローチ」。直径2.5センチほどの円形のシルバーに、桔梗、菊、萩、芒(すすき)など秋草が彫られたアクセサリーです。


ピンブローチ(金工)


スカーフにつけても

こちらを制作されたのは金工の工房兼ショップ「ジュエリーショップサショウ」を営む佐生真一さん。 1920年創業で、当時は深川で活躍した辰巳芸者の簪(かんざし)や帯留も作られていました。 佐生さんは3代目として19歳から修行を重ね、オーダーメイドのジュエリー制作やリメイク、またティアラや王冠などの舞台宝飾も手掛けています。

返礼品制作ではまず、砂型に銀を溶かしてベースを作り、ヤスリがけ、磨き上げをした後、作った見本を見ながら鉛筆でデザインを描き、2種類の鏨(たがね)を金槌(かなづち)で叩き秋草模様を彫り入れます。最後にロジウムメッキ加工を行なって完成です。


金槌。今回は1番小さなものを使用

ヤスリがけの様子

きれいなエッジで彫られた秋草模様は、手に取ってじっくり眺めると、その細やかな仕事にため息がもれます。「意気」と「張り」が売りといわれた辰巳芸者に愛された装飾品が、ここに確かに伝承されているのだな、とあらためて感じます。

「今回こだわった点は秋草模様のバランスです。尾形光琳らしいデザインを生かしつつ、ピンブローチに落とし込んでいきました」と佐生さん。小さなピンブローチに〈冬木小袖〉がぎゅっと詰め込まれています。


佐生さんの工房で

〈冬木小袖〉修理プロジェクトの目標は1,500万円。ぜひご支援をお願いします。

▷〈冬木小袖〉修理プロジェクトのページを見る

次回のブログでは新返礼品「江戸の手しごと・伝統工芸品」最後の1つ、東京無地染の「包み袱紗」をご紹介します。どうぞお楽しみに!