幻の展覧会「国宝参上。」展 VR制作の舞台裏(前編)
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。
2021年も感染拡大の勢いはいまだ収まらず、日本では1月7日に政府から発出された2回目の「緊急事態宣言」は3月7日まで延長となりました。
このパンデミックが世界に与えてきた影響は大きく、ミュージアムにおいても臨時休館や開館時間の短縮、展覧会や各種プログラムの中止、入館者数激減による資金難や雇用問題の深刻化など、数々のダメージが報告されています。
しかしながら、ウイルスがもたらしたのはネガティブな結果ばかりではありません。「ウィズ・コロナ」あるいは「ポスト・コロナ」に向けて、ほかの分野同様にミュージアムも今できることを模索し、新たな活動に着手し始めています。なかでもオンラインによるサービス強化はそのひとつ。従来のSNS発信に加え、オンライン展覧会やデジタルアーカイブの整備、体験コンテンツの配信や動画チャンネルでのライブストリーミングなど、ユニークかつ新しい文化財へのアプローチが続々と登場しているのです。文化財活用センター〈ぶんかつ〉が国立博物館とともに手掛けてきた国立文化財機構所蔵品統合検索システム「ColBase」をはじめ、VRイベントや各館のオンラインギャラリートークなどをご利用くださった方も多いのではないでしょうか?
さて、前置きが長くなりましたが、本ブログでは、コロナ禍でやむなく中止となった展覧会を一人でも多くの方々にご覧いただきたいという思いから、〈ぶんかつ〉が東京国立博物館(トーハク)、古河歴史博物館、一般財団法人VR革新機構と協力し、新たに制作・公開した3Dビュー+VR映像「こがはくde国宝VR」という事例について、ご紹介したいと思います。
※「こがはくde国宝VR」の公開は2021年12月31日で終了
こがはくde国宝VR(画像:古河歴史博物館特設ウェブサイトより)
2月9日のブログでご紹介した茨城県・古河歴史博物館の「国宝参上。―鷹見泉石像と古河ゆかりの文化財―」展は、2020年度の国立博物館収蔵品貸与促進事業に採択された展覧会。 「貸与促進事業」とは、国立博物館が所蔵する地域ゆかりの文化財を〈ぶんかつ〉が輸送費や保険料などを負担して全国各地のミュージアムに貸し出す事業で、2020年度は7施設に合計138件をお貸し出しする予定でした。
▷ブログ「古河歴史博物館「国宝参上。」展を振り返る 」の記事を読む
ところが、昨年春の緊急事態宣言の発出により、採択された7館のうち2館が東京への出張が不可能となり、作品の貸し出し自体がキャンセルに。さらに別の2館は、臨時休館にともない当初会期での開催が困難となり、会期を変更することになりました。
古河歴史博物館の「国宝参上。」展も、当初の会期(2020年10月17日~11月23日)を本年1月9日~2月7日に変更し、ようやく実現した展覧会のひとつだったのです。
この展覧会には、トーハクからは、83年ぶりに“里帰り”となる国宝「鷹見泉石像」(渡辺崋山筆)や111年ぶりの“里帰り”を果たす「埴輪 大刀をもつ男子」など古河ゆかりの文化財15点をお貸し出し。地元では、開催前からメディアが大きく取り上げ、駅や市内のあちこちにポスターやバナーが掲出され、地域をあげて“里帰り”を心待ちにしてくださっていました。
「里帰り記念」のイベントに参加していたお店の看板
古河駅に掲出されたバナー(画像:古河歴史博物館公式Twitterより)
古河駅の看板(画像:古河歴史博物館公式Twitterより)
ところが、苦境を乗り越えて開幕を迎えた喜びもつかの間…。2021年1月に発出された茨城県独自の緊急事態宣言を受け、同館は1月18日~2月7日(展覧会最終日)まで臨時休館に。「国宝参上。」展は、わずか8日間の公開で閉幕し、「幻の展覧会」となってしまったのです。休館発表後の週末には、せめて国宝を一目観ておきたいと多くの地元の方たちがかけつけてくださったそうです。
休館が決定した直後に古河歴史博物館を訪れ、熱心に展覧会を鑑賞する来館者
また、古河歴史博物館には「対策をとりつつなんとか開館できないのか」「会期を延長できないのか」「もう一度、同じ展覧会を開催してほしい」といった声が100件以上も寄せられたのだとか。しかしながら、作品の保存や今後の展示計画の観点からも、数年かけて調整した会期の延長はできません。やむなき事情とはいえ、作品をお貸し出ししていた我々(〈ぶんかつ〉&トーハク)も、地元の方々のお気持ちを考えると無念でなりませんでした。
古河歴史博物館では、もしかしたら緊急事態宣言期間が短縮されるかもしれない、そうなればまた数日間でも公開できるかも、というわずかな望みを抱き、会期最終日までは展示室の作品は陳列した状態のまま。開館できないのであれば、なんとかこの展示をリアルにご覧いただく方法はないだろうか…と考えた結果、やってみよう!ということになったのが、3Dビュー&VR映像のオンライン公開という手法でした。
3Dビュー+VR映像による展示室のドールハウス表示@古河歴史博物館
今回撮影をお願いしたのは、一般社団法人VR革新機構[https://vrio.jp/]。アメリカ・シリコンバレーに本社を置くMatterport(マターポート)社の撮影システムのライセンスを取得し、これまで国立科学博物館の「おうちで体験!かはくVR」ほか40施設での3D+VR映像コンテンツの制作実績をもつ団体です。早速ご連絡を入れると、代表の横松繁氏が今回の展覧会の趣旨や意義にご賛同くださり、コロナ禍での博物館・美術館応援プロジェクト「ボランティア撮影」として無償で撮影をしてくださることに!
古河歴史博物館と至急日程を調整し、撮影までに必要な準備を急ピッチで進めることとなりました。
…つづく…
3D+VR映像のメイキングと見どころについては後編でご紹介をいたします!お楽しみに!
動画特設サイト こがはくde国宝VR
※公開は2021年12月31日で終了
古河歴史博物館 公式Twitter
https://twitter.com/koga_city_m
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- 2021年03月02日 (火)