ぶんかつブログ

黒田生誕の地、鹿児島に息づく芸術の絆

今年、2024年は黒田清輝(1866~1924)が没した1924年7月15日から100年となる記念の年。
黒田は伯父の黒田清綱の養子になるため6歳で上京しましたが、生まれたのは鹿児島の高見馬場(たかみばば)でした。天文館にほど近い賑やかな通りには、黒田清輝誕生地の記念碑や、記念の銅像が立っています。

鹿児島市立美術館では、7月24日(水)から開館70周年と黒田の没後100年とを記念して「没後100年 黒田清輝とその時代」が開催されています(~9月1日(日)まで)。

▷「鹿児島市立美術館開館70周年記念 没後100年 黒田清輝とその時代」の開催概要をみる

令和6年度の国立博物館収蔵品貸与促進事業として開催された本展では、黒田記念館に収蔵されている黒田清輝の絵画作品を中心に、同時代に活躍した東京国立博物館所蔵の洋画家たちによる作品が展示されることになり、開催に合わせて一足お先に展示室を拝見してきました。


鹿児島市立美術館外観

展覧会は、1954年9月、鹿児島市立美術館開館を記念して開催された黒田清輝展のポスターで始まります。


会場風景

1954年の展覧会には《湖畔》のモデルとなった照子夫人も来場し、東京文化財研究所には、そのときに撮影された写真が残されています。


鹿児島市立美術館開館記念展に来場した黒田照子氏 東京文化財研究所所蔵資料

もちろん、《湖畔》も今回の展覧会に出品されています。
また、2008年に黒田記念館で展示されたこともある現代美術家の福田美蘭(ふくだ・みらん)による《湖畔》(1993年)も展示されています。名画に新たな視点を提示するシリーズの1点として選ばれた同作は、黒田の《湖畔》の画面を上と右に拡張したもので、黒田の《湖畔》と見比べてみると、めまいのような不思議な感覚に襲われます。この体験はぜひ展示室でどうぞ。


黒田清輝《湖畔》1897年 東京国立博物館

展覧会の見どころは、何と言っても圧巻のラインナップ。
本展には東京国立博物館からも黒田のほか、その時代に活躍した画家の作品とあわせて43件をお貸し出ししており、全国の黒田清輝の作品や近代絵画の名品が一堂に会した会場はまさに没後100年ならではのものです。
例えば鹿児島市立美術館の誇る、黒田と同時代のフランスで描かれた近代絵画コレクション。
左端は黒田の師、ラファエル・コラン(1850~1916)が手掛けたパリにあるオデオン座小フォワイエの天井画の下絵です。黒田は完成した天井画を「傑作」と絶賛していました。
この天井画は、美術史学者でラファエル・コランに詳しい三谷理華氏(女子美術大学教授)によると、2006年のオデオン座改修によって再び見ることができるようになったそうです。


会場風景 左からラファエル・コラン《オデオン座天井画下絵》1889年、鹿児島市立美術館、ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《休息》1861年、島根県立美術館、カミーユ・ピサロ《ポントワーズのレザールの丘》1882年、鹿児島市立美術館

隣に見えるのは島根県立美術館所蔵のピュヴィス・ド・シャヴァンヌ《休息》で、こちらはアミアンにあるピカルディ美術館階段に設置された壁画の下絵です。複数の人物を組み合わせた大画面構図は、帰国後に黒田が描いた《昔語り》(完成作は1945年に焼失。写真は本展に出品された《昔語り 構図Ⅱ》)に生かされたと考えられています。


黒田清輝《昔語り 下絵(構図Ⅱ)》東京国立博物館

筆者のイチオシは鹿児島市立美術館所蔵の和田英作《赤い燐寸》。
東京国立博物館の所蔵品ではないのかと言われてしまいそうですが、黒田が日本の絵画にもたらした明るい光を最良の形で継承し、表現したのがこの作品ではないかと思われるほど、魅力的な一点です。
ちなみに、本作に描かれている、赤い燐寸(マッチ)箱を持つ男性は、随筆家の渋沢秀雄。新しい1万円札の肖像となった渋沢栄一の息子です。


会場風景 和田英作《赤い燐寸》1914年、鹿児島市立美術館

黒田が愛し、《読書》をはじめ数々の作品を描いたグレー=シュル=ロワン市には、2001年に「黒田清輝通り」が誕生しました。これを契機に、毎年鹿児島県内で開催されている南日本美術展の受賞者が同市を訪れており、彼らの滞在制作の成果は同市の美術館にコレクションされるなど、芸術を通じた交流が続けられています。

このような交流に基づき、24日の開会式にはフランスから出席された方も見られました。そのおひとりから伺った「黒田は過去の存在ではなく、芸術を通じた交流という彼の架けた橋はずっと生きている」という力強い言葉が、この展覧会のもうひとつの意義を物語っていました。


開会式風景

8月8日に発生した宮崎県日向灘を震源とする地震により、被害にあわれたみなさまに心よりお見舞い申し上げます。
不安な日々をお過ごしかと思いますが、美術館は無事に開館していると連絡をいただきました。
没後100年ならではの展覧会、鹿児島の地で堪能されてはいかがでしょうか。


鹿児島城跡のお堀の蓮

※展覧会場では一部の作品を除き写真撮影が可能となっています。本ブログの会場写真は許可を得て撮影しました。

鹿児島市立美術館開館70周年記念 没後100年 黒田清輝とその時代

会期 2024年7月24日(水)~ 2024年9月1日(日)

会場 鹿児島市立美術館(鹿児島市城山町4番36号)

開館時間 9:30〜18:00 (入館は17:30まで)

休館日 7月29日(月)、8月5日(月)・16日(金)・19日(月)

特別展観覧料 一般1,200円(前売り1,000円)、高大学生800円(前売り500円)、小中学生600円(前売り300円)
・( )内は前売料金及び20人以上の団体料金、年間パスポートまたは障害手帳提示者は同料金で観覧できます。
・会期中は、本展チケットで所蔵品展も観覧できます。

鹿児島市立美術館・公式サイト https://www.city.kagoshima.lg.jp/artmuseum/

鹿児島市立美術館・Instagram https://www.instagram.com/kcmoart_ig/

鹿児島市立美術館・Facebook https://www.facebook.com/kcmoart

鹿児島市立美術館・X https://twitter.com/kcmoa

カテゴリ: 文化財の貸与