ぶんかつブログ

5周年!大美新センター長が語る〈ぶんかつ〉のこれから

2023年で5周年を迎えた文化財活用センター〈ぶんかつ〉。新たに〈ぶんかつ〉の顔となった大美慶昌センター長にインタビュー!6年目のビジョンや、その人柄に迫ります。

―これまでの経歴を教えてください。

1985年にNHKに入り、最初は神戸での勤務でした。東京へ戻ってからは、人事や、番組編成、それから海外の番組の買い付けなどをやっていました。もちろん、一番長く携わったのは、展覧会などに関わる仕事です。
歳をとってから思うのは、役職につく前の仕事は楽しいんですよ。そういう意味でいうと、番組購入の仕事はおもしろかったですね。

主に担当していたのは、ドキュメンタリーや、アジアの映画。やっていくうちに映画を買うばかりではなく、一緒に作ろうということになりました。そのとき立ち上げたのが、「アジアフィルムフェスティバル」です。第1回目には、モンゴル、ベトナム、タイ、インドの4か国が参加して、これは12回まで続きました。 映画を作ったら、公開するための劇場も探しました。そうしないとテレビドラマの延長と思われてしまって海外の映画祭に出せないのですね。
そんな経緯もあり、劇場で上映をしたのですが、この一連の仕事を通じて「目の前にお客さんがいるのっておもしろいな」と改めて思い、イベントに関わる事業センターという部門へ移った。 そうして、はじめに関わった展覧会は、1997年に東京都美術館で開催した「アンコールワットとクメール美術の1000年」展です。この展覧会もおもしろかったですよ。

―〈ぶんかつ〉のことを外からみていた就任前は、どういった印象でしたか?

2018年の発足時、こういったセンターができたのは、すごく良いことだと注目していました。
「みんなの8K文化財」プロジェクトなどは、当時わたしがいたNHKとも関係がありますが、これに限らず、ミュージアムと企業の間に〈ぶんかつ〉という組織が橋渡しの役割として入っているのはとても良いと感じました。
また、自分が展覧会を担当しているときに、どうしても来場者の年齢層が高い傾向があって、若い人にももっと来てもらえないだろうかということは常に意識していたので、「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」のように、〈ぶんかつ〉がこういった方面にも向き合っているのは良いことですよね。これも展覧会共催者(メディア側)の視点ですが、いままでよりも、敷居がさがった感じがしました。展覧会をミュージアムと作り上げる際に、〈ぶんかつ〉が窓口になってくれるのは心強いと思いました。

―センター長に就任して1か月が経ちました。中からみた〈ぶんかつ〉はいかがですか?(インタビューは8月1日に行ないました)

おもしろいね。
メンバーみんな、ここに来た経歴もさまざまなので、みえる風景がちがうんだと思う。それが良いかたちになるといいし、お互いに尊重しあえるといい。みんな自分の仕事に自信をもちながらやっているなと感じています。

〈ぶんかつ〉は5つのセクション(企画担当・貸与促進担当・保存担当・デジタル資源担当・総務担当)があり、けっこう守備範囲が広い。そういう組織って難しいんですよ、お互いに最後に守らなければならないものが違うこともありますからね。そういうときには「人」が調整していかなければならない。守備範囲が広いゆえの難しさはあります。

〈ぶんかつ〉は2018年の発足から5年の実績を積んできたけれど、どこに力点をおくのか、国内なのか、あるいは海外なのか、というのは今まで以上に意識しています。 というのも、着任して上野に来てすごく思ったのは、海外からのお客さんがとても多い。〈ぶんかつ〉がオフィスを構える、東京国立博物館の館内を見渡しても半分くらいがインバウンドのお客さんではないか、というほど。
特別展は日本人のお客さんが多いのだけど、いわゆる日本の文化財のベーシックなものを見られる総合文化展は海外の人が来てくれる場になってきているのだなと強く感じました。われわれが宝物として大切にしている文化財をアピールするのは、国内ももちろんだけど、海外にも広げていけるのかな、と思っています。

まだ来て1か月だけど、いろんな可能性があると思っています。

―〈ぶんかつ〉5つのセクションについて、今後の活動のビジョンを教えてください。

◯企画担当
企画担当だけに限ったことではないけれど、「目立つこと」ばかりではなくても良いのではないかと思っています。 企画担当の大切な取り組みとして、高精細複製を活用した鑑賞プログラム「ぶんかつアウトリーチプログラム」がありますね。実施先の子どもたちが書いてくれたアンケートを読んでいて、すごく素直な反応に、これが一番大事なことじゃないか、と思いました。アウトリーチは、地道に積み上げていきたい取り組みです。
でも、それだけではだめで、人気アイドルグループと日本美術がコラボした2021年の「春夏秋冬/フォーシーズンズ 乃木坂46」や、企業連携の成果が一堂に会した2022年の「未来の博物館」の展示のように、大規模な「目立つ」事業も必要です。着実に積み上げ守っていく取り組みと、目立つ事業、両方のバランスを取りながらやっていくことが重要だと思う。
〈ぶんかつ〉は企業などとの連携も多いですが、「こういう展開はしない」などとあらかじめ制約を決める必要はないと思います。パートナーとなる組織、外からの声も聞きながら可能性を広げていけばいい。いつか花ひらく「芽」を育てながら、咲き誇るタイミングを狙う「勝負勘」みたいなものは大事です。

◯貸与促進担当
「国立博物館収蔵品貸与促進事業」の展覧会は現在、島根、山口、長野で開催中ですね。
地域のミュージアムは企画展をやるにしても、予算などの制約があってなかなか難しいのが実情です。輸送費・保険料・貸与品の展示及び撤収作業費等を〈ぶんかつ〉が支出するなど、その手助けをしているのが貸与促進事業です。
5年の間に国立博物館4館との共同事業となり、対象となる文化財は東京・京都・奈良・九州の4つの国立博物館の所蔵品に広がりました。地域のミュージアムにはどういった要望があるか、現場の声を聴きながら、各国立博物館と協力し、オープンマインドで考えていけるといい。 まだまだ可能性がある分野で、これも大事な取り組みです。

◯保存担当
保存担当が開催する「令和5年度 博物館・美術館等保存担当学芸員研修(基礎コース)」の初日に見学してきましたが、「保存と活用」はセットだと、改めて実感しました。
この研修会は毎年、自治体等を通じて全国から参加者を募っていますが、倍率がものすごく高いことにも表れているように、ニーズがある。これにどう応えていくかは大きなテーマです。
それぞれのミュージアムの担当者にとっては切実な問題ですし、材質によって化学物質が出てくるとか、過去にはわからなかった影響が近年明らかになった例も多いですね。時代が変わって、文化財の保存環境のノウハウもアップデートしていかないといけない。
研修会に参加した方の話を聞いて、〈ぶんかつ〉の保存担当がとても頼りにされていることを認識しました。求められている要望に対してきちんと研究して応えていく、これからも全国のミュージアムの助けになっていきます。

◯デジタル資源担当
「ColBase」、「e国宝」の文化財情報データベース。「ColBase」は国立文化財機構の所蔵品、絵画や仏像、工芸、考古遺物、歴史資料、古写真など約13万件が登録されています。「e国宝」は2022年にIIIF(トリプルアイエフ)に対応するなど、これまでは提供するデータベースの拡充に取り組んできました。
データベースはいろんな人が文化財にアクセスする第一歩になるので、今後もどんどん充実させていくしかないですね。専門家のためだけのものであってはいけなくて、一般にも広く活用してもらいたい。「ぶんかつブログ」では、ColBaseのさまざまな活用方法もシリーズで紹介していますが、データベースのさらなる充実を継続しながら、活用面でもステップアップしていく。世の中のニーズに対応していくアンテナをしっかり張っていきたいです。

▷ColBase (コルベース/国立文化財機構所蔵品統合検索データベース) [https://colbase.nich.go.jp/?locale=ja]
▷e国宝 [https://emuseum.nich.go.jp/]

◯総務担当
総務担当は〈ぶんかつ〉全体を円滑に進めるための役割と、「ファンドレイジング」の事業も担っています。今年度からは機構内でファンドレイジングの勉強会も開催していて、ちょうどそのアーカイブ配信を見ていたところです。 プロジェクトに人びとが注目してくれることで、実施する側も目的意識が高まってくる。興味深いのは、プロジェクトを立ち上げることで、それが世の中においてどういう位置づけにあるかもわかるということ。今後は、文化財の修復事業だけに限らず、もっと幅広い目的にも取り組んでいけたらいいなと考えています。
わたし自身もクラウドファンディングで支援した経験があるけれど、途中経過を報告してくれるのが支援者の喜びにもつながるんですよ。資金調達のためだけでなく、応援してくれる人とのコミュニケーションツールになるのではないでしょうか。今後も可能性がある領域ですから、有意義に生かしていきたいです。

―6年目を迎え〈ぶんかつ〉は、国立文化財機構の枠に留まらず「ナショナルセンター」としての期待も高まってくると思います。わたしたちの役割について、どうお考えですか。

〈ぶんかつ〉ができるまでは、そういう相談をする機関もなかった。たとえば、保存担当に地域のミュージアムから相談が寄せられているように、以前は困ったことがあっても、どこに相談したらよいのかわからないことが多かったのだと思います。

まだ5年と若い組織ですので、もっと成長が必要です。培った知識や経験は国立文化財機構の枠を超えて、全国のミュージアムへ還元できるようにしたいですね。
そのために、地道な実績を積み上げていく、そして改善して、いろんな組織や人と共有する。
まず、「共有」しましょう。その意識が大切だと思います。
共有することで、声もあがってきます。地域のミュージアムや世の人びとがなにを求めているか、ニーズを聴く。わたしたちは、守備範囲の広い組織なので柔軟に対応していくことができると思います。

〈ぶんかつ〉は、とびらを閉ざさないようにしていたいです。

―インタビューを終えて、インタビュアー(企画担当)より

大美センター長の座右の銘は「日日是好日」。他にも素敵だなと思う言葉を書き留めているそうで、いくつか披露してもらいました。共通するのは日々を大切に過ごしていきたいということば。人柄が表れているようでした。

また、趣味は陶芸で休日は自宅近所の工房へ通っているそう。最近作ったお気に入りは、人形のかたちをした物入れ。胴体部分が2段重になっていて、顔も取り外すことができるので、毎日の気分で顔を取り替えることが可能!
以前は人形作りの教室にも通っていたことがあるそうで、その経験も活かされているのか、ユーモラスでほんわかとかわいらしい表情が印象的です。
「不器用で・・」と謙遜していましたが、なかなかの腕前とお見受けします。


大美センター長作 人形のかたちの物入れ

大美 新センター長のもと、6年目の〈ぶんかつ〉にご期待ください。

カテゴリ: ぶんかつとは