埴輪 二人童女の再会「あしかがの歴史と文化 再発見!」
東京国立博物館(トーハク)で日本考古を担当しております菊池望です。
皆さんは、「足利」と聞いて何を思い浮かべますか?日本最古の学校として知られる足利学校や足利氏の氏寺である鑁阿寺(ばんなじ)、足利織物、最近では足利フラワーパークも大変人気のスポットです。
歴史と文化があふれる街、足利。そのはじまりはとても古くまで遡ります。足利の歴史と文化をたどり、その魅力を「再発見」できる展覧会「あしかがの歴史と文化 再発見! ―鎌倉殿の義弟 足利義兼の祈り 大日如来坐像―」が現在、足利市立美術館で開催中です。
本展覧会は「第1章 原始~縄文時代から弥生時代~」、「第2章 古代~古墳時代から奈良・平安時代~」、「第3章 中世前期~鎌倉時代~」の三章構成です。各章それぞれの時代に魅力的な文化財が展示されていますが、本ブログでは文化財活用センター〈ぶんかつ〉の国立博物館収蔵品貸与促進事業で、トーハクよりお貸し出しいたしました古墳時代の文化財を中心にご紹介します。
足利市は数多くの古墳が密集する地域であることが知られています。それらのうち、今回の展覧会では、足利市の4つの古墳から出土した計16件の文化財をお貸し出しいたしました。
日本人による初めての学術的発掘調査が実施されたことで考古学史上著名な足利公園古墳群、そして鈴付の馬具や腕輪が興味深い助戸十二天古墳の副葬品を、トーハクは所蔵しております。本展覧会では、これらのトーハク所蔵品が足利市教育委員会所蔵の埴輪とともに展示されています。言い換えれば、トーハクの文化財が地元に里帰りをして、同じ古墳から出土した地元の家族ともいうべき文化財に再会している様子を見ることが出来るともいえるでしょう。
鞍金具 古墳時代・6世紀 足利公園古墳群出土 小川幸三郎氏寄贈 東京国立博物館蔵
鞍は馬に騎乗する際に腰掛ける馬具で、出土した金具をはめ込み当時の姿を復元しています。
古墳に埋葬された人物の姿は、彼らが生前に保有していた器物を供える副葬品と、当時の物質文化をよく表現している形象埴輪の両方が分かることでより一層イメージしやすくなります。本展覧会での里帰りと再会を通じて、ぜひ古墳時代の足利の様子を想像していただけたらと思います。
助戸十二天古墳出土埴輪(足利市教育委員会蔵)
また本展覧会で、劇的な「再会」を果たした文化財もあります。熊野古墳より出土した2体の埴輪は、二人一組の埴輪として作られたものでしたが、昭和4年の発掘以来長らく離ればなれとなりました。1体はトーハクで、もう1体は地元である足利市で保管されています。この姉妹ともいえる埴輪の童女が、本展覧会で再会を果たしたのです。
埴輪 童女 古墳時代・6世紀 熊野古墳群出土 山田宗治氏他寄贈 東京国立博物館蔵
類例からは童女2人がひとつの台座に横並びに座する姿が想定され、本展覧会でも並んで展示されております。シャープな顎のラインと高く通った鼻梁が印象的な横顔も驚くほどよく似ていますね。2人が姉妹であったことを改めて実感いたしました。
熊野古墳の二人童女 手前側がトーハクの童女
ほかにも、足利市の古墳で出土した多様な文化財が展示されています。なかでも私の個人的な一押しは、行基平山頂古墳出土の小像・器財の埴輪です。
これらの小像・器財の埴輪には全国的にみても珍しく、男子・女子の人物像に加え、大刀や矢を入れる胡籙(やなぐい)、琴などがあります。器財の埴輪もは小さいながらもその特徴をよく捉えて作られており、琴では弦を貼る様子までもが表現されています。本来は別の埴輪に貼り付けられていたと考えられておりますが、残念ながら作られた当時の様子は分かっていません。当時はどんな埴輪に貼りつけられていたのか、想像が掻き立てられる逸品です。
行基平山頂古墳出土小像・器財の埴輪(足利市教育委員会蔵)
以上ご紹介いたしました古墳時代の文化財とあわせて、本展覧会では足利市の遺跡から出土したさまざまな時代の文化財が豊富に展示されております。また、本展覧会の副題にもあります光得寺(こうとくじ)所蔵の大日如来坐像と地蔵菩薩坐像は、いずれも足利義兼(あしかがよしかね)創建の樺崎寺(かばさきでら)にあったと考えられている、鎌倉時代から現在に伝わる大変貴重な御像です。
今回は、古墳時代の展示品を中心にご紹介いたしましたが、第1章から第3章まで通じてご観覧いただくことで、足利の歴史と文化をあらためて発見できるはずです。
また、観覧の後には、実際に足利の名所を巡ってみることもおすすめいたします。本展覧会が開催されている足利市立美術館は足利学校や鑁阿寺にも近く、少し足を伸ばせば先にご紹介した足利公園古墳群にも訪れることが出来ます。
足利公園古墳群のうちいくつかの古墳では、実際に石室の中をのぞいて観察することが出来ます。本展覧会を観覧した際に、是非ともご覧ください!
会期は10月10日(月・祝)までです。栃木県出身であるわたくし菊池も、本展覧会を通じて、冒頭でご紹介した史跡や産業に留まらない足利の魅力、すなわち歴史と文化が連綿と紡がれ、古墳時代には豊かな埴輪で飾られた数多くの古墳があったことを「再発見」いたしました。是非、皆様も足利の歴史と文化を「再発見」されてはいかがでしょうか。
あしかがの歴史と文化再発見!
2022年7月30日(土) ~ 10月10日(月・祝)
会場 足利市立美術館(〒326-0802 栃木県足利市通2-14-7)
足利市立美術館・公式サイト http://www.watv.ne.jp/ashi-bi/
足利市立美術館・公式Twitter https://twitter.com/ashikagamuseum
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- 2022年09月01日 (木)