瓦の歴史ものがたり。沖縄の瓦が「赤」をまとうまで
令和3年度国立博物館収蔵品貸与促進事業では、実施対象となっている展覧会が5つあります。このブログでは、今年度4つめの開催となる展覧会をご紹介いたします。
那覇市立壺屋焼物博物館において、「うちなー赤瓦ものがたり」展(~12/26まで)が開催されています。 本展は覇市市制施行100周年を記念し、また2019年10月の火災により焼失した首里城の復興応援企画として、那覇と首里城を象徴する赤瓦をテーマとした特別展です。
壺屋焼物博物館 外観
壺屋焼物博物館は、焼物(やちむん)の中心的窯場である壺屋の「やちむん通り」に面しています。壺屋は戦災をあまり受けなかったため、伝統的な石垣に囲まれた昔ながらの路地と文化財が残されていて、陶器工房や販売店とともに情緒あふれる街並みとなっています。
▷「やちむん通り」についてはこちら https://tsuboya-yachimundori.com/
壺屋焼物博物館 敷地入り口。迫力ある龍柱が出迎えてくれます。
本展には、東京国立博物館(トーハク)から、京都大宮御所出土「菊丸練込瓦」や韓国・景福宮出土「龍文軒平瓦」、中国・明孝陵出土の「黄釉龍文軒丸瓦」、そして江戸城、紫禁城など東アジアの王宮で使用された瓦など18件の文化財をお貸し出ししています。
浅草米廩瓦 江戸時代・17~19世紀 東京国立博物館蔵
今回は特別に、展覧会を担当された那覇市立壺屋焼物博物館主任学芸員の倉成多郎さんに見どころをご案内いただきました。
まず、博物館に入ってすぐに「高麗系瓦」の屋根の模型が展示されています。
壺屋焼物博物館 入り口左手の「高麗系瓦」模型
倉成さんから、沖縄の赤瓦には「高麗系瓦」、「大和系瓦」、「明朝系瓦」の3系統があり、「大和系瓦」で葺かれた屋根は通りを挟んで博物館向かいの商店、「明朝系瓦」で葺かれた屋根は博物館となりの壺屋陶器センターと、外へ出てみれば実際に見ることができるのですよ、とご説明いただきました。
本展で赤瓦について学んだあとは、沖縄の瓦葺きの屋根に注目ですね。
博物館となりの壺屋陶器センターに見られる「明朝系瓦」で葺かれた屋根
1階正面は常設展の入り口です。沖縄の焼物の歴史がわかりやすく紹介されています。
ゆるやかにカーブする素敵な階段で2階へ上がると、壺屋焼の技法・製作工程や特徴的な作品、そして製作に使われる道具などが展示されています。
音声ガイダンスは多言語対応になっています。日本語・英語・スペイン語・中国語・韓国語、そしてなんと!「うちなーぐち」(沖縄の方言)にも対応していますよ。音声ガイダンスは無料で貸し出しされていますので、ぜひご利用ください。
3階が「うちなー赤瓦ものがたり」展の会場です。本展のみご覧になる場合は、エレベーターで3階まで上がります。
展示室に入ってすぐの正面に、瓦の種類と作り方の解説があります。
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
瓦の種類と作り方の解説。中央の台上に展示されているのが模骨(もこつ)。
沖縄で作られた瓦を形で区分すると、「丸瓦」、「平瓦」、「軒丸瓦」、「軒平瓦」の4つに代表的され、沖縄では「丸瓦」を「雄瓦(ウーガーラ)」、「平瓦」を「雌瓦(ミーガーラ)」と呼ぶそうです。
瓦を作るときに使用する、模骨(もこつ)と呼ばれる道具も展示されていますので、理解が深まります。
展覧会は、(1)沖縄の瓦成立前の東アジアの瓦、(2)高麗系瓦・大和系瓦の成立、(3)明朝系瓦の出現と定着、(4)王宮の瓦、(5)近世から近代・現代の琉球産瓦の5つのコーナーで構成されていて、9世紀から20世紀までの瓦が展示されています。
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
黄釉龍文軒丸瓦 明時代・15世紀以降 伝中国江蘇省南京市明孝陵出土 東京国立博物館蔵
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
(左)藍瑠璃釉丸瓦 (右)碧瑠璃釉丸瓦 清時代・18~19世紀 伝中国北京市万寿山出土 東京国立博物館蔵
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
雑像(沙和尚) 朝鮮時代・19世紀 伝朝鮮開城南大門所用 徳川頼貞氏寄贈 東京国立博物館蔵
こちらは、雑像(沙和尚)。雑像は朝鮮半島で宮殿の屋根の隅棟に厄除けとして並べられたもので、また、数が多いほど宮殿の格式の高さを示すものでもありました。その造形は『西遊記』のキャラクターに因むとされ、トーハクからのお貸し出しの沙和尚(沙悟浄)のほかにも展示されていますから、どれが三蔵法師やそのほかのキャラクターなのか、見比べてみてくださいね。
展示作品のなかには、1960年代末、復帰前の沖縄で壺屋町内の民家を解体したときに見つかった、乾隆三年(1738)と刻まれた赤瓦も半世紀ぶりに公開されています。
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
明朝系瓦(赤色) 乾隆三年(1738) 個人蔵
この瓦から、少なくとも1738年には現在のような赤瓦が作られていたことがわかります。
また、沖縄の瓦は「赤色」が特徴的ですが、鉄分を多く含む沖縄の土をつかって酸素を十分に供給しながら焼くと(酸化焼成)赤い色になるのだそうです。一方、酸素の供給を最小限にして焼くと(還元焼成)黒から灰色になるとのこと。
このことから、沖縄の瓦がいつ頃「赤」をまとうようになったのかがわかります。こうした瓦の資料とともにその長い歴史が紹介されています。
本展は首里城の復興を応援する企画です。倉成さんに首里城の屋根の歴史についてもご説明いただきました。首里城は15世紀に焼失したあと板葺き屋根で再建されました。続く1660年の焼失では、その後1672年に瓦葺きの首里城が竣工しています。その首里城の瓦がどのようであったかを、王族など高貴な人物の遺骨を納める「厨子」の屋根の表現によって考察をされています。会場で解説パネルをぜひご覧ください。
「うちなー赤瓦ものがたり」展 会場写真
(左:板葺き屋根が表現されたとみられる資料)厨子 1670年 沖縄県立博物館・美術館蔵
(右:赤や黒が混在する瓦葺き屋根が表現された資料)石厨子 19世紀 門上秀叡・千恵子コレクション那覇市立壺屋焼物博物館蔵
「うちなー赤瓦ものがたり」展は2021年12月26日(日)まで開催中です。会場に行くのが難しいという方には、図録の通信販売もあります。図録のお求めは、那覇市立壺屋焼物博物館「刊行物」 http://www.edu.city.naha.okinawa.jp/tsuboya/zuroku.html をご覧いただき、詳細は博物館までお尋ねください。
那覇市立壺屋焼物博物館へのアクセスは、那覇空港からゆいレール(モノレール)をご利用の場合は牧志駅で下車、徒歩10分。バスをご利用の場合は壺屋バス停から徒歩5分、開南バス停からも徒歩5分です。沖縄の瓦の歴史を学び、瓦資料をじっくりと鑑賞したあとは、赤瓦で葺かれた屋根を見ながら「やちむん通り」をぶらっとするのもおすすめですよ。
やちむん通り
うちなー赤瓦ものがたり
会期 2021年11月2日(火) ~ 2021年12月26日(日)
会場 那覇市立壺屋焼物博物館(〒902-0065 沖縄県那覇市壺屋1-9-32)
開館時間 10:00~18:00(最終入館は17:30まで)
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
※ただし、月曜日が休日にあたる場合は開館します。
※その他、資料整理に伴う臨時休館日があります。
観覧料金 (「うちなー赤瓦ものがたり」は無料/ 常設展 一般:350円(280円)、大学生(各種専門学校等含む)以下無料
※カッコ内は20名以上の団体等の割引料金
那覇市立壺屋焼物博物館・公式サイト http://www.edu.city.naha.okinawa.jp/tsuboya/index.html
那覇市立壺屋焼物博物館・公式twitter https://twitter.com/TsuboyaPotteryM
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- 2021年12月02日 (木)