2019年度の貸与促進事業を振り返る
文化財活用センター〈ぶんかつ〉が取り組む国立博物館収蔵品貸与促進事業では、2019年度は5つのミュージアムにトーハクの所蔵品71件をお貸し出しいたしました。1月も終盤に入り、いよいよ今年度は残すところあと1会場のみとなりました。
近代洋画の先駆者 浅井忠 ―トーハクの名画がやってきた!―
千葉県立美術館(会期:2020年1月28日~4月12日)
2019年度事業の「トリ」を飾るのは、1月28日(火)から千葉県立美術館で開催中の「近代洋画の先駆者 浅井忠 ―トーハクの名画がやってきた!―」展。
千葉県佐倉市で育った浅井忠の画業を振り返るこの展覧会に、代表作の一つ「春畝」(重要文化財)や「グレーの秋」、師のアントニオ・フォンタネージの「風景(不忍池)」など、東京国立博物館(トーハク)の所蔵品7件をお貸し出ししています。
重要文化財 春畝 浅井忠筆
明治21年(1888)
風景(不忍池)
アントニオ・フォンタネージ筆
明治9~11年(1876~78)
近代洋画の先駆者としての浅井忠の画業を、「学生時代」「明治美術会と仲間達」「ヨーロッパ時代」の3つの構成により振り返る展覧会です。ぜひお出かけになってみてくださいね。
すでに終了していますが、そのほかの2019年度事業の展覧会をふりかえってみましょう。
まずは、21件以上の作品をお貸し出しした「大規模貸与」事業として開催された展覧会。
明治金工の威風 ―高岡の名品、同時代の名工
高岡市美術館(会期:2019年9月20日~10月20日)
トーハクからは、本館の総合文化展でもしばしば展示され、人気の高い作品を含む32件が貸し出されました。
貸与促進事業は、国立博物館の所蔵品から地域と縁の深い作品を、〈ぶんかつ〉が輸送費等を負担してお貸し出しし、それぞれのミュージアムが地域の魅力、そして日本とアジアの文化の魅力を発信するという事業です。
頼光大江山入図大花瓶
横山孝茂・横山弥左衛門作
明治5年(1872)
重要文化財 鷲置物 鈴木長吉作
明治25年(1892)
高岡は、加賀藩第2代藩主・前田利長公の時代から、金属工芸の町として長い歴史を持ちます。この土地に、地元作家によって制作された1873年のウィーン万国博覧会出品作「頼光大江山入図大花瓶」や、同時代に活躍した名工・鈴木長吉の代表作の一つ「鷲置物」(重要文化財)などをお貸し出しできたことは意義深いことでした。来館者アンケートでは、展覧会に対する満足度が90%であったという嬉しい結果も。同館担当学芸員の竹内唯さんからは、今回の貸与促進事業を通じて「高岡の金工を新しい眼で見つめる機会となり、地域や所蔵品に改めて向き合えた」「来館者の声からも地域文化の発信の効果が実感できた」という感想もいただきました。
一方、20件以内の作品貸し出しが対象となる「小規模貸与」事業では、冒頭でご紹介をした千葉県立美術館の展覧会のほか、三重、青森のミュージアムにトーハクの作品が貸し出されました。
没後200年記念 増山雪斎展
三重県立美術館(会期:2019年4月20日~6月16日)
今年度最初の展覧会となったのは、三重県立美術館の「没後200年記念 増山雪斎展」。増山雪斎(ましやませっさい)(1754~1819)は、「風流抜群の人」と称された長島藩第5代藩主で、藩政にあたりながら、自身も絵や書をたしなみ、文人墨客の庇護者としても名高い大名でした。雪斎ゆかりの地・三重で開催されたこの展覧会では、博物学的な観察眼も持った雪斎の代表作の一つ「虫豸帖(ちゅうちじょう)」や、彼の画風に大きな影響を与えた沈南蘋(しんなんぴん)や宋紫石(そうしせき)の作品など10件の作品が貸し出され、お披露目されました。
東京国立博物館所蔵の「虫豸帖」全4帖を展示
日金山眺望富士山図
宋紫石筆 江戸時代・18世紀
同館担当学芸員の村上敬さんからは「応募書類作成のために早い時点で展覧会の内容を固めたため、その後の準備全般がスムーズに進んだ点がよかった」という感想をいただきました。応募時期、決定時期などがあらかじめ分かっていたため、計画的な展覧会準備が可能となり、学芸の業務面、心理面での負担を軽減できたようです。学芸員の皆様にとって使いやすく、応募のしやすい事業にしていけるよう、引き続き全国のミュージアムともコミュニケーションをとっていきたいと思います。
あおもり土偶展
三内丸山遺跡センター(会期:2019年7月20日~9月1日)
夏に開催された三内丸山遺跡センターの「あおもり土偶展」では、青森県の亀ヶ岡より出土し、「シャコちゃん」の愛称で親しまれ、駅舎のデザインにもなっている地元のシンボル「遮光器土偶」(重要文化財)が15年ぶりにトーハクから里帰り。
JR五能線木造駅舎
画像提供:三内丸山遺跡センター
トーハクからは、北海道や東北地方出土の土偶などを加え、合計5件の考古資料をお貸し出ししました。開催時期が、ねぶた祭りや夏休みとも重なったこともあり、ご家族連れや県外からの旅行者など、多くの方々に展覧会をご覧いただきました。
展示会場風景
東京国立博物館所蔵の「遮光器土偶」を展示
担当学芸員の業天唯正さんによれば、青森ゆかりの貴重な出土品を展示することでお客様満足度も高く、「はじめて本物を見て感動した」「本物を隅々まで観察できてよかった」など、喜びのお声が数多く寄せられたそうです。
最後に、今年度はもう一つ特別枠も。2018年7月に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録されたことを記念し、東京国立博物館収蔵品のうちキリシタン関係遺品に特化した貸与促進事業を実施しました。
大分のキリスト教史
大分県立先哲史料館(会期:2019年9月21日~11月4日)
この枠に決定したのは、大分県立先哲史料館。豊後国(大分)は、大友義鎮(よししげ)(宗麟)がキリスト教を信仰し、16世紀の九州におけるキリスト教の拠点となったことで知られる土地であり、現在までキリスト教史の研究が熱心に続けられています。同館の開館25周年を記念して開催された「大分のキリスト教史」展では、「板踏絵 キリスト像(ピエタ)」や「板踏絵(エッケ・ホモ)」、「十字架(聖遺物函)」など17件のキリシタン資料がトーハクから貸し出されました。
重要文化財 板踏絵 キリスト像(ピエタ)
江戸時代・17世紀
東京国立博物館所蔵の
銅版画及び十字架(聖遺物函)を展示
担当学芸員の櫻井成昭さんからは「内容に深まりと広がりができ、充実した展示となった」という感想とともに、「教科書で目にした踏絵を見ることができ感動した」というお客様から寄せられたお声もご報告いただきました。
1年を通じて、東北、関東、北陸、近畿、九州の各地域でトーハクの所蔵品が展示され、地域文化の発信に役立てていただいた2019年度の東京国立博物館収蔵品貸与促進事業。2020年度もまた、日本各地でトーハクの名品を皆様にご覧いただく予定です。どうぞお楽しみに!
2021年度実施の国立博物館収蔵品貸与促進事業の募集要項を公開中です。
▷2021(令和3)年度 国立博物館収蔵品貸与促進事業 実施対象館 募集要項のページを見る
4月1日から応募受付も開始いたします。
※応募受付期間:2020年4月1日(水)から6月30日(火)[17時必着]まで
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- 2020年02月11日 (火)