ぶんかつブログ

文化財を貸し出す前のしこ踏み

文化財活用センター〈ぶんかつ〉では、東京国立博物館(トーハク)収蔵品のなかから、地域にゆかりのある文化財の貸し出しを促進する貸与促進事業を行なっています。
貸し出しにあたっては、たんに作品そのものを貸し出すだけではなく、作品を安全に、そして作品そのものの魅力をたっぷりとご覧いただけるように、展示具(支持具)も合わせて貸し出すことがあります。

貸与促進事業実施館のひとつ、青森県の三内丸山遺跡センターで開催中の特別展「あおもり土偶展」(2019年7月20日~9月1日)には、北海道や東北地方から出土した縄文時代の土偶や土面を貸し出しています。出土品や遺物とも呼ばれたりもする考古資料ですが、その多くはお客様に展示して見せることを前提として作られていないため、そのままではケースのなかに安全に展示することができません。ですから展示にあたっては、あらかじめさまざまな準備や工夫が必要になります。

今回貸し出した土偶(北海道室蘭市輪西町出土)は、東北地方で数多く出土する遮光器土偶を北海道の縄文人が真似して作ったもので、両者の交流を裏付けるものです。顔の目・鼻・口や体の文様の表現は北海道の縄文人が得意とする手法を用いているため、遮光器土偶と見比べるとどこかしらチグハグな印象を与えます。出土したときの様子は明らかではありませんが、ほぼ完全な姿で出土したこともまた北海道の土偶らしい特徴です。


重要文化財 土偶(北海道室蘭市輪西町出土 縄文時代(晩期)・前1000~前400年)部分

さて、この土偶は一見自分の足で立つことができそうですが、ドラえもんのような小さいく丸い足のため、実は支えなしには立つことができません。そのため何もしなければ展示ケースのなかにゴロンと寝かせた姿でしかみなさまにお見せできず、後頭部に残る赤い彩色やかんざしのような装飾、背中や腰の渦巻き文様をお楽しみいただくことができません。そのため今回、土偶を支えるための展示具を作ることにしました。


後頭部に残る赤い彩色やかんざしのような装飾、背中や腰の渦巻き文様が見えますか?

展示具の作成にあたっては、土偶の大きさや形状をあらかじめかしっかりと確認する必要があります。計測の際には、長さを測る定規に加え、厚さを測るノギスやキャリパー、形をうつし取るマコなど、みなさんが普段なかなか目にすることのない道具を用います。その成果をもとに展示具の設計図を作成し、作品との仮合わせ、本合わせを経て、ようやく完成にいたります。


展示具の設計図と計測機器
左から、ノギス、マコ、定規

展示具の仮合わせの様子

展示具の本合わせの様子

三内丸山遺跡センターで開催されている特別展「あおもり土偶展」では、土偶のなかの土偶とも言えるトーハクの遮光器土偶(青森県つがる市木造亀ヶ岡出土)とともに本土偶が魅力的に展示されています。会期は9月1日(日)までと残りわずかですが、「あおもり土偶展」にぜひお出かけいただき、今回集合した多くの土偶たちとともにご覧いただければと思います。


重要文化財 遮光器土偶(縄文時代(晩期)・前1000~前400年青森県つがる市木造亀ヶ岡出土)の展示風景

重要文化財 土偶(北海道室蘭市輪西町出土)の展示風景

〈ぶんかつ〉貸与促進事業では、作品の貸し出しだけではなく、作品の修理や撮影、展示具の作成など、文化財を活用するための準備作業、言い換えれば、しこ踏みのような作業を日々行なっています。お相撲さんが土俵で活躍できるのは普段の稽古(しこ踏み)のたまもの。文化財の活躍の場を広げ、より多くのみなさまに楽しんでいただけるよう、これからもさまざまなしこ踏みを継続していきます。

夏季特別展「あおもり土偶展」(三内丸山遺跡センター)の詳細を見る

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カテゴリ: 文化財の貸与