菱川師宣(ひしかわもろのぶ)が描いた肉筆の浮世絵で、切手のデザインになったことでも有名な作品です。鮮やかな紅色の衣裳をまとった女性が、足をとめて振り返っています。こちらからは彼女の横顔しか見えませんが、その分、後姿から当時のファッション・トレンドをしっかりと楽しむことができます。ヘアースタイルは、下げた髪の先端を輪に結んだ「玉結び」。この頃流行した髪型です。髪にさした櫛は高級品の鼈甲(べっこう)のようです。振袖は、紅色の光沢のある地に小花模様の地紋が織り出され、大輪の菊と桜の「花の丸模様」が散らされています。これも当時流行したもの。これらの模様は、鹿の子絞りや絹糸、金糸の刺繍、あるいは金箔などで表されたものでしょう。菱川師宣が、きものを刺繍と金銀の箔で飾る縫箔師(ぬいはくし)であったことを思えば、こうした細かいデザインの表現はお手の物でしょう。結び手が左右に長く垂れた帯は、人気の女形役者・上村吉弥(かみむらきちや)が発信元となった「吉弥結び」。これだけファッショナブルに贅を尽くしたお洒落な女性がいったい何者だったのか、気になりますが、モデルは分かっていません。師宣の描く女性像はたいへん人気で、「師宣の美女こそ江戸女」と賞賛されました。 ―ColBase 国立博物館所蔵品統合検索システムより