下関市立考古博物館 開館30周年記念特別展「上の山古墳と穴門の趨勢」
山口県下関市彦島出身の河野です。東京国立博物館〈トーハク〉で日本考古(古墳時代)を担当しています。
このたび私の地元、下関市立考古博物館が開館30周年を迎えることになりました。
その記念すべき特別な年に、特別展「上の山古墳と穴門の趨勢─本州最西端の後期古墳と集落─」(2025年10月11日~12月7日)が開催されています。
▷「上の山古墳と穴門の趨勢─本州最西端の後期古墳と集落─」の開催概要を見る

下関市立考古博物館 外観
本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館・東京文化財研究所・奈良文化財研究所が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立文化財機構所蔵品貸与促進事業」による、令和7年度の展覧会です。
▷貸与促進事業とは
東京国立博物館からは、本展のメインとなる上の山古墳(上ノ山古墳)出土品などを、一括して15件をお貸し出しすることになりました。
このたび30周年記念ということで、まず博物館の玄関先には、大きな看板がたっていました。これまで何十回も博物館に通った私でさえ、このような大きな看板は見たことがなく、恐らくはじめての試みではないかと思います。

特別展「上の山古墳と穴門の趨勢」の看板
そして、博物館に入ると普段常設展示として見慣れた風景が特別展仕様に変わっていました。具体的には、現代から過去へタイムスリップするかのような、ゆるやかなスロープが導入部にあるのですが、ここも特別展を意識したつくりに変更していました。下関市立考古博物館が、この特別展にかける強い思いが伝わってきます。
なお、特別展の広報のため、カッコイイ動画も今回特別に制作されていました。学芸員の方にお話をうかがうと、貸与促進事業の支援をうけたラッピングバスも、11月末まで下関市内に登場するとのことです。
▷▷特別展「上の山古墳と穴門の趨勢-本州最西端の後期古墳と集落-」の告知動画

【左】特別展仕様となったゆるやかなスロープ
【右】走行中のラッピングバス。左手にみえるのは綾羅木郷遺跡です。
スロープ下には常設展の、弥生時代を中心としたダイナミックな展示があります。
ここで本題からはズレてしまいますが、この下関市立考古博物館は弥生時代の綾羅木郷(あやらぎごう)遺跡があった場所に建てられています。この綾羅木郷遺跡は、大きな集落遺跡でして、たくさんの弥生土器が出土しました。また、土製の笛(陶塤・とうけん)が出土したことでも著名です。

【左】常設で展示している綾羅木郷遺跡から出土した弥生土器
【右】常設の天井には、弥生時代の人が陶塤を吹く様子が展示されています。
この常設展の最後には、綾羅木郷遺跡を発掘調査した風景と、弥生時代の人びとの生活の様子が対になるように、再現展示をしています。当時発掘に携わった考古学者も展示のモデルとなっています。

綾羅木郷遺跡発掘の再現展示。奥は弥生時代の人びとの生活風景
この綾羅木郷遺跡は、もともと珪砂の採掘と発掘調査が並行して行われていた場所だったのですが、昭和44年(1969)に遺跡破壊を伴う採掘作業が行なわれ、市民や調査関係者が徹夜でブルドーザーの前に立ちはだかって遺跡破壊を阻止するという未曽有の事件がありました。この事件を乗り越えて遺跡は史跡指定され、保存されることになりました。
今年、ドキュメンタリー作品『時と土 綾羅木郷遺跡、史跡指定と現在』をYouTube動画(下関市立考古博物館公式チャンネル)にて発信しています。保存する側、開発する側の双方立場を踏まえて制作した、すばらしい内容になっています。ぜひ、ご覧いただければ幸いです。
▷▷下関市立考古博物館公式チャンネル『時と土 綾羅木郷遺跡、史跡指定と現在』
さて、本題の特別展の話題に戻ります。会場入口は普段の常設スペースにまで食い込んでおり、通常よりも特別展会場が広くなっていました。しかもあの広報動画も流れています!

特別展会場入口
今回の特別展は、大きく5つの構成からなっておりました。具体的には、下記の通りです。
プロローグ 穴門(あなと)の醸成
第1章 上の山古墳の出現
第2章 穴門中枢域の後期古墳
第3章 穴門中枢域の集落
エピローグ 穴門から長門へ
下関市域の古墳時代が詳しく古墳・集落両面からわかる構成となっていまして、その中でも第1章は、上の山古墳がメインの展示となっていました。展示や図録をみますと、ヤマト王権との関係性の強さが、これまで以上に具体的に強調されています。どうしてこの下関の地を王権が重視したのかを考えながら、私自身も論文をこれから発表する予定でしたので、興味深く拝見しました。今回私の他、福岡大学の桃﨑祐輔先生、山口県埋蔵文化財センターの岡田裕之先生が図録に特論を書いており、上の山古墳についての情報、位置づけがかなり更新されており、そのような最新の研究成果を反映した展示となっています。

上の山古墳(上ノ山古墳)出土品の展示風景
特別展は、単に作品(遺物)を見せるということのみならず、他にも仕掛けがありました。それは、箱の中に複製品を入れて手の感覚だけで、中に入っている作品を当てるというクイズです。このような体感展示は、インクルーシブを重視してきた、下関市立考古博物館ならではの展示手法かと思います。

さわって学ぶ展示
なお、展示の最後には、アンケートが置いてありまして、アンケート回答者の中から抽選で10名様に「ぶえ吉」刺繍入り靴下がプレゼントされるそうです。この「ぶえ吉」とは、下関市立考古博物館公式マスコットでして、冒頭に説明しました土製の笛(陶塤)の、ゆるキャラです。

ぶえ吉

【左】アンケートぶえ吉
【右】「ぶえ吉」刺繍入り靴下。プレゼントは子ども用、男性用、女性用の3種類から選べます。
さて、特別展を満喫して博物館の外にでていただくと「史跡の道」があり、弥生時代から古墳時代の遺跡見学も楽しむことができます。今回の特別展で注目される上の山古墳は、残念ながら明治時代に破壊されておりまして、現在は川北神社が古墳跡地に建っています。しかしながら、現存する古墳も多く、若宮1号墳、移築した岩谷古墳など、見ごたえのある古墳が沢山あります。また、多鈕細文鏡(たちゅうさいもんきょう)などが出土した弥生時代の梶栗浜(かじくりはま)遺跡も近くです。あわせて遺跡も見学できますので、下関市立考古博物館で開催中の、開館30周年記念特別展「上の山古墳と穴門の趨勢─本州最西端の後期古墳と集落─」に皆様お越しください。

【上段】[左] 上の山古墳跡地に建つ川北神社 [右] 若宮1号墳
【下段】[左] 岩谷古墳。石室内も見学できます。 [右] 梶栗浜遺跡の石棺
開館30周年記念特別展「上の山古墳と穴門の趨勢─本州最西端の後期古墳と集落─」
会期 2025年10月11日(土)~2025年12月7日(日)
会場 下関市立考古博物館(山口県下関市大字綾羅木字岡454番地)
開館時間 午前9時30分~午後5時 ※入館は午後4時30分まで
休館日 毎週月曜日
観覧料 無料
下関市立考古博物館・公式サイト https://www.shimo-kouko.jp/
下関市立考古博物館・Instagram https://www.instagram.com/shimonoseki_koukohaku/
下関市立考古博物館・X https://x.com/shimokouko
下関市立考古博物館・Facebook https://www.facebook.com/shimonosekicity.koukohaku/
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- 2025年11月18日 (火)