ぶんかつブログ

金色の銅鐸を鳴らしてみよう!

文化財活用センター〈ぶんかつ〉では、形や色のほかに、重さや素材を原品にあわせることで 、本物の質感に迫る複製品を制作してきました。縄文時代の「重要文化財 みみずく土偶」の複製品は、粘土を焼き上げることで本物そっくりの手触りを再現しました。古墳時代の「国宝 埴輪 挂甲の武人」 (彩色復元)では最新の研究成果をもとに、制作当時の姿を復元しました。
今回ご紹介するのは2023年度から2024年度にかけて制作した「国宝 扁平鈕式銅鐸(へんぺいちゅうしきどうたく)」 の復元品。青銅製の銅鐸を、現代の職人の手による鋳造によって復元しました。


完成した金属製の扁平鈕式銅鐸(右側は原品の複製品)


▷▷複製「国宝 扁平鈕式銅鐸」(復元)の情報を見る

青銅ってなに?
素材となる青銅は「合金」と呼ばれる、複数種類の金属を溶かして混ぜ合わせたもの。わたしたちの身近にあるものでは硬貨が合金で す。5円玉(黄銅:銅と亜鉛)、10円玉(青銅:銅と錫、鉛)、100円玉(白銅:銅とニッケル)というように、混ぜ合わせる金属の種類によって色が変化します。主に含まれるになる金属が銅であるため、一般的に「〇(色)銅」という名称で呼ばれています。合金にすることで、元の金属よりも耐久性や剛性に優れた素材となるため、現代でも広く利用されています。

ところで、10円玉で気付いた人もいるかもしれません。「青銅って、青くないな」。

そう、青銅はもともとの合金の色と違う名前が付けられているのです。実は青銅は、表面が錆びた状態の色を示した名称。不思議なことに青銅は錆びると表面に「緑青(ろくしょう)」という錆の膜ができることで、錆が内部まで進行しなくなるという優れた特性を持っています。


錆びた青銅の色(突線鈕1式銅鐸 弥生時代(中期)・前2~前1世紀 徳島市 源田遺跡出土 東京国立博物館)

青銅製である「国宝 扁平鈕式銅鐸」原品の表面は深い緑色に錆化していますが、状態は大変良好です。これまでにも原品の形状にくわえて色や重量を忠実に再現した樹脂製の複製銅鐸を制作してきました。


国宝 扁平紐式銅鐸 弥生時代(中期)・前2~前1世紀 伝香川県出土

樹脂製の「国宝 扁平紐式銅鐸」複製

 

さて、今回制作した複製品は、弥生時代の製作当時の状態を復元した青銅製銅鐸です。合金の比率は近年発見された類例の南あわじ市・松帆(まつほ)銅鐸などを参考に、「銅80%、錫15%、鉛5%」としました。銅鐸が制作された弥生時代当時は、写真のように金色に輝く姿だったのです。


金属製の「国宝 扁平鈕式銅鐸」複製(復元)、舌(復元)

鋳造の様子
銅鐸の鋳造についてはこれまでのブログ でも詳しく紹介されているので、写真で簡単におさらい。


組み上げ前の鋳型(右端は溶かした青銅を流し込むための注ぎ口)


組み上がった鋳型。両側からしっかりと固定します。


坩堝(るつぼ)に入れた銅、錫、鉛を1200°近くまで加熱し完全に溶かします。


二人で息を合わせて、2ヶ所から同時に流し込み。緊張の一瞬。


鋳上がった銅鐸(右端)


最後に全体を磨いてピカピカに。

「重さ」の再現に挑戦…結果は?
今回の制作で一番の難所は銅鐸の「重さ」を再現することでした。樹脂製の複製銅鐸の場合は、樹脂そのものが軽いため、樹脂の中に鉛の板を仕込むなどして、重量を調整していました。しかし、鋳造する場合にはその方法もできないため、原品の形状を保持しつつ、銅鐸の厚さ(およそ2.0~3.0㎜)を微調整することにチャレンジ!


厚さを変えて鋳造した銅鐸(左から厚さ2.5㎜、2.0㎜、2.0㎜、1.8㎜)

…結果はご覧の通りで、2.5㎜以外の厚さではいずれも鋳造不良となってしまいました。わずか0.5㎜の差ですが、溶かした青銅が鋳型に回りきらず、銅鐸の表面に孔(あな)があいてしまうことに。そのため、今回の復元制作では形状の復元にとどめ、重量については将来の課題としました。器壁を薄くすることは現代の鋳物職人の技術をもってしても困難で、改めて弥生時代の技術の高さに驚かされました。

ならしてみよう!金色のどうたく
2024年12月に出来上がった銅鐸復元品。
年明け2025年1月26日に東京国立博物館で開催されたトーハクキッズデーで早速使用しました。弥生時代の青銅器を専門とする菊池望研究員(東京国立博物館)と飯田が交代で計4回、ワークショップ「金色のどうたくを鳴らそう!」を実施。銅鐸の表面に描かれているトンボや鳥、米搗き(こめつき)をする人や狩りの場面など、さまざまな絵を子どもたちとじっくり観察しました。


ワークショップの様子。計276名の方々が参加してくださいました。

実際に銅鐸を鳴らしてみると、部屋全体に響き渡るような大きな音に、子どもだけでなく大人もびっくり。まさに金属ならではの鐘の音でした。

鉄や青銅といった金属は、弥生時代中期に中国大陸や朝鮮半島を経由して日本列島にもたらされた新素材です。それまで日本列島には金属でできた道具は存在しなかったため、金属特有のキラメキや遠くまで響き渡る高い音は、弥生時代の人々を大いに驚かせたと考えられます。

平成館考古展示室では「国宝 扁平鈕式銅鐸」原品を展示中(~2025年8月31日まで)。この機会にぜひご覧ください!


展示中の「国宝 扁平鈕式銅鐸」

関連ブログ
複製銅鐸の鋳造については、以下のブログでも詳しく紹介されています。
▷▷弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作(前編)

▷▷弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作(後編)

▷▷弥生時代の“ワザ”に挑む!Part2土製鋳型を用いた銅鐸の復元制作

 

カテゴリ: 複製の活用