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お宝をまもる!丸山瓦全の熱い取り組み

茶釜といえば「西の芦屋、東の天明(てんみょう)」と称される天明は、鋳物(いもの)の産地である現在の栃木県佐野市の古い地名です。天明の名が天下に広く知れ渡ったのは茶道文化が花開いた安土桃山時代のことでした。
天明鋳物は、茶道で使用する茶釜をはじめとして、生活の中においては鍋や農機具、祈りの世界では燈籠(とうろう)や梵鐘(ぼんしょう)などが鋳物師(いもじ)によって作られました。

技術にすぐれ、高い名声を誇ったその天明鋳物ですが、危機に見舞われた時代がありました。昭和初期の「金属類回収令」は、家庭からの廃品の回収にはじまり、ついには寺院等からの金属献納へと広がりました。 梵鐘の供出が進むなか、地元の大切なお宝をまもろうと奮闘した人物がいました。それが足利の考古学者・丸山瓦全(まるやま・がぜん/1874~1951)です。

瓦全は少年期を母の実家である佐野市葛生(くずう)の吉澤家で過ごしました。酒造業を営んでいた同家ですが、江戸時代後期の11代当主・吉澤松堂(しょうどう)のときに下野出身の文人画家・高久靄厓(たかく・あいがい)と親交をもって以来、家業に精を出す一方で書画に親しむ家となりました。吉澤家は文人や画家が各地を遊歴する拠点ともなっていきます。瓦全は幅広い文物に深い関心を持つようになり、同家との親交は晩年まで続きました。

瓦全がどのような作戦のもとお宝をまもったのか、その作戦と、天明鋳物の名品の数々を紹介する展覧会が佐野市制20周年を記念して佐野市立吉澤記念美術館で開催されています。本ブログにて、「丸山瓦全と佐野のお宝保護作戦!―エラスムス立像を見つけ、天明鋳物をまもった―」展(会期は3/9日曜まで)をご紹介いたします。


佐野市立吉澤記念美術館外観

この展覧会は「令和6年度国立博物館収蔵品貸与促進事業」に採択され、東京国立博物館から9件の作品が貸し出されています。

▷▷「丸山瓦全と佐野のお宝保護作戦!―エラスムス立像を見つけ、天明鋳物をまもった―」の開催概要をみる

昭和16年(1941)8月の「金属類回収令」の公布・発令により金属供出が進むなか、危機を覚えた瓦全は栃木県全域で梵鐘の銘文の記録を組織的におこない、保護を求めました。瓦全による昭和17年(1942)11月の下野新聞への連載記事によれば、手を尽くし350の銘文を集め、そのうち県内に所在する梵鐘全体の1割弱を保存対象として選定したが、県からはさらに減らすよう要求があったようです。
「御意見には、遺憾が通り越して明いた 口がふさがり申さず、さればとて強弁すれば時局をわきまへない非国民といはるゝ?とも思はれるゆえ、これ以上は説明は申し上げ兼る」と新聞への連載記事にあり、県側との話し合いが決裂した当日の日記には「御勝手にと言葉を残して帰宅」と記されています。いずれも瓦全の文化財保護への熱い思いがひしひしと伝わってくる資料です。

本展では保護活動の記録資料の数々を示し、瓦全によるお宝保護作戦の内容が解説されるとともに、天明鋳物の名品が多数展示されています。


重要文化財 銅梅竹透釣燈籠(どううめたけすかしつりとうろう) 室町時代・天文19年(1550) 千葉市中央区千葉寺町千葉寺址出土 銅製 鋳造 畑野勇治郎氏寄贈 東京国立博物館蔵

こちらは東京国立博物館からお貸し出ししている、「銅梅竹透釣燈籠」(重要文化財)です。釣灯籠は、仏前に燈火(とうか)を捧げるための道具で、宝珠(ほうじゅ)、吊輪 (つりわ) 、笠(かさ)、火袋(ひぶくろ)、受台、脚からなり、火袋には透(すかし)彫りが施され華麗なものが多くみられます。この燈籠の火袋には梅樹と竹が透かしてあります。
本展では、制作年代が5年違う、天文14年(1545)に制作された「鋳銅梅竹文透釣燈籠」(重要文化財・引地山観音堂(佐野市)蔵)と、近代の鋳金工芸作家・香取秀真(かとり・ほつま/1874~1954)が瓦全の依頼で大正13年(1924)に東京国立博物館蔵の写しを制作した「鋳銅梅竹文透釣燈籠写」(吉澤コレクション・吉澤記念美術館寄託)の3件がそろい踏みで展示されています。
製作年代によるわずかな違いや、透かしの美しさなどをぜひじっくりと鑑賞してみてください。


天明口厚釜(てんみょうくちあつがま) 室町時代・16世紀 鉄製 鋳造 東京国立博物館蔵

こちらも東京国立博物館からお貸し出しの「天明口厚釜」です。そろばん玉に似た「達磨釜(だつまがま)」がやや丸みをおびたような姿をしていて、口の厚さが他の天明釜に比べて厚いことからこの名があります。肩から口にかけての部分にみられる、層をなした鉄がはがれ落ちそうに見える肌が天明釜の特徴です。

さて、瓦全のよく知られるもう一つの功績といえば、エラスムス立像(重要文化財・龍江院蔵)の発見ではないでしょうか。本展においてエラスムス立像が100年ぶりに里帰りをはたしています。
「貨狄(かてき)様」、はたまた「小豆とぎ婆(ばばあ)」と呼ばれていたエラスムス立像の解説は本展の展示室内ではとてもおさまりません。吉澤記念美術館内に併設された交流センターにてパネル展が開催されていますので、こちらもあわせてご覧ください(同じく3/9日曜まで)。


美術館入口の撮影スポット。等身大のエラスムス立像のパネルがお出迎え

入口右手にあるミュージアムショップでは本展の図録(1,800円税込)を販売しています。お取り寄せにも対応していますので詳しくは佐野市立吉澤記念館のウェブサイト をご覧ください。

▷▷佐野市立吉澤記念館の図録・ミュージアムショップはこちら

佐野市には、昔から親しまれている「佐野かるた」があります。
読み札は地元の名所や歴史を紹介するもので、佐野市民のみなさんは子どもの頃から耳によくなじんでいるそうです。
「す」は、「すかしの梅竹 つりどうろう」
「り」は、「立像は 龍江院の 貨てきさま」
どちらも本展にて実物をご覧いただける絶好の機会です。

瓦全によるお宝保護の取り組み、天下に名をとどろかせた天明鋳物の数々、みどころ満載の本展にぜひ足をお運びくださいませ。

佐野市制20周年記念特別企画展「丸山瓦全と佐野のお宝保護作戦!―エラスムス立像を見つけ、天明鋳物をまもった―」

会期 2025年1月25日(土) ~ 2025年3月9日(日)

会場 佐野市立吉澤記念美術館(栃木県佐野市葛生東1-14-30)

開館時間 午前9時30分~午後5時

休館日 月曜日(2月24日は開館)、祝日の翌日(2月12日、25日)

観覧料金 一般520円(470円)
・()内は20名以上の団体料金
・大学生以下・障害者手帳をお持ちの方とその介添者1名は観覧無料
・団体以外は予約不要、入場制限をおこなう場合がございます
・現金のみ

佐野市立吉澤記念美術館・公式サイトhttps://www.city.sano.lg.jp/sp/yoshizawakinembijutsukan/

佐野市立吉澤記念美術館・Instagramhttps://www.instagram.com/yoshizawa_muse_sano/

 

カテゴリ: 文化財の貸与