ぶんかつブログ

教室に若冲がやってくる! 文化財ソムリエの訪問授業

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、先端技術を用いて国立博物館の収蔵品の複製やデジタルコンテンツを開発し、それらを活用する活動を行なっています。
このブログでは、京都国立博物館が2023年度に制作した「果蔬涅槃図(かそねはんず)」の複製についてご紹介します。
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文化財に親しむ授業
京都国立博物館は、2009年からNPO法人京都文化協会・京都市教育委員会と協力して、「文化財に親しむ授業」を実施しています。この授業では、学校の教室に掛け軸や屏風の高精細複製品を持ち込みます。授業の講師を務めるのは、博物館でスクーリングを受けた「文化財ソムリエ」と呼ばれる大学生・大学院生です。今回の記事では、京都市立七条中学校で実施した授業を例に、その様子をご紹介します。
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授業ができるまで
七条中学校の授業では、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)筆「果蔬涅槃図」(重要文化財、京都国立博物館蔵)の複製を使用しました。この複製は、〈ぶんかつ〉と京博がともに取り組む事業として新たに制作したものです。

授業の内容は毎回、講師を担当する文化財ソムリエが作ります。講師のうち「リーダー」が授業案の作成を行ない、「教材担当」が映写資料や配布物を作成します。「果蔬涅槃図」の授業は初めてのため、いつもより念入りに準備を行ないました。「文化財に親しむ授業」では知識を一方的に伝えるのではなく、できるだけ子どもたちの言葉を引き出せるよう、さまざまな問いかけをします。七条中学校の授業では、文化財ソムリエ13期生の長田祐樹がリーダーを、同じく13期生の田中偲温が教材担当を務めました。文化財ソムリエが博物館に集まるスクーリングにて、意見交換とリハーサルを行ない、初めての教材に試行錯誤しながら、最終的な授業の形を決めました。


スクーリングの様子(生徒の視線でどう見えるか確認)


スクーリングの様子(墨の説明の練習)

 

授業当日の様子
2024年10月25日(金)、七条中学校にて授業が行なわれました。対象は1年生5クラス。1クラスごとに50分、5回の授業を行ないます。講師5名(長田祐樹・田中偲温・隅田五鈴・末満優名・渡邊広明)と補助3名(馮嘉安禾・松井菜穂香・和田美桜)が、交代で担当しました。


授業の様子(随所で情報を示しながら進行)


授業の様子(生徒の発言を受けて指差し)

 

授業の際は、必ずはじめに、持参した絵が複製であることを述べ、あわせて制作工程(多くの人が関わり、時間も手間もかかっている)や、複製の役割(みんなに近くで見てもらうためにある)を説明するようにしています。七条中学校では、続いて鑑賞に入りました。第一印象について尋ねると、「にぎやか」、「しぶい」、「暗い」などさまざまな言葉が出ました。

さらに、グループごとに絵に近づいて、じっくり鑑賞をします。ガラス越しではなく、すぐ近くで実物大の作品を鑑賞できることが、複製の一番のメリットです。生徒たちは、文化財ソムリエと話をしながら、多種多様な野菜・果物が描かれていることに気づき、墨の色や線のひき方にも工夫があることに気づきます。


近づいてじっくり作品を鑑賞します

授業の中では、作品名を紹介する前に、生徒にこの絵のタイトルを考えてもらいました。「野菜集会」「マル・マル・モリ・モリ!」「緑黄色野菜」「大根の死」「大根こそが王なり」など、ユニークなタイトルが挙がりました。制作背景を説明していなくても、生徒たちは、いろいろな野菜が集まっていることや、大根が特別な存在として描かれていること、ただならぬ出来事が起こっていることなどを観察して読み解き、言葉で表現しています。

その後、この絵が「涅槃図」を野菜や果物で表したものであることを伝え、「なぜ野菜や果物で描いた?」「なぜ涅槃図を描いた?」など、問いかけを交えながら授業は進行します。子どもたちの反応もふまえつつ、作者や時代背景、絵に込められた思いについて紹介をしました。最後に、これからもたくさんの文化財に出会ってほしいことを伝え、お土産プリントを配布しました。

生徒の感想
授業後のアンケートには「300年前の絵だけど、アイディアが新しいなと思った」「この絵にたくさんの思いがこめられていると分かった。きっと色のある絵じゃなくて墨だけで描いたことも意味があるのかな」などとありました。文化財ソムリエと話をしながら、実物大の作品を鑑賞することで、さまざまなことを感じ、理解し、考えたことが分かります。また「若冲の他の作品をみてみたい!」「もっと昔の人の絵や水墨画をいろいろ見てみたい」など、今回鑑賞した作品にとどまらず、さらに興味を広げてくれたようでした。

学校に複製を持ち込む意義の一つとして、保護者の興味の度合いに関わらず、幅広い層の子ども達に、博物館や文化財の存在を知ってもらえる点が挙げられます。この授業がきっかけとなって、子ども達がこれからも、さまざまな文化財との出会いを楽しんでくれたら、なにより嬉しいです。

カテゴリ: 複製の活用