ぶんかつブログ

鳥と人との協業ー鵜飼にまつわる歴史と文化を紹介

「鵜の目鷹の目」、「鵜吞みにする」。
どれも一度は聞いたこと、使ったことがあることわざ・慣用句だと思います。
どちらも「鵜」という鳥が、水面上から水面下の魚を探し出し、水中に潜って正確に魚を嘴で捉えて丸のみするという性質を背景としたものです。

この二つのことわざ・慣用句から、鵜の性質が広く人々に知られていた、身近であった、ということが言えると思いますが、その鵜の性質を生業として活かしたものが鵜飼です。

今回ご紹介するのは、そんな鵜飼をテーマにした、みよし風土記の丘ミュージアム(広島県立歴史民俗資料館)(以下、歴史民俗資料館)の令和5年度秋の特別企画展「三次鵜飼と日本の鵜飼」(2023年10月6日(金)~11月26日(日))です。
▷「三次鵜飼と日本の鵜飼」の概要を見る

本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館の4つの国立博物館が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立博物館収蔵品貸与促進事業」による、令和5年度の展覧会です。


みよし風土記の丘ミュージアム(広島県立歴史民俗資料館)外観

今回の展覧会のテーマとなっている鵜飼は、三次では16世紀後半に始められたと伝えられています。現在では、馬洗川(ばせんがわ)で毎年6月から9月の3か月間行なわれる三次の夏の風物詩として知られ、平成27年4月27日に広島県無形民俗文化財に指定されています。

一般的に鵜飼というと、岐阜県の長良川鵜飼が有名かもしれませんが、現在、鵜飼は全国11か所で行なわれているそうです。しかし、それらの多くは一度途絶えたのちに、観光目的で復活したものとのこと。伝承も含めて創始期から現在まで途絶えずに続いているのは長良川鵜飼と大分県日田・原鶴温泉の筑後川鵜飼、そしてこの三次の鵜飼に限られるそうです。

本展覧会は、そうした三次の鵜飼の特色、意義を、日本における鵜飼の歴史や、美術・工芸とのかかわり、世界の鵜飼の状況を俯瞰したうえで紹介しています。

会場は以下の4章で構成されます。
第1章 鵜飼の歴史
第2章 日本の鵜飼と世界の鵜飼
第3章 鵜飼と日本文化
第4章 三次鵜飼の世界

第1章から3章までは鵜飼の歴史やそれにかかわる文化についての総論、第4章は三次の鵜飼の歴史や特色を掘り下げた各論といえますが、実際の展示室の区切りとしても、第1~3章までが大きく一つのまとまりとなり、4章はそれだけでまとまった空間になっているので、とても分かりやすい構成に感じられます。

「第1章 鵜飼の歴史」では、約2000年前の中国・前漢時代の鵜飼の様子が描かれている可能性のある塼(せん:タイルのようなもの)の拓本や、日本の5世紀末に造営された古墳から出土した鵜形の埴輪などにより、日本を中心に、鵜飼がどのように受け入れられ、広まっていったのかをたどります。

「第2章 日本の鵜飼と世界の鵜飼」では、日本での鵜飼の分布や特徴を図表を用いて分かりやすく説明し、中国の鵜飼船の玩具や絵葉書などから、世界の鵜飼と比較することで日本における鵜飼の状況を概観し、その特徴を明らかにします。

「第3章 鵜飼と日本文化」では、鵜飼をテーマやモチーフにした美術・工芸作品を通して、見られる対象として鵜飼が日本の社会や文化の中でどのように表現されてきたのかを紹介します。

「第4章 三次鵜飼の世界」では、更に詳しく
第1節 三次鵜飼の歴史
第2節 見られる対象としての三次鵜飼
第3節 生業としての三次鵜飼

と3節に分けて、実際に使用される舟や道具による再現展示や、絵葉書、各種の古記録、写真、図表などを駆使して三次鵜飼を掘り下げ、操作性や移動性を優先した舟の形や、観光鵜飼の時代に入っても、伝統的で見栄えのいい篝火(かがりび)ではなく、より明るいカーバイトランプを用いたりするなど、より多くの漁獲量を最優先した「生業としての鵜飼」の性格が三次鵜飼の最大の特徴であることを浮き上がらせています。

その中で、本事業により国立博物館からお貸し出ししている作品は、「第3章 鵜飼と日本文化」に展示されています。
第3章の初めに展示されるのは、京都国立博物館所蔵の呉丹山筆 山水図漁樵耕読 指頭山水横屏(四屏のうち右二)指頭山水横屏(四屏のうち左二屏) 4幅 清 道光14年(1834)です。

画面の右上隅に書かれた「漁樵耕読」は理想的な生活のあり方を示す語です。その最初に挙げられた「漁」が向かって一番右の幅の下方に、鵜飼の場面として描かれています。現在でも中国でみられる板造りの船の前後に一人ずつ、合計二人の人物が乗って、四羽の鵜を使っている姿が克明に描かれています。


呉丹山筆 山水図漁樵耕読 指頭山水横屏(四屏のうち右二)指頭山水横屏(四屏のうち左二屏)
清 道光 14年(1834) 京都国立博物館


第1幅

次に東京国立博物館所蔵の高橋由一筆 長良川鵜飼 明治24年(1891)と、荒木十畝筆 玄明 昭和8年 (1933)が展示されます。


高橋由一筆 長良川鵜飼 明治24年(1891) 東京国立博物館


荒木十畝筆 玄明 昭和8年(1933) 東京国立博物館(~11/15)

展覧会の解説では、近代に入ると鵜飼の観光化によって多くの人の目に触れるようになったことに関連して、鵜飼をテーマにした作品が多く制作されるようになったことが触れられています。
その中でも、こちらの二つの作品はそれぞれ描かれた時代は離れていますが、どちらも鵜飼のイメージとして一般に定着している、篝火を焚いて夜の闇の中で鵜舟に乗って行なう場面を描いています。漆黒の闇の中に浮かび上がる篝火の光とその中に見え隠れする人と鵜の姿は、光と闇のコントラストが効いた幻想的で劇的な印象が強く、絵画表現のテーマとして格好のものであったこともうかがえます。

*11/16から、「玄明」は
田中芳男/著 中島仰山/画 「多摩川鵜飼遊記」 明治9年(1876) 東京国立博物館
などと展示替えとなります。

絵画につづいては染織作品です。

京都国立博物館の帷子 淡浅葱麻地御所解(鵜飼)文様 江戸時代・19世紀 と、東京国立博物館の単衣 浅葱地正絹地鵜飼模様 江戸時代・19世紀 が展示されます。


左:帷子 淡浅葱麻地御所解(鵜飼)文様 京都国立博物館
右:単衣 浅葱地正絹地鵜飼模様 東京国立博物館

いずれも、浅葱色が目にも涼やかな夏物の着物であり、鵜飼の行なわれる季節や水辺の光景ということで夏に関連した涼を呼ぶモチーフとして表現されていることが伺えます。

染織作品につづく第3章の最後は、陶磁器と金工作品が並びます。
その中で、東京国立博物館からは、鵜水滴 江戸時代・18~19世紀が出品されています。
首を斜め上に突き出した姿や、多くの鳥類では上嘴の付け根にある外鼻孔が鵜の仲間ではないという特徴も表現されているなど、小品ながら鵜の特徴をよくとらえた作品です。


鵜水滴 江戸時代・18~19世紀 東京国立博物館

これらの作品を通して、鵜飼が絵画、染織、金工、陶磁器などさまざまな分野において、造形的インスピレーションを与えるものとなっていたことを改めて認識させられます。

さて、ここからは三次の周辺情報をおとどけしましょう。
歴史民俗資料館のある三次へは、広島駅からJR芸備線に乗って、都市部から山間の風景へ変化する車窓からの眺めを楽しむこと約1時間半。三次駅を降りると、駅前のロータリーでは鵜飼をモチーフにしたモニュメントが訪れる人を出迎えてくれます。

三次駅から歴史民俗資料館へは車で15分ほどですが、歩いて10分ほどのところにある鵜飼の舞台となる馬洗川とそれに並行して設けられた鵜飼遊覧船乗り場に行ってみるのもおすすめです。


左手が馬洗川、右手に遊覧船乗り場


夜の馬洗川

遠方からお越しの方は、三次駅から歴史民俗資料館へ向かうにはタクシーを使うのが便利です。バスは平日で1日に4本、土曜は2本、日曜・休日は運休なので歴史民俗資料館までの足には向かないと思いますが、タイミングが合いさえすれば片道380円で行けるのは魅力的。

三次市は山陰と山陽を結ぶ中国地方のほぼ中央に位置し、古くから陸路、水運ともに交通の要衝として栄えてきた都市です。市の中心部では中国地方最大の河川、江の川(ごうのかわ)とその支流である馬洗川、西城川(さいじょうがわ)が合流しており、水の恵みの豊かな地です。


手前左を流れるのが馬洗川、右奥が西城川、奥に架かるのは巴橋

歴史民俗資料館へ行くまでの道すがら、タクシーの運転手さんから色々お話しを伺いました。
昔は鵜飼遊覧が盛んで、そのころは川沿いにたくさんの船宿があり栄えていたそうです。
また、歴史民俗資料館までのお客さんを乗せるのは珍しいということで、歴史民俗資料館へのアクセスは県内、近県の方は、基本的に自家用車利用が前提となっているようです。

正式名称に風土記の丘とつくように、敷地は大変広く、敷地内には復元された古墳時代の竪穴住居や高床式倉庫、重文指定の近世の農家、鵜飼遊覧船などの野外展示が散在し、散策をしながら楽しめます。


敷地入り口 左手の道路を進んでいくと歴史民俗資料館が見えてきます


駐車場に置かれた遊覧屋形船

本展開会式の市長挨拶で、「地元の人にこそ見てもらいたい」という言葉がありました。
その言葉通り、鵜飼を多面的に概観し、その中で地元の伝統文化としての三次鵜飼の独自性をよく理解することができる内容になっています。企画のご担当者様はじめ関係者の皆様の地元愛、鵜飼愛にあふれた展覧会といえると思います。

地元三次の方はもちろん、広島県内、県外問わず、この機会に、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

三次鵜飼と日本の鵜飼

会期 2023年10月6日(金) ~ 2023年11月26日(日)

会場 みよし風土記の丘ミュージアム 広島県立歴史民俗資料館(広島県三次市小田幸町122)

開館時間 9:00~17:00(入館は16:30まで)

休館日 月曜日(ただし10月9日(スポーツの日)は開館)、10月10日(火)

観覧料 一般 700円(560円) 高校・大学生 520円(410円) 小・中学生350円(280円)
※( )は20名以上の団体料金。
※ひろしま教育ウィーク(11月1日(水)~11月7日(火))期間中は、小学生、中学生及び高校生が無料になります。
※文化の日は無料で御覧いただけます。

広島県立歴史民俗資料館・公式サイト https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/rekimin/