115年ぶりの里帰り 天王垣外遺跡の勾玉・管玉
現在、長野県の市立岡谷美術考古館にて開催中の「天王垣外遺跡の勾玉・管玉 ~東京国立博物館から115年ぶりの里帰り~」(会期は9月18日まで)についてご紹介いたします。
本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館の4つの国立博物館が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立博物館収蔵品貸与促進事業」による、令和5年度の展覧会です。
▷天王垣外遺跡の勾玉・管玉 ~東京国立博物館から115年ぶりの里帰り~の概要を見る
会場となる市立岡谷美術考古館は、JR岡谷駅から徒歩5分(400m)とアクセスしやすい商店街の通り沿いにあります。遠方からの来館者にとってはありがたいですね。電車で行った私も駅から近くて助かりました!
市立岡谷美術考古館
本展では展覧会タイトルにあるように、岡谷市天王垣外(てんのうがいと)から出土した弥生時代の勾玉(まがたま)や管玉(くだたま)13件を、東京国立博物館(トーハク)からお貸し出ししています。
展覧会場入り口のようす
トーハクが所蔵する考古作品は明治から大正時代にかけて館蔵品となったものが多く、天王垣外の出土品もまたそのうちの一つです。今回は明治40年(1907)に発見されて以来、実に115年ぶりに地元・岡谷市での里帰り展となりました。
本展は、天王垣外出土品とその関連資料、そして当地の弥生時代を代表する橋原(はしばら)遺跡出土品を中心に展示が構成されています。
展示ケースには大きく展覧会タイトルのキャプションが!担当者の気合がうかがえます。
弥生時代は縄文時代の伝統をベースとして、稲作をはじめとする新しい技術やモノ・習慣が大陸からもたらされました。
管玉もその一つで、縄文時代のぼってりとした紡錘形の管玉とは打って変わって、細長く整った形状をしています。さらに真ん中に開けられた孔は1~2㎜と極細。こうした管玉は、朝鮮半島を介して九州地方へ伝えられ、その後日本海側の各地に、玉作り工房が作られるようになります。天王垣外の管玉もそうした工房で作られており、例えば赤い管玉は佐渡島の鉄石英製と推測されています。これだけ大量の管玉が出土する遺跡は珍しく、この地に有力者がいたことがうかがえます。玉類はすべて、壺形土器におさめられていたことからも、こうした人物の墓に副葬されていたのでしょう。
天王垣外から出土した玉類
壺形土器 弥生時代(中期)・前2~前1世紀 長野県岡谷市 天王垣外出土 東京国立博物館蔵
つづいて、岡谷市の弥生時代を語るうえで欠かせない、橋原遺跡出土品をご紹介します。
弥生時代の展示(すべて岡谷市教育委員会蔵)
この遺跡は60軒あまりの住居址が確認された弥生時代後期の大規模なムラです。特に、火災により焼失した住居跡から、46.8リットルもの炭化した米が発見されたことで知られています。
橋原遺跡の出土品と炭化米(すべて岡谷市教育委員会蔵)
さて、トーハクにこれらの出土品が所蔵された際の記録によると、「諏訪郡平野村大字新屋敷小字天王垣外」から発見されたとあります。村の道路(里道)を敷設するために開墾したところ、地下60㎝のところから発掘されたとのこと。せっかくですので遺跡の場所を学芸員の藤森栄太さんに案内してもらいました。現在の中央通り(岡谷市道25号線)付近と考えられるのですが、市街地になっているため正確な場所はよく分かっていません。
遺跡周辺の現況
現在の津島神社
「天王垣外」の名は、近隣にある津島神社に由来します。かつては牛頭天王(ごずてんのう)とよばれており周囲には「天王の森」が広がっていました。このあたり一帯が遺跡であったことから、天王の森の周辺という意味で「天王垣外」の名が付けられたそうです。
学芸員の藤森栄太さんにご案内いただきました。
さいごに、岡谷市は私が学生時代に大きな影響をうけた考古学者のふるさとでもあります。
一人はトーハクで考古課長を務め東京教育大学(現筑波大学)で教鞭をとった八幡一郎(1902-1987)。もう一人は明治大学教授を務めた戸沢充則(1932-2012)。常設展示には、偉大な考古学者ふたりの足跡も展示されており、感慨深い気持ちになりました。
考古学者・八幡一郎と戸沢充則
特別展「天王垣外遺跡の勾玉・管玉 ~東京国立博物館から115年ぶりの里帰り~」は9月18日まで開催しております。ぜひこの機会に岡谷の地を訪れてみてはいかがでしょうか。
天王垣外遺跡の勾玉・管玉 ~東京国立博物館から115年ぶりの里帰り~
会期 2023年7月15日(土) ~ 2023年9月18日(月)
会場 市立岡谷美術考古館(長野県岡谷市中央町1-9-8)
開館時間 10:00〜18:00
休館日 毎週水曜日、祝日の翌日
観覧料 一般520円(370円)、小・中学生260円(160円)
※( )は10名以上の団体料金
※諏訪6市町村に在住・在学の小・中学生、岡谷市内に在住・在学の高校生は無料です
市立岡谷美術考古館・公式サイト https://okaya-museum.jp/
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- 2023年08月31日 (木)