山口県立山口博物館の特別展「やまぐち大考古博」
山口県出身の河野です。
東京国立博物館(トーハク)で、日本考古学(古墳時代)の担当をしております。
2023年7月21日から9月3日にかけて、山口県立山口博物館にて「やまぐち大考古博」を開催しています。
本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館の4つの国立博物館が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立博物館収蔵品貸与促進事業」による、令和5年度の展覧会です。
トーハクからは、弥生時代から古墳時代の13件の文化財をお貸し出ししています。数多くの山口県の代表的な考古資料を見学できる機会で、さらに私にとっては故郷の展覧会ということもあって、胸躍らせながら山口県立山口博物館に訪問いたしました。
▷特別展「やまぐち大考古博―みよう、ふれよう、やまぐちの3000年―」の概要を見る
山口県立山口博物館
展覧会は全部で5つのテーマにわかれておりました。「Ⅰ 東アジア交流と弥生人の到来」・「Ⅱ ヤマト王権と瀬戸内の古墳」・「Ⅲ 古代産業の先進地、周防・長門」・「Ⅳ 「西の京 山口」から世界遺産 萩城下町へ」と、最初の4テーマで弥生時代から明治維新まで、39の遺跡から出土した文化財を展示しています。
ここでは「Ⅱ ヤマト王権と瀬戸内の古墳」のうち、私の担当している古墳時代のトーハク所蔵品の一部をご紹介したいと思います。まず、山口県立山口博物館が所在する、山口市から出土した赤妻古墳の巴形銅器(ともえがたどうき)です。
巴形銅器 古墳時代・5世紀 山口県山口市 赤妻古墳出土 東京国立博物館所蔵
巴形銅器のなかでも最終段階の作品で、板状になっているのが特徴的です。4方向に尖り、中心の孔にひもを通して、おそらく盾に固定した飾りでしょう。先端が尖るのは、悪いものを退ける僻邪(へきじゃ)の意味合いがあったと考えられています。盾に、僻邪の道具である巴形銅器をつけ、完全なる防御性をもって何を守ったのか、興味をそそられます。
次に、私の出身地でもある下関市から出土した、上の山古墳の六鈴鏡(ろくれいきょう)と水晶製勾玉(まがたま)です。
六鈴鏡と水晶製勾玉 古墳時代・6世紀 山口県下関市 上の山古墳出土 東京国立博物館所蔵
六鈴鏡は文字通り、鏡の周囲に6つの鈴が付いていることから名づけられた鏡です。巫女が持つような鏡で、とりわけ東日本ではよく出土しますが、どうして下関の地でこのような鏡が出土するのかは、わかっておりません。また、水晶製の勾玉は、おそらく装身具として亡き被葬者が身に着けていたのではないかと推測しますが、これだけの数がまとまって出土するのは県内では珍しいかと思います。上の山古墳は現在消滅していますが、古墳時代後期(6世紀)の全長108mもの前方後円墳であったとされ、その被葬者像については謎につつまれています。いずれ研究をして解明したいです。
最後にご紹介するのは、長門市で出土した糘塚(すくもづか)古墳(糘塚横穴墓群)の壺鐙(つぼあぶみ)です。
壺鐙 古墳時代・6~7世紀 山口県長門市 糘塚古墳出土 東京国立博物館所蔵
壺鐙とは、足先を乗せるための騎乗用の馬具です。足先全体を覆うことで、安定した騎乗ができるようになりました。トーハクの考古資料の大半は、明治時代から昭和時代初期に収蔵したものです。1つの古墳からの出土品を、地元とトーハクとで分散して所蔵していることが多いです。糘塚古墳出土品の一部は、地元である長門市教育委員会が所蔵しています。今回の展示では、トーハク所蔵品と長門市教育委員会所蔵品が一つのケースにて再会する、またとない貴重な機会になっております。
さて、本展覧会ですが、「Ⅴ みよう、ふれよう考古博」というテーマもあります。私が興味をもったのは、3Dホログラムの展示です。土偶や埴輪、石棺を三次元画像(3D)で立体的に見学することができるとともに、自分で動かすこともできます。これは、理工分野も存在する総合博物館の強みを活かして開発したもので、 試作を重ねて、このたび初公開されたとのことです。
3Dホログラムの展示
フォトスポットも充実していました。下関市の長門鋳銭所跡(ながとちゅうせんしょあと)から出土したと伝わる和同開珎をかなり大きく引き伸ばしています。和同開珎を詳細に観察することもできますので、フォトスポットとかねて一石二鳥の展示だと思いました。
和同開珎のフォトスポット
また、こちらも文理融合の総合博物館ならではと思いましたが、鹿の剥製がいまして、一緒に撮影をすることもできます。近くには着用体験用の貫頭衣と、これも体験用の弓や石斧がありましたので、身をもって、いにしえの人の気持ちになることができます。
鹿のフォトスポットと着用体験
山口県立山口博物館での展示に大変満足した私ですが、今回の展覧会は山口県立山口博物館だけで完結しておりません。驚いたのは県内各地での企画展や講演会、体験会などの連携イベントがたくさんあることです。いずれも考古学に関連するイベントです。山口博物館の展示とセットで、連携イベントにも訪問するという二重、三重の楽しみ方もあります。
▷やまぐち大考古博連携イベントMAP https://www.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/event2023/special/collabo.pdf
おいでませ山口へ。ぜひ皆さま、山口にお越しください。
特別展「やまぐち 大考古博」~みよう、ふれよう、やまぐちの3000年~
会期 2023年7月21日(金) ~ 2023年9月3日(日)
会場 山口県立山口博物館(山口市春日町8番2号)
開館時間 午前9時から午後4時30分(入館は午後4時まで)
休館日 特別展会期中は月曜日火曜日が休館
観覧料 一般1,000円、学生・シニア(70歳以上)650円、18歳以下の方および高等学校、中等教育学校、総合支援学校(特別支援学校)等に在学する児童生徒は無料
山口県立山口博物館・公式サイト https://www.yamahaku.pref.yamaguchi.lg.jp/
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- 2023年08月22日 (火)