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「デジタル法隆寺宝物館」で楽しむ法隆寺金堂壁画

今年(2023年)1月31日にオープンした「デジタル法隆寺宝物館」(法隆寺宝物館 中2階)は、保存上の理由から常時展示がかなわない法隆寺ゆかりの文化財を、デジタルコンテンツや複製品によって、ご紹介する常設の体験型展示です。すでに大勢のお客様にご来場いただき、心より御礼申しあげます。表裏でデザインが異なるチラシをご覧になった方はご存じと思いますが、こちらの展示室では半年ごとに展示替えを行ない、現在公開中の「聖徳太子絵伝」コンテンツ(写真左)は7月30日まで、その後、8月1日から2024年1月28日までは「法隆寺金堂壁画」(写真右)のデジタルコンテンツを中心にお楽しみいただけます。(それ以降も交互に公開予定)
前回のブログでは前半の展示内容についてご紹介したので、今回は展示替えしたばかりの後半の展示内容をご案内します。


「デジタル法隆寺宝物館」チラシ

▷デジタル法隆寺宝物館の開催概要を見る
▷関連ブログ「「デジタル法隆寺宝物館」公開!」の記事を読む

メイン会場に入ると、壁にかけられた白黒のグラフィックパネルが目に入ります。これらは、日本仏教の礎を築いた聖徳太子により、7世紀初頭に建立された奈良・斑鳩(いかるが)にある法隆寺の金堂(こんどう)に描かれた壁画を再現したものです。みなさま「なぜ白黒なの?」と思われることでしょう。デジタルコンテンツも白黒なので、不思議に思われるかもしれません。もちろん実際の壁画は鮮やかに彩色されたものでしたが、じつはグラフィックパネルやデジタルコンテンツの元データが白黒であることこそ、今回の展示のポイントなのです。まずは、なぜこの部屋にある展示がすべて白黒なのか、ご説明したいと思います。

法隆寺金堂壁画の等身大グラフィックパネルに囲まれるメイン会場

世界最古の木造建築として知られる法隆寺金堂には、教科書にも掲載される釈迦三尊像(国宝)をはじめとする数々の仏像が安置されており、その周囲の壁にはさまざまな仏が描かれています。7世紀後半から8世紀はじめに描かれた法隆寺金堂壁画は、東アジアを代表する古代壁画の傑作として高く評価されていました。しかし、昭和24年(1949)1月26日、火災により焼損してしまい、現在は取り外されて収蔵庫に保管されています(非公開)。いま金堂内にかけられているのは、火災後に描かれた模本なのです。


法隆寺金堂 (Youtube動画【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺金堂壁画―よみがえる古代の至宝3より)


法隆寺金堂壁画(模本) (Youtube動画【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺金堂壁画―よみがえる古代の至宝3より)

では、描かれた当時の姿を知ることはできないのかと思いきや、法隆寺伽藍の修理事業(昭和の大修理)の一環として、幸い火災前の昭和10年(1935)に美術印刷会社の便利堂によって撮影された写真が残されています。それが法隆寺金堂壁画写真ガラス原板です。「写真ガラス原板」とは、経年変化に強いガラスに、写真撮影に必要な感光材を塗布したもので、ガラス乾板(かんぱん)と呼ばれます。フィルムが普及するまでは広く使われていました。撮影や保存に困難が伴うとはいえ、フィルムの数倍の面積があるガラス乾板には記録できる情報量が多い点も特徴です。


重要文化財「法隆寺金堂壁画ガラス原板」(法隆寺所蔵) (写真:奈良国立博物館提供)


写真ガラス原板の撮影風景 (写真:便利堂提供)

金堂壁画に対しては特製の大型写真機が使われ、英国イルフィード社製の最大サイズ(全紙判、456×565ミリ)のガラス乾板で撮影されました。正方形の大壁4面に描かれた四方を象徴する仏と、縦長の小壁8面に描かれた諸菩薩の計12面を原寸大で分割撮影した、363枚の原板が残されています。そこには数倍の拡大にも耐える高解像度の情報が記録されており、その重要性により平成27年(2015)には歴史資料として重要文化財にも指定されました。カラー情報としては、印刷の基本色であるイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックによる四色分解写真が撮影されていますが、原寸大ではありません。そのため、焼損前の壁画についてもっとも情報量が多いのは、白黒で撮影された原寸大分割写真ということになります。

写真ガラス原板は重要文化財の指定後、クリーニング等の修理を経てデジタルデータ化が進められました。1500dpiの解像度でデータを取り込む専用のスキャナーが開発され、撮影時の歪みや各写真の濃淡の差などを補正したうえで、363枚の原板データを接合して、12面の壁画として見ることができるようになりました。


写真ガラス原板デジタルスキャニングの作業風景 (写真:便利堂提供)

そして、大壁1面で300億画素、小壁1面で170億画素にもなる高解像度の壁画データをWeb上で見られるアプリを、法隆寺・奈良国立博物館・国立情報学研究所髙野研究室が共同開発しました。2020年に〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉として公開されたので、すでにご覧になった方も多いと思います。自宅のPCやスマホで金堂壁画が気軽に見られることにわたしも衝撃を受け、時が経つのも忘れてネット上に展開される壁画の世界に夢中になったものです。これまで印刷物を拡大しても細部がわからず、もどかしい思いをしてきた研究者が受ける恩恵もはかり知れません。


〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉操作画面トップ


同壁画選択画面 金堂を表わした3Dモデルから、見たい壁画を選択できます。

それがなんと!この展示では70インチの8Kモニターでご覧いただけるようになりました。さすが原寸大のガラス原板、大迫力の画像に目を奪われます。髪の毛の一筋、宝石の一粒すらおろそかにしない一方で、仏たちの体の輪郭線は迷いなく伸びやかに引かれ、古代の絵師の巧みな筆遣いが伝わります。


第六号壁 阿弥陀浄土図のうち観音菩薩像は切手にもなった有名な作品


髪の毛が一筋ずつ描き分けられ、ネックレスの宝石も数種類に色分けされているのがわかります。

まずはぜひお手元のPCやタブレット、スマホでご体験ください。きっと、展示室へ行ってもっと大画面で楽しみたいと思われるに違いありません。

▷〈「法隆寺金堂壁画」写真ガラス原板デジタルビューア〉を見る
https://horyuji-kondohekiga.jp/index.html

また、2023年7月末までは、国宝「聖徳太子絵伝」の原寸大複製グラフィックパネルを展示していましたが、今回の展示でも同じく美術印刷専門のサンエムカラーが制作した複製グラフィックパネルをご覧いただきます。展示室は金堂より狭いため、やむなく縮小サイズとなりましたが、ガラス原板の高精細データを利用した等身大の仏たちには圧倒される迫力があります。堂内の配置を再現しておりますので、パネルとデジタルコンテンツを行き来して金堂壁画の魅力をご体感ください。

法隆寺金堂壁画の空間から出れば、前回展示と同様に伎楽の世界をご紹介しています。


(複製)伎楽面 迦楼羅、(複製)伎楽装束 袍の展示風景

飛鳥時代(7世紀)に朝鮮半島の百済から伝えられたという仮面芸能の伎楽。今回は、法隆寺宝物館に収蔵される伎楽面のうち迦楼羅(かるら)と、伎楽装束のうち袍(ほう)を展示しています。

法隆寺献納宝物の伎楽面31面のうち、飛鳥時代に製作された19面は現存最古として知られ、なかでも出来栄えが優れるのは迦楼羅です。インドの神でありながら仏法を信じて人々を守護する迦楼羅は、両目が神を象徴する金銀でいろどられ、鳥をモチーフとするため、くちばしが突き出て両耳から顎の下にかけて羽毛が描かれます。

原品は破損や退色をこうむっているため、僅かな痕跡から形や色を再現しました。欠損したとさかの部分は、ドイツの博物館で見つかった断片を参考に再現しています。前半に展示した呉女(ごじょ)の面とあわせて、制作は仏師の松久宗琳佛所に依頼したものです。


左:伎楽面〈迦楼羅〉(飛鳥時代・7世紀) ※金・土曜のみ法隆寺宝物館3室で公開
右:(複製)伎楽面 迦楼羅 (2018年)

▷伎楽面 迦楼羅の概要を見る
▷伎楽面 呉女の概要を見る

また、伎楽装束は男性用の上着である袍を展示しています。前半に展示した女性用のスカートである裳(も)とあわせて、株式会社染技連に作業監督を依頼し、さまざまな分野の職人が協力して復元しました。迦楼羅に付属したものではありませんが、科学分析で特定した染料によりよみがえった鮮やかな黄色からは、古代芸能の華やかな世界がしのばれるでしょう。


法隆寺献納宝物 伎楽装束 袍 (奈良時代・8世紀) ※展示予定は未定です


(複製)伎楽装束 袍 (2019年)

▷伎楽装束 裳の概要を見る
▷伎楽装束 袍の概要を見る

伎楽面、伎楽装束ともに、監修者である三田覚之研究員(現奈良国立博物館)が裏話を交えて制作背景を語るブログがあるので、詳しくはこちらをぜひご参照ください。

▷関連ブログ「よみがえった飛鳥の伎楽面!!―前編―」の記事を読む
▷関連ブログ「よみがえった飛鳥の伎楽面!!―後編―」の記事を読む
▷関連ブログ「幻の法隆寺伎楽装束を復元!!(後編)」の記事を読む
▷関連ブログ「幻の法隆寺伎楽装束を復元!!(後編)」の記事を読む

「デジタル法隆寺宝物館」の開室にあたりNHKエデュケーショナルと制作したスペシャル動画には、今回展示している法隆寺金堂壁画や、伎楽面・伎楽装束の紹介もありますので、あわせてご覧いただければ幸いです。


Youtube動画【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺金堂壁画―よみがえる古代の至宝3

【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺―よみがえる古代の至宝1
【デジタル法隆寺宝物館】国宝 聖徳太子絵伝―よみがえる古代の至宝2
【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺金堂壁画―よみがえる古代の至宝3
【デジタル法隆寺宝物館】伎楽と法隆寺宝物館―よみがえる古代の至宝4
https://www.youtube.com/watch?v=St6NEB-qa-M&list=PLx5mGCnZYlFB5YETpk47oGsdJxUCKCK-G

デジタル法隆寺宝物館

展示期間 2023年1月31日(火)開室 以降は通年展示 (半年毎に展示替)

会場 東京国立博物館 法隆寺宝物館 中2階

開館時間 9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)

観覧料 総合文化展観覧料(一般1,000円、大学生500円)もしくは開催中の特別展観覧料[観覧当日に限る]でご覧いただけます

主催 東京国立博物館、文化財活用センター
協力 法隆寺、奈良国立博物館、国立情報学研究所高野研究室

令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)

▷「デジタル法隆寺宝物館」展示概要