ぶんかつブログ

「デジタル法隆寺宝物館」公開!

文化財活用センター〈ぶんかつ〉では、これまで法隆寺ゆかりの文化財について、デジタルコンテンツの開発や複製品の制作を行なってまいりました。このたび、その集大成として東京国立博物館(トーハク)の法隆寺宝物館に新しい展示室を開室いたしました。1年のうち、前半(1月31日~7月30日)には聖徳太子絵伝(写真左)、後半(8月1日~2024年1月28日)には法隆寺金堂壁画(写真右)のデジタルコンテンツを中心とした展示を予定しております。ここでは、前半の展示内容についてご紹介したいと思います。


「デジタル法隆寺宝物館」チラシ

法隆寺宝物館には、明治11年(1878)、皇室に献納された法隆寺の宝物300件あまりが収蔵、展示されています。ただし、作品保存の観点から、一部の作品を除いて常時ご覧いただける訳ではありません。たとえば、国宝「聖徳太子絵伝」もそのひとつです。聖徳太子の伝記を描いた現存最古の絵画作品で、かつて法隆寺絵殿の内側を飾っていました。10面からなる大画面に、聖徳太子の事績が50以上の場面として描かれていますが、保存上の理由により年間の展示日数が限られているうえ、照度を落とした展示室でガラスケース越しに展示せざるを得ないため、細部まで鑑賞するのはなかなか難しいのではないでしょうか。


国宝「聖徳太子絵伝」秦致貞 筆/平安時代・延久元年(1069)/綾本着色/ 10 面/東京国立博物館

こうした課題に応えるため、2018~2019年にNHKエデュケーショナルと「8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」を共同開発しました。


〈8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」〉操作画面トップ

操作風景

分割撮影した画像データを合成し、高画質で絵伝の細部まで自由に見ながら、同時に解説を読むことができるデジタルコンテンツです。代表的なエピソードはイラストから選択することもでき、聖徳太子は一度に大勢の子どもの話を聞き分けた、あるいは空を飛んだ、というような超人的な伝説を気軽にお楽しみいただけます。すでに2018年、2019年、2021年と3回公開しているため、ご覧いただいた方もおられるかもしれません。このコンテンツが、いつでもご覧いただけるようになったのです(ただし年間のうち後半は法隆寺金堂壁画のコンテンツに展示替え予定)。


国宝「聖徳太子絵伝」1面(子どもの話を聞き分ける場面)

同(空を飛ぶ場面)

▷8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」の開催概要を見る
▷8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」2019の開催概要を見る
▷8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」2021の開催概要を見る

また、過去の展示の際には、国宝「聖徳太子絵伝」を紙に印刷した原寸大のパネルを掲示しておりましたが、このたび美術印刷専門のサンエムカラーに依頼し、人工絹にカサネグラフィカと呼ばれる独自の特殊技術を用いた印刷を行ない、一級表具技能士の手による表装を施した、一層「リアル」な複製パネルに生まれ変わりました。


白い壁で囲まれた空間に「聖徳太子絵伝」の世界が!(画像提供:株式会社 昭栄美術)

原寸大のグラフィックパネル(画像提供:株式会社 昭栄美術)

耐光性に優れており、数十年は退色しないとのこと。間近で見ると本物の絹本にみえ、迫力満点です。かつて法隆寺では、絵殿と呼ばれる建物のなかでコの字型にはめられていた聖徳太子絵伝。展示室ではその配置を復元しているため、現地にいるかのような感覚で複製パネルをご覧いただき、気になる場面があれば、ぜひデジタルコンテンツでお楽しみいただければ幸いです。

聖徳太子絵伝の部屋から出ると、そこには幻の芸能と呼ばれる伎楽の世界が広がっています。


(複製)伎楽面 呉女、(複製)伎楽装束 裳 の展示風景

伎楽とは、飛鳥時代(7世紀)に朝鮮半島の百済から伝えられたという、仏教芸能です。伎楽面と呼ばれる仮面を用い、華麗な装束をまとって演じられたと考えられますが、残念ながら鎌倉時代(13世紀)にはすでに廃れており、今日では具体的な演目や内容についてはほとんどわかっておりません。

現存する伎楽面は、大半が東大寺大仏開眼供養会の際に製作されたもので、東大寺と正倉院に伝えられます。法隆寺にも伎楽面のセットが複数伝来しており、法隆寺献納宝物の伎楽面のうち、19面は飛鳥時代に製作された現存最古の伎楽面として知られます。これは、出土したものを除き、人の手から人の手へ伝えられた伝世の仮面としては世界最古でもあります。

このうち、とりわけ彩色がよく残り、優れた出来栄えの呉女と迦楼羅の2点について、ぶんかつでは2018~2019年に科学分析を踏まえた綿密な考証のうえ、仏師の松久宗琳佛所に依頼して復元模造を制作しました。


伎楽面〈呉女〉(飛鳥時代・7世紀)※金・土曜のみ法隆寺宝物館3室で公開

(複製)伎楽面 呉女(2019年)

▷伎楽面 呉女の概要を見る
▷伎楽面 迦楼羅の概要を見る

このうち、現在は呉女を展示しております。伎楽の演目のうち、唯一の女性の面であり、中国の宮廷女性をイメージしたボリュームのある髪型、美しい化粧など、破損と退色の進んだ今日の状態からは想像のつかない、華やかな姿がよみがえりました。

また、法隆寺献納宝物に含まれる伎楽装束として、女性用のスカートにあたる裳(も)と、男性用の上着にあたる袍(ほう)も、2019~2021年に復元模造を制作しました。株式会社染技連に作業監督を依頼し、さまざまな分野の職人が協力して、並行して進められた原品の解体修理で判明した知見を反映しながら当時の姿を復元しております。このうち、今回は呉女に付属したとみられる裳を展示しております。


法隆寺献納宝物 伎楽装束 裳(奈良時代・8世紀)※展示予定は未定です


(複製) 伎楽装束 裳(2021年)

▷伎楽装束 裳の概要を見る
▷伎楽装束 袍の概要を見る

「デジタル法隆寺宝物館」の開室に際し、NHKエデュケーショナルと制作したスペシャル動画も見どころのひとつです。会場では聖徳太子絵伝と伎楽の解説、Youtubeではさらに法隆寺および法隆寺金堂壁画の紹介も含め、計4本の動画を公開しております。Youtube動画はより充実した内容になっており、「歴史秘話ヒストリア」などでおなじみの、NHKアナウンサー渡邊あゆみさんのナレーションで解説をお楽しみいただけます。なお、英語、中国語、韓国語の字幕も選択可能です。会場でもご自宅でも、ぜひあわせてご覧ください。


Youtube動画【デジタル法隆寺宝物館】国宝 聖徳太子絵伝―よみがえる古代の至宝2

【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺―よみがえる古代の至宝1
【デジタル法隆寺宝物館】国宝 聖徳太子絵伝―よみがえる古代の至宝2
【デジタル法隆寺宝物館】法隆寺金堂壁画―よみがえる古代の至宝3
【デジタル法隆寺宝物館】伎楽と法隆寺宝物館―よみがえる古代の至宝4
https://www.youtube.com/watch?v=St6NEB-qa-M&list=PLx5mGCnZYlFB5YETpk47oGsdJxUCKCK-G

次回のぶんかつブログでは、展示の目玉のひとつである伎楽装束について、監修した三田覚之研究員(現奈良国立博物館)からお届けします。修理や復元の舞台裏について、ぜひご期待ください。

▷関連ブログ 8Kなら会える!微笑みの聖徳太子に。
▷関連ブログ よみがえった飛鳥の伎楽面!!―前編―
▷関連ブログ よみがえった飛鳥の伎楽面!!―後編―

デジタル法隆寺宝物館

展示期間 2023年1月31日(火)開室 以降は通年展示 (半年毎に展示替)

会場 東京国立博物館 法隆寺宝物館 中2階

開館時間 9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)

観覧料 総合文化展観覧料(一般1,000円、大学生500円)もしくは開催中の特別展観覧料[観覧当日に限る]でご覧いただけます

主催 東京国立博物館、文化財活用センター
協力 法隆寺、奈良国立博物館、国立情報学研究所高野研究室

令和4年度日本博イノベーション型プロジェクト 補助対象事業(独立行政法人日本芸術文化振興会/文化庁)

▷「デジタル法隆寺宝物館」展示概要