ぶんかつブログ

e国宝が「IIIF (トリプルアイエフ)」に対応しました

昨年度リニューアルした「e国宝」[https://emuseum.nich.go.jp/]ですが、このたび新たな機能としてIIIFに対応しました。IIIFとは、International Image Interoperability Framework の略で、つまりは画像を相互利用するための国際的な枠組みなのです(ちなみにIIIFと書いて「トリプルアイエフ」と読みます)。

「e国宝」のように高精細画像を公開しているデジタルアーカイブは年々増えてきています。インターネット上で高精細な画像を公開・閲覧するための仕組みや技術は、かつてはそれぞれ独自に開発したものを使うのが主流でした。そのため、同じような目的のために同じような技術を、それぞれが一から開発しているような状況でした。そこで、世界中のミュージアムや図書館が同じようなものを必要としているなら、それを標準化して、さらに画像をお互いに利用できるような仕組みをつくろう!という動きが出てきたのです。そうして作られたのがIIIFで、現在はIIIFコンソーシアム [https://iiif.io/] という形で、技術的な仕様の策定や普及活動が行なわれています。

IIIFそのものは画像の表示方法などを標準的な形にした規格ですので、その規格に対応した画像サーバ(画像の送信元)やビューア(閲覧ツール)が、いろいろなグループによって開発されています。たとえるなら、テレビ放送の仕組みが共通でも、放送局やテレビの機器はいろいろある、というような感じです。「e国宝」はデジタルアーカイブですから、このたとえで言えば放送局の側ですね。テレビ機器にあたるビューアは、主要なものでは、Universal Viewer [https://universalviewer.io/]、Mirador [https://projectmirador.org/]、IIIF Curation Viewer [http://codh.rois.ac.jp/software/iiif-curation-viewer/] などがあります。

Miradorを例にとってご説明しましょう。Miradorのウェブサイト[https://projectmirador.org/]で「TRY A LIVE DEMO」をクリックすると、画像が並んだ画面が出てきます。ここで左上の「+」ボタンをクリックすると画像のリストが表示され、今度は右下に「+ ADD RESOUCE」というボタンが現れます。これを押すと入力欄が出てきます。


Miradorで「ADD RESOUCE」を押すと入力欄が出る

ここに、表示したい画像のIIIFに対応したリンクを入れます(「マニフェストファイル」と呼ばれるデータへのリンクです)。「e国宝」の場合、それぞれの作品の画像のすぐ下に「IIIF Manifest」というリンクがありますので、このリンクのアドレスをコピーして、先のMiradorの入力欄にペーストすればいいわけです。


「e国宝」の「IIIF Manifest」を右クリックしてアドレスをコピー


Miradorに「e国宝」の画像がとりこまれました

これでリストに取り込まれた画像をクリックすると、「e国宝」のサイトと同じように画像を拡大してみることができます。このように、「e国宝」の画像を「e国宝」ウェブサイトだけなく、IIIFに対応したビューアであればどこでも表示することができるのです。

さて、本題はここからです。IIIFの3つ目の I はInteroperability、つまり相互運用性です。いろいろなデジタルアーカイブが同じ方式で画像を公開するということは、異なるアーカイブ上の画像を同じビューアで同時に扱うことができる、ということを意味します。つまり、こんなことができるのです。


3枚の「市川鰕蔵の竹村定之進」

3枚とも東洲斎写楽筆の「市川鰕蔵の竹村定之進」ですが、画像の出どころは異なります。中央が「e国宝」の「市川鰕蔵の竹村定之進」[https://emuseum.nich.go.jp/detail?content_base_id=100297&content_part_id=019&langId=ja]、右は慶應義塾大学メディアセンターデジタルコレクションの「市川鰕蔵の竹村定之進」[https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/ukiyoe/1335]、左はHarvard Art Museumsの「Actor Ichikawa Ebizō as Takemura Sadanoshin」[https://harvardartmuseums.org/collections/object/208631]です。同じ作品3枚の、それぞれ違う所蔵先の画像を並べてみました。
(ご自身でお試しになる際は、「e国宝」と慶応大学メディアセンターデジタルコレクションはIIIFのアイコンからリンクをコピーできますが、Harvard Art MuseumsについてはIIIFのアイコンをクリックして表示される画面の右上「i」のアイコンから表示される資料の情報の末尾に「IIIF MANIFEST」というリンクがありますので、そちらをコピーしてください)


拡大して比較

このように、拡大して細部を比較するといったこともビューア上で可能です。また、複数の画像を重ねてみたり、別々になってしまった断片同士をビューア上でつなぎ合わせてみたりといったこともできます。さらに、画像の一部に対して注釈やメモを付けたり、それを共有したりする仕組みもあります。

もちろん、こうしたことができるためには各デジタルアーカイブがIIIFに対応していることが必要です。IIIFに対応したデジタルアーカイブが増えていけば、世界中のミュージアムやさまざまな機関の作品の画像をより活用できるようになり、新たな発見や楽しみ方につながることが期待されています。

カテゴリ: 文化財の情報