ぶんかつブログ

高精細複製品と照明演出による屛風の新たな鑑賞体験

複製品や先端技術を使った文化財の活用を各地のミュージアムで展開する文化庁の委託事業(令和3年度 地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト))。
今回は、名古屋市博物館で公開中の【高精細複製品と照明演出による新たな鑑賞体験】をご紹介します。


名古屋市博物館外観。名古屋市の人口200万人突破記念事業の一環として1977年に開館しました。

名古屋市博物館では、江戸時代の中頃に活躍した池大雅(いけのたいが、1723~1776)と与謝蕪村(よさぶそん、1716~1783)による名品が一堂に会する特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」を2022年1月30日(日)まで開催しています。

▷特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」の開催概要を見る

ともに文人画の大成者として知られる大雅と蕪村。その両者が競演したことで名高い国宝『十便十宜図(じゅうべんじゅうぎず)』(明和8年作、川端康成記念会蔵)の誕生250年を記念する意欲的な展覧会です。
『十便十宜図』は、かつて鳴海宿(なるみじゅく、現名古屋市緑区)の豪商・下郷学海(しもざとがっかい、1742~1790)が所蔵していました。本展では、関連資料や尾張ゆかりの画家の作品をまじえながら、大雅・蕪村と当地の関係を探るとともに、『十便十宜図』の企画にならい、両者の個性を対比させながら、それぞれの魅力を紹介しています。


特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」ポスター

※会期中一部の作品の展示替えがあります。詳細は同館HP http://www.museum.city.nagoya.jp/exhibition/special/past/tenji211204.html でご確認ください。

この展覧会の会期にあわせて、文化財活用センター〈ぶんかつ〉のプロデュースのもと、特別展の会場内に設置したのが、【高精細複製品と照明演出による新たな鑑賞体験】です。東京国立博物館〈トーハク〉が所蔵する大雅・蕪村の屛風作品の高精細複製をじっくりとご覧いただく鑑賞プログラムです。

ご覧いただく作品は、透明感のある淡い彩色が清々しい、詩情あふれる蕪村の名画「山野行楽図屛風」と、キラキラした金地に躍動する筆使いが映える、大雅の傑作「楼閣山水図屛風」です(原品も本展に出品されています)。


重要文化財 山野行楽図屛風 与謝蕪村筆  6曲1双 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
【※原品の展示期間:2021年12月4日~12月12日】


国宝 楼閣山水図屛風 池大雅筆  6曲1双 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
【※原品の展示期間:2022年1月4日~1月16日】

屛風は古くから、部屋を飾ったり、仕切ったりするために使われてきましたが、現代の私たちの生活からは遠い存在となっています。また、博物館等でご覧いただく際も、作品保護のため、ガラスケースのなかに入れて展示を行なう場合がほとんどです。
そこで今回の展示では、限りなく実物に近い高精細複製を用いることで、実作品では困難な露出展示を可能にしました。畳の上で、ガラスケース無しで、細部までじっくりとご覧いただけます。


畳のステージにあがって、間近で屛風をご覧いただけます。


靴をぬがずにステージの縁に腰をかけてご覧いただくこともできます。

また、屛風に当てる照明も、何秒かごとに光の強さが変わるように設定いたしました。自然光や蝋燭の灯りに近いライティングなど、朝・昼・夕と異なる時間帯をイメージした照明により、屛風の見え方はどのように変化するでしょうか。描かれた当時の人々の気持ちを想像しながらご覧いただくことで、江戸時代の屛風鑑賞を追体験いただけます。


山野行楽図屛風(高精細複製品)【展示期間:2021年12月4日~12月26日】


楼閣山水図屛風(高精細複製品)【展示期間:2022年1月4日~1月30日】

使用している照明は6連のOLED(有機EL)で、今回の展示用に特別発注しました。また照明の強弱を制御するアプリケーションも今回の展示に合わせて開発したもの。好みの時間と照度とを自分で設定できる優れものですが、照明が変化する速度は、速すぎても慌ただしく、あまり遅すぎても冗長になります。今回の展示では、ちょうどよいバランスとなるように、次の時間と照度とでセッティングしています。
・15秒で0%→60%まで上がる
・60秒60%点灯
・10秒で60%→100%まで上がる
・120秒100%点灯
・15秒で100%→0%まで下がる


照明の時間と照度を制御するアプリケーションの画面。各OLEDに対応するプログラミングがグラフ状に表されています。

また、これらの照明機器や制御ユニット、プログラム用PC、基盤、ケーブル類などの現場での設置作業は、ぶんかつ職員が立ち会い、畳のステージで構成される展示造作のなかに配置・接続しました。複雑な配線の接続もあるため、ぶんかつの会議室で事前にシミュレーションも行なっています。名古屋市博物館の皆さんと造作業者さんのご協力のもと、何とか無事に設置作業が完了した際は、ほっと安堵いたしました。


照明機器の接続シミュレーションの様子。

なお、本コンテンツの高精細複製品は、国立文化財機構とキヤノン株式会社による「高精細複製品を用いた日本の文化財活用のための共同研究」の一環として活用しています。和紙に印刷し、金箔部分は実際に金箔を貼って仕上げていますが、淡彩の微妙なグラデーションや金箔のきらめきをとことん再現するために、色合わせを根気よく何度も繰り返して制作しました。会場でご覧いただいても、ちょっとやそっとでは複製だと気づかない方もいるかもしれません。ぜひそのクオリティを間近でご覧いただければと思います。

キヤノン株式会社と京都文化協会による色合わせの様子。

※本ブログでご紹介した鑑賞コンテンツは、「令和3年度 地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト)」の一環として〈ぶんかつ〉が実施しています。

特別展「大雅と蕪村―文人画の大成者」

会期 2021年12月4日(土) ~ 2022年1月30日(日)

会場 名古屋市博物館(愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂通1-27-1)

開館時間 9時30分~17時(入場は16時30分まで)

休館日 毎週月曜日(祝休日の場合は翌平日)、第4火曜日、年末年始

観覧料金 一般1,400円(1,200円)、高大生900円(700円)、小中生500円(300円)
※カッコ内は20名以上の団体料金

主催 名古屋市博物館、中日新聞社、日本経済新聞社、テレビ愛知
助成 公益財団法人 花王芸術・科学財団、文化庁(令和3年度地域ゆかりの文化資産を活用した展覧会支援事業)
協力 文化財活用センター

名古屋市博物館・公式サイト http://www.museum.city.nagoya.jp/

名古屋市博物館・公式Twitter https://twitter.com/nagoyashihaku