ぶんかつ企画担当から3周年によせて
文化財活用センター〈ぶんかつ〉は2021年7月1日に3周年を迎えました。
〈ぶんかつ〉では企画、貸与促進、保存、デジタル資源、総務の担当セクションがそれぞれの歩みを進めています。 〈ぶんかつ〉3周年リレーブログ、第2弾は副センター長兼企画担当課長の小林から、企画担当の取り組みについて、これまでとこれからの展望をご紹介します。
企画担当のミッションは「文化財に親しむためのコンテンツの開発とモデル事業の推進」です。
このブログでは、もう何回も繰り返されてきたフレーズですが、「文化財に親しむ」とは、どういうことでしょうか。
たとえば、
絵を見て、描かれた風景の中に吹いている風や匂いを感じること。
工芸作品を見て、作った人の思いや使った人の暮らしを想像すること。
つまり、「文化財に親しむ」とは、「文化財によって、何かを感じ、心が動かされること」ではないでしょうか。
そんな「心が動く」瞬間を求めて、企画担当は体験型の展示をこの3年で計17件実施してきました。心を動かすには、それを促す能動的な体験が重要だと考えるからです。
そこで大きな役割を果たしてきたのが、文化財の複製です。
ほんものの文化財を見ていただくことが最も大切であるのは言うまでもありません。しかし、複製品だからこそできること、それによって心が動かされる場合があるのも事実です。
私たちがプロデュースした複製品による文化財体験の例をあげてみましょう。
屏風の高精細複製品を、畳に座って、ガラスケースなしで、当時の灯りを模した照明でゆっくり眺める。
実物の形・重さ・色を忠実に再現した縄文時代の土偶の複製を、そっと抱っこする。さらに、前後に分割した複製で土偶の内側に残された、縄文人の手の跡に触れる。
埴輪の着ている甲冑の複製を着て、古墳時代の武人になりきる。
こうした体験には、実際にたくさんの人に参加いただき(総計501,371人)、アンケートでも高い評価を得てきました。
重要文化財 遮光器土偶 (青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 東京国立博物館蔵)の複製。
造形、大きさはもちろん、重さも実物に合わせて制作されたもの。そっと持ち上げて抱っこしてみると、縄文人の気持ちがわかる?! 企画担当では、3年間で計44件もの複製品を制作しました。
埴輪の甲冑の着用体験 2020年 群馬県立歴史博物館にて(文化庁「地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト))
ただ「見る」だけではない埴輪体験です。
企画担当は、デジタル技術によるインタラクティブなコンテンツの開発にも力をいれてきました。
NHK Eテレの「びじゅチューン!」とのコラボレーション企画「なりきり美術館」シリーズは、最先端の技術を駆使して、絵の中の人物になりきったり、絵の中で起こっていることを再現したりすることができる体験型の展示です。この3年間に東京国立博物館(トーハク)ほか全国のミュージアムで計7回開催され、総計27万人を超えるお客様にご来場いただきました。
風神雷神図屏風の中に雷や風を起こせるインタラクティブな展示。 2020年 「びじゅチューン!×OPAM なりきり美術館」大分県立美術館にて(文化庁「地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト)
「なりきり美術館」シリーズの歴代ポスター
左から、2018年 東京国立博物館、2019年 九州国立博物館、富山県美術館
左から、2020年 千葉市美術館、東京国立博物館、2021年 大分県立美術館
今夏は山口市で開催されます!
びじゅチューン!×山口ゆめ回廊博覧会 なりきり美術館
2021年7月16日(金) ~ 2021年8月22日(日)
第一会場:NHK山口放送局、第2会場:山口情報芸術センター[YCAM]
西の京やまぐち[http://yamaguchi-city.jp/yume_event/]
今後の、企画担当の課題は2つ。
一つめは、デジタル技術による文化財体験の拡張です。
実物鑑賞で得ることができる情報を拡張し、その限界を超えること。
その柱のひとつが8Kを活用したコンテンツです。
8Kは、実物大以上に拡大してもその美しさが損なわれることなく、まるで目の前にあるかのようなリアリティと没入感を得られることが特徴です。
すでに〈ぶんかつ〉では、傷みが激しく細部の鑑賞が不可能な平安時代の絵画を8Kモニターで自由に拡大してみるコンテンツや、実物と同じ形、重さの茶碗型コントローラーを使って、8Kモニター上の茶碗を自由に動かして鑑賞するコンテンツを開発、公開してきました。
いずれも、実物での鑑賞体験を補完するにとどまらず、それを超えたコンテンツということができるでしょう。
8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」2018年、2019年 東京国立博物館にて
2022年7月13日~9月5日に東京国立博物館法隆寺宝物館で再公開の予定。将来的には、常設の展示も目指しています。
8Kで文化財「ふれる・まわせる名茶碗」2021年 東京国立博物館にて
2020年のグッドデザイン賞も受賞。現在バージョンアップを計画中。公開は来年度の予定。
今後は、8Kにさまざまな技術や複製品を組み合わせ、より体感的、より能動的に作品を楽しめるコンテンツの開発を目指します。
もう一つの課題は、より広く、より多くの人に〈ぶんかつ〉のコンテンツを届けること。
私たちはこれまでも、複製品の貸与、アウトリーチプログラムの展開など、文化財に親しむ機会を全国に提供するための事業を行なってきました。
2019年から始まったアウトリーチプログラムは、複製品を用いた教育普及プログラムを学校や地域の博物館で展開するものです。コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けたものの、これまでに22件、計2,532人の生徒さんがプログラムに参加しました。
ぶんかつアウトリーチブログラム 実施風景 2020年 東京都青梅市立若草小学校にて
また、文化庁の「地域ゆかりの文化資産地方展開促進事業(先端技術を活用した文化資産コンテンツ制作プロジェクト)」を受託し、地域のミュージアムにコンテンツを提供してきました。
こうした経験のなかで全国の学校が、ミュージアムが、文化財とのどんな出会いを求めているのか、また、どんなノウハウをもっているのか、多くの知見が得られたところです。今後は、そうした皆様と力を合わせて、オンライン事業も含め、より充実した事業展開ができればと思います。
これまで紹介してきた企画担当の活動は、いずれもさまざまな企業や、団体の協力によって進められてきたものです。この機会に、ご協力いただいた企業、団体の皆様に心から感謝申し上げます。
そして、今年度はこれまでにない新しいコラボレーションによる、全く新しい企画も実現する予定。発表はもう間もなくの予定です。どうぞお楽しみに。
私たちの社会が大きな困難に見舞われているこんな時代だからこそ、みなさんと手を携えながら、文化財の豊かな世界に心がうるおう時間と体験をお届けできるよう、引き続き頑張っていきます。
次回のブログは総務担当からご紹介、どうぞお楽しみに。
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- 2021年07月06日 (火)