ぶんかつブログ

2021年度貸与促進事業の展覧会5つをご紹介

4月に入り新年度がスタートしましたね!
「国立博物館収蔵品貸与促進事業」(以下、貸与促進事業)は、2021年度に実施対象となる展覧会5つが決定し、開催にむけて実施対象館との調整に余念がありません。貸与促進事業の立ち上がりから5年目にあたる今年度、本事業は文化財活用センター〈ぶんかつ〉と、東京国立博物館(トーハク)との共同事業から、京都・奈良・九州の国立博物館を加えた5つの組織による共同事業へと生まれ変わります。今年度、貸与促進事業に採択となった実施対象館は、福島、佐賀、奈良、沖縄、三重の5県・5施設。「5」が並ぶ様子はまるで「Go! Go! Go! Go!」と元気な声をかけられているようです。今年度は計89件の地域ゆかりの文化財を、これらの地域のミュージアムに貸し出し、順次公開していく予定です。

早速、2021年度事業として各地で開催される5つの展覧会をご紹介いたしましょう。

貸与促進事業では「地域ゆかり」が重要なキーワード。各地のミュージアムの学芸員さんが企画する展覧会が、「地域ゆかり」の文化財を展示に活用し、地方創生・観光振興へとつながる企画である場合、輸送費や保険料等を〈ぶんかつ〉が負担してサポートするのが貸与促進事業です。国立博物館内で展示の機会が少ない文化財はもちろんのこと、しばしば展示されている文化財も、地元ならではの切り口で公開し、活用していただける点が特徴です。

たとえば、福島県・やないづ町立斎藤清美術館の「斎藤清とハニワ!」展は、まさにその好例のひとつ。トーハクやきゅーはく(九州国立博物館)から7件の考古資料を貸し出します。

1. やないづ町立斎藤清美術館「斎藤清とハニワ!」
2021年4月24日~6月6日/貸与予定件数:7件

https://www.town.yanaizu.fukushima.jp/bijutsu/

日本を代表する現代版画家の一人である斎藤清(さいとう・きよし/1907~1997)は、会津出身の画家。戦後の占領下の日本で駐日アメリカ人から人気を集め、1951年に『TIME』誌上でその作品がカラー図版で紹介されています。さらに同年にはサンパウロ・ビエンナーレで日本人として初受賞を果たすなど、いち早く国際舞台でその実力を認められたことでも知られます。

斎藤は、実はトーハクと深い縁がある画家です。 1947年創刊の『国立博物館ニュース』(現・東京国立博物館ニュース)で題字やカットを手掛けたことから、トーハクの所蔵品をスケッチする機会を得た斎藤は、埴輪や土器、土偶など考古資料の素朴で簡潔な表現の中に深い精神性を見出し、インスピレーションを受けて作品を数多く制作しています。

「斎藤清とハニワ!」展では、こうして誕生した斎藤の作品と、その創作の源となった考古資料が、70年近い時を経て再会するのです。普段国立博物館内で見慣れた文化財も、斎藤の作品と並べて鑑賞すれば、これまでとは一味違った魅力を発見することができそうです。

 
(左)埴輪 女子頭部 古墳時代・6世紀 群馬県前橋市田口町出土 東京国立博物館蔵
(右)重要美術品 遮光器土偶 縄文時代(晩期)・前1000~前400年 青森県つがる市森田町床舞出土 東京国立博物館蔵

また、貸与促進事業において注目すべきは、まとまった数の文化財のお貸し出しが可能という点です。通常の貸与では、一つの展覧会に貸し出せる文化財は20件までですが、貸与促進事業の「大規模貸与」に採択された展覧会には、21件以上50件までの文化財をまとめてお貸し出しします。今年度も地域ゆかりの作家にスポットを当てた二つの展覧会に対し、20件を超える文化財が貸し出されます。

2. 佐賀県立美術館「白馬、翔びたつ―黒田清輝と岡田三郎助―」
2021年9月7日~10月17日/貸与予定件数:22件

https://saga-museum.jp/museum/

たとえば佐賀県立美術館に貸し出されるのは、トーハク所蔵の黒田清輝筆の重要文化財「舞妓」や岡田三郎助の第2回文展出品作「傾く日影(雑草)」など22件。佐賀県出身の岡田三郎助(おかだ・さぶろうすけ/1869~1939)と鹿児島県出身の黒田清輝(くろだ・せいき/1866~1924)という、九州出身の二人の交流の軌跡を紹介する本展は見ごたえたっぷりです。OKADA ROOMをもち、岡田の作品を数多く展示してきた同館ですが、黒田・岡田の二人に焦点を当てた展覧会は初開催とのこと。地元の方々にとっても、期待の展覧会になりそうです。


(左)重要文化財 舞妓 黒田清輝筆 明治26年(1893) 東京国立博物館蔵
(右)傾く日影(雑草) 岡田三郎助筆 明治41年(1908) 東京国立博物館蔵

3. 奈良県立美術館 生誕200周年記念「森川杜園展」(仮称)
2021年9月23日~11月14日/貸与予定件数:24件

http://www.pref.nara.jp/11842.htm

奈良県立美術館には計24件の文化財をお貸し出し予定。奈良一刀彫(奈良人形)を芸術の域に高めたことで知られる森川杜園(もりかわ・とえん/1820~1894)は、幕末明治期に活躍した奈良出身の彫工です。造形力豊かな彩色木彫を手掛けた一方、明治政府による古器旧物調査(壬申検査)を背景に、博物局や博覧会社からの依頼を受けて、正倉院宝物など名宝の模写や模造を数多く制作しています。

今回は、杜園が手掛けた奈良人形の代表作「能人形 牛若・熊坂」や、奈良・興福寺所蔵の国宝「金剛力士立像」を模した彫像などを、東京と奈良の二つの国立博物館からお貸し出しします。模造は、その完成度が極めて高いにもかかわらず、一部の作品を除き、比較的展示の機会が少ない文化財。今回の企画により、新たな息吹を吹き込まれ、故郷で杜園の卓抜した技術を示す作例として地元で公開されることになりました。


(左)能人形 牛若・熊坂 明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵
(右)金剛力士立像(模造)(原品:国宝、奈良・興福寺所蔵) 森川杜園模 明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵

さらに、地域ゆかりの作家にスポットを当てた展覧会をもう一つご紹介。

4. 桑名市博物館「やまと絵のしらべ―帆山花乃舎と復古大和絵― 」
2022年1月22日~2月27日/貸与予定件数:18件

http://www.city.kuwana.lg.jp/index.cfm/24,0,235,414,html

三重県・桑名出身の帆山花乃舎(ほやま・はなのや/1823~1894)は、䑳崇寺(りんそうじ)の住職を務めながら復古大和絵派の絵師として活躍した画僧。内国勧業博覧会などへの作品出品で全国的に名声を高めた一方で、桑名萬古焼の再興に挑んだ地元桑名の陶工・初代森有節(もり・ゆうせつ/1808~1882)に絵を教えるなど、地域文化と芸術の発展に大きな貢献を果たしました。

今回は、東京と京都の二つの国立博物館から森有節の茶碗や、帆山花乃舎が師事した浮田一蕙(うきた・いっけい/1795~1859)や渡辺清(わたなべ・きよし/1778~1861)らの絵画など18件の文化財をお貸し出し予定。帆山花乃舎の画風の源流とその功績を顕彰しようという展覧会です。


(左)薬玉図 渡辺清筆 江戸時代・19世紀 京都国立博物館蔵
(右)黒楽不二文茶碗 「萬古」印 有節万古、初代森有節 江戸時代・元治元年(1864) 東京国立博物館蔵

最後にご紹介するのは、沖縄県・那覇市の市制施行100周年を記念するとともに、2019年に焼失した首里城の復興を願って開催される、那覇と首里城を象徴する赤瓦をテーマにした特別展です。

5. 那覇市立壺屋焼物博物館
令和3年度那覇市立壺屋焼物博物館特別展「うちなー”赤瓦”ものがたり」(仮称)

2021年11月2日~12月26日/貸与予定件数:18件

http://www.edu.city.naha.okinawa.jp/tsuboya/

※現在システムメンテナンス中、5月復旧予定

この展覧会には、トーハクから京都大宮御所出土「菊丸練込瓦」や韓国・景福宮出土「龍文軒平瓦」、そして江戸城、紫禁城などの東アジア王宮で使用された瓦など、18件の文化財をお貸し出しする予定です。国立博物館所蔵の文化財と、首里城の瓦など地元の資料を比較展示することによって、東アジア諸国から影響を受けた沖縄における瓦の歴史と特殊性、琉球産瓦の独自性が確立する過程などをたどります。


(左)雑像(沙和尚) 朝鮮時代・19世紀 伝朝鮮開城南大門所用 東京国立博物館蔵
(右)龍文軒平瓦 朝鮮時代・19世紀 韓国ソウル市景福宮出土 東京国立博物館蔵

このように、2021年度の貸与促進事業では、地域性豊かなテーマで企画された、魅力的な展覧会を応援していきます。展覧会の様子は今後のぶんかつブログでもご紹介します。お近くにお住まいの方、旅に出る機会のある方など、一人でも多くの方々にご来場いただき、展覧会を楽しんでいただければと思います。

▷2021年度貸与促進事業展覧会のご案内を見る

カテゴリ: 文化財の貸与