保存担当学芸員研修、36年の歩みとこれから
全国のミュージアムに勤務する学芸員や、自治体の文化財行政担当者などに、環境管理をはじめとした、文化財保存に欠かせない知識や技術を学んで頂くことを目的とする「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」は、東京文化財研究所(東文研)が昭和59(1984)年度より毎年開催しています。令和元(2019)年度より文化財活用センター〈ぶんかつ〉も共催者としてその運営に加わっています。ちなみに筆者は平成16(2004)年度以降、ずっと運営担当者を務めています。
36年前にこの保存担当学芸員研修をスタートした背景には、当時、保存修復のための設備を備えたミュージアムが増えたものの、これを十分に活かすための知識や技術を得る機会が非常に乏しいという実情があったためです。学芸員資格を取得するための、大学の博物館学芸員養成課程においても、保存に関する科目は設定されていませんでした。文化財の保存はミュージアムの大きな役割であり、これを担うのは学芸員であることは、その遥か前、昭和26(1951)年に制定された博物館法に明記されているにも関わらず、です。
そういった状況の中でスタートした保存担当学芸員研修は、当初より評判を呼びました。基本的に毎年7月の2週間に渡って行なわれるため、特に首都圏以外からの参加者は、長期間家族や職場から離れることになりますが、それでも毎回、定員を大きく上回る参加希望をいただきます。そのためやむを得ず、次のチャンスを待っていただく方も少なくありません。これまでの参加者は900名を超えました。すでにリタイアされた方もいますが、皆さん、それぞれのミュージアムで、文化財保存の重責を担っています。
令和2(2020)年度はオリンピック開催予定だったために、例年とは異なる10月に開催した本研修の様子。十分な新型コロナウイルス感染対策を講じた上での実現でした。
保存担当学芸員研修の内容は、毎回検証し、必要な見直しを行なってきました。保存環境管理を例に取ると、展示室内の温湿度管理は36年間変わらず大きなテーマですが、ここ数年は、建材や内装材から発生し、展示品や収蔵品に影響する化学物質への対応や、多様化する環境測定機材の正しい使用などにも比重を置いています。
また、大学の博物館学芸員養成課程では、平成24(2012)年度入学生より、ようやくと言えますが、保存に特化した専門科目である「博物館資料保存論」の単位取得が必須となりました。あらかじめ文化財保存の知識を持って学芸員となる人が増えますので、この研修の今後の在り方にも影響するかもしれません。
ここ2年間、東文研との共催で実施してきたこの保存担当学芸員研修ですが、2021年度の次回より〈ぶんかつ〉は「基礎コース」として環境管理の基礎に特化した内容を、東文研は研究機関であることを活かしたカリキュラムでの「応用コース」を、それぞれ単独、別日程で行なうことになりました。
「基礎コース」は、同じ内容で年2回、それぞれ1週間の研修を開催します。これにより、全国のより多くの学芸員が、応募するチャンスが広がることを期待しています。まだ、コロナ禍の先が分からない状況ですが、少しでも多くの参加者を受け入れられるよう願いながら、準備を進めてまいります。
2021年度の「基礎コース」は、8月と年明けの1月に開催の予定です。本研修の参加募集と応募は、各都道府県、および政令指定都市の教育委員会等を通じて行ないます。すでに、開催通知を各教育委員会等に配布済みですので、参加にご関心があり、開催通知を受け取っていない学芸員の方は、ご勤務先のミュージアムが所在する自治体の教育委員会にお問い合わせください。
また、本研修のこれまでを知りたい方は、拙著“「博物館・美術館等保存担当学芸員研修」の意味と効果”(日本博物館協会『博物館研究』平成29年10月号掲載)をご参考にしてください。
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- 2021年03月23日 (火)