ぶんかつブログ

幻の展覧会「国宝参上。」展 VR制作の舞台裏(後編)

3月2日のブログでご紹介した3Dビュー+VR映像「こがはくde国宝VR」制作の舞台裏。※公開は2021年12月31日で終了
つづく「後編」では事前準備と撮影の様子、そしてコンテンツの楽しみ方をご紹介いたします。

▷ブログ「幻の展覧会「国宝参上。」展 VR制作の舞台裏(前編)」の記事を読む

撮影にあたり最も注意を払わなくてはならないのが、文化財の安全確保と権利処理です。

文化財の多くが、温度湿度の変化や光の照射に対して脆弱であるため、撮影に使う機材(カメラ、マイク、照明器具など)、撮影方法、設置位置などを入念に確認します。ボランティア撮影のご協力をいただいたVR革新機構[https://vrio.jp/]が使用するカメラはMatterport Pro2 Camera、Leica BLK360、RicohTHETA Z1の3種類。今回はこの中から、室内撮影にはボックス型のマターポート社製、屋外撮影にはドーム型のライカ社製の3Dスキャンニングカメラを用いました。いずれもレンズの性能が良く、開館時同様の低い照度も撮影が可能です。さらに、比較的小型で軽量ですので狭い場所にもカメラを設置することができました。


(画像:VR革新機構ウェブサイトより)

次に、権利関係の確認です。展示室内に著作権者や、所蔵者の許諾が必要な文化財、個人情報が記載された掲出物などが含まれていないかを確認します。寄託品の所蔵者には古河歴史博物館が許可を取り、個人情報などが含まれた掲出物や許可が間に合わない文化財は、撤去することになりました。

そして迎えた撮影当日―。
2メートル四方ごとにカメラを設置し、360度撮影をしていきます。今回はエントランス、ロビー、展示室の129ポイントを4時間ほどかけて撮影しました。

カメラは、ヴィジュアルイメージだけでなく、レーザーにより計測されたサイズデータも記録していきます。それらのデータをサーバーに送ると瞬時に、AI(人口知能)が画像のゆがみや色を補正し、複数カットをなめらかにつなぎ合わせ、3Dビューを生成します。


撮影とデータ確認の様子

3Dデータは、リアルタイムで撮影者の手元のタブレットに映し出されるため、その場で確認することができます。その間、わずか数秒。その処理速度と空間再現の精度の高さに驚嘆せずにはいられません。

3Dビュー+VR映像「こがはくde国宝VR」の楽しみ方

3Dビューアーの中でも、マターポート社の技術は、元々は不動産物件の内見などの用途で開発されたもの。ストリートビュー機能に加え、ドールハウスや平面プランで空間を立体的に俯瞰し、クリック一つで行きたい場所に瞬時に移動できる点が最大の魅力です。

では、「こがはくde国宝VR」の公式サイトから「入館する」をクリックし、実際にVR展示室内で展覧会鑑賞を体験してみましょう。 エントランスを入り、順路に沿って鑑賞したい方は、床面に映し出される白い◎印に沿って行きたい方向に進んでみてください。


エントランス

行きたい場所に瞬時にワープしたい方は、画面左下の建物アイコン(「ドールハウスを表示」)をクリックまたはタッチ!
するとこんなドールハウス画面が現れます。


ドールハウス表示

あるいは、その右隣りの平面図アイコン(「フロアプランの表示」)を押せば、建物を鳥瞰した平面ビューが現れます。


フロアプラン表示

行きたい場所を決めたらクリック(タッチ)するだけで瞬時に希望の作品の前に移動が可能です。
国宝「鷹見泉石像」の前にワープしてみましょう!


「鷹見泉石像」(東京国立博物館蔵)の前に移動

作品の前に立ち、画面を上下左右に動かしたり、ズームイン・ズームアウトしたりも自由自在です。


クローズアップ

画像の近くに青緑の◎があれば、そちらをクリックしていただくと・・・

国立文化財機構所蔵品統合検索システム「ColBase」など、外部データベースから作品の詳細情報を入手することができます。


ColBase内の「鷹見泉石像」の詳細データ

▷ColBaseで「鷹見泉石像」の作品情報を見る

最後に、この展覧会を担当された古河歴史博物館の学芸員・永用俊彦さんに、今回のVR制作とオンラインでの展覧会鑑賞について思いを寄せていただきました。

「VRの世界は実体験とは異なるもの。もちろん作品鑑賞は現地で実際の作品を観るのが一番です。しかし、今回のように会場で観ることがかなわないときに、こうしたVRのコンテンツは展覧会をご覧いただける方法の一つ、別の体験としての可能性を持つことを感じました。展示作品には、目を凝らして観察しなければわからない発見も多数隠されています。VRは、時を選ばず、自宅やくつろぐことのできる空間で、ゆっくりとそれらを観賞できるため、学習教材としての活用やクイズ形式で楽しむ利用方法など無限の可能性が秘められているように思います。学校教育や遠隔での体験に役立てていただければと思います。」

〈ぶんかつ〉は、文化財の保存と活用の両立に留意しながら、あらゆる地域で、すべての人びとが、文化財を通して豊かな体験と学びを得ることができるよう、さまざまな取り組みを行なっています。こうしたコロナ禍でも可能な文化財の活用と楽しみ方も含め、今後も新たな文化財へのアプローチを提案および実践していきたいと思います。


動画特設サイト こがはくde国宝VR
※公開は2021年12月31日で終了

古河歴史博物館 公式Twitter
https://twitter.com/koga_city_m

一般社団法人 VR革新機構
https://vrio.jp/


カテゴリ: 文化財の貸与