ぶんかつブログ

失われた花宴~よみがえる花下遊楽図屏風~前編

2020年もそろそろ折り返し、なかなかお出かけする気にはなれない時期ではありますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。いつもの春ならば上野でお花見を!と決めている方も、今年は残念ながらおうちで過ごした方が多いと思います。その見過ごしてしまった桜、東京国立博物館(トーハク)に見に来ませんか?

国宝 花下遊楽図屏風 狩野長信筆
紙本着色 江戸時代・17 世紀 東京国立博物館蔵

こちらは満開の桜の下で舞い踊る姿が描かれた国宝《花下遊楽図屏風》(かかゆうらくずびょうぶ)です。 江戸時代のはじめ、17世紀の作品で、向かって右側、右隻には、満開の桜の下で貴婦人を中心とする酒宴のさまを、左隻には八角堂(八面の仏堂)の前で繰り広げられる風流踊りと、それを眺める人々を描いています。

…と、ここまで読んで、「おや?」と首を傾げた方も多いかもしれません。そう、右隻の中央にはぽっかりと空白の部分がありますよね。「満開の桜の下で貴婦人を中心とする酒宴のさま」はいったいどこに描かれているのでしょう?

実はこの作品の右隻中央部分は、大正12年の関東大震災の時に失われました。現在は無地の和紙を補って屏風に仕立てられています。この屏風の完全な姿を伝えるのは、明治時代に撮影されたモノクロのガラス乾板写真のみ。ガラス乾板写真で、その消失部分を見てみましょう。


ガラス乾板に残された右隻中央部

女性たちが優雅に語らっている様子が見て取れます。身に着けている衣装から、この女性たちが高貴な身分であることがうかがえます。まさにこの作品のハイライトともいえる場面です。
この画像をご覧になって、完全な姿で屏風を見ることができたら…と思ったみなさんに朗報です。

このたび文化財活用センター〈ぶんかつ〉では、国宝《花下遊楽図屏風》の消失部分を復元するかたちで高精細複製品を制作しました!どうぞ、ご覧ください。


【高精細複製品】国宝 花下遊楽図屏風(右隻)
和紙に印刷 2018年制作(2020年完成)東京国立博物館蔵

この高精細複製品は、〈ぶんかつ〉とキヤノン株式会社との共同研究プロジェクトの一環として制作されたものです。このプロジェクトでは、特定非営利活動法人京都文化協会とキヤノン株式会社による「文化財未来継承プロジェクト(通称:綴プロジェクト)」[https://global.canon/ja/tsuzuri/]の技術を使用して、日本絵画の高精細複製品の制作と活用を行なっています。

▷ぶんかつ&キヤノンプロジェクトのページを見る

原作品では失われてしまった花宴が、高精細複製品で見事によみがえりました。
ぶんかつ&キヤノンプロジェクトではこれまでもさまざまな高精細複製品を制作してきましたが、消失部分の復元は初めての試みです。技術者と絵画の研究員が知恵を出し合い力を合わせて制作したともいえるこの複製。特にご注目いただきたい、右隻中央部分をアップで見てみましょう。


右隻中央の復元部分

よく見ると、色がついている部分と白黒の部分とが両方あることにお気づきでしょうか?
高精細複製品の制作過程で大きな課題となったのが「色の再現」でした。というのも、モノクロのガラス乾板写真からは、制作当時の屏風の色を判断できないことがわかったためです。けれども復元部分が白黒のままでは、作品全体の調和が取れません。

どうしたものか…と頭を悩ませた結果、今回は原作品から色が判断できる部分のみ、着色を試みることにしました。たとえば、背景や桜の木は消失部分と現存部分にまたがって描かれているので、そこから色を判断することができます。また、消失部分の中央に描かれた藤の模様の打掛を羽織った女性については、明治時代にこの人物のみ模写した図に、「地赤」という書付があるため、原作品に使われている赤色から最も明るい部分を選んで色を付けました。色が判断できない部分については、白黒のままにしています。

この色の再現にあたっては、原作品の画像データから該当部分の色を切り出し、ガラス乾板写真のデータへ色を付けるという画像編集の技術を用いています。完成した高精細複製品をみて、意外にも白黒部分が気にならないことに私たちも驚きました。人間の目は不思議ですね。

こうして約百年の時を経て、《花下遊楽図屏風》が、本来の姿に近い形で見られるようになりました。ほかにも、この高精細複製品の制作には現代の技術を駆使したさまざまな工程があります。その知られざる制作の様子については次回、後編のブログで詳しくご紹介しますので、お楽しみに。


花下遊楽図屏風プロジェクションマッピング会場写真

この《花下遊楽図屏風》高精細複製品にプロジェクションマッピングと音響を組み合わせた幻想的な展示は、特別展「体感!日本の伝統芸能」(2020年3月10日~5月24日/主催:文化庁、独立行政法人日本芸術文化振興会、東京国立博物館、文化財活用センター、読売新聞社)にて公開される予定でした。

しかし新型コロナウイルス感染防止のため同展は開催中止となり、残念ながら幻の展覧会となってしまいました。そこで本コーナーのみ、人数を限定し、オンラインによる事前予約制ではありますが限定公開[7月1日(水)・2日(木)]することといたしました。

ご都合がよろしければぜひ、博物館に、お花見にお越しください。

【体験モニター募集】高精細複製品によるあたらしい屏風体験「国宝 花下遊楽図屏風」

日  時 2020年7月1日(水) 13:00~16:00 / 7月2日(木) 11:00~16:00
会  場 東京国立博物館 表慶館 (台東区上野公園13-9)
予約定員 30分毎に3組 (2名まで一組)
料  金 無料 どなたでもご参加いただけます *要事前予約*

オンライン事前予約はこちら▶▶▶
高精細複製品によるあたらしい屏風体験「国宝 花下遊楽図屏風」(事前予約制・限定公開)
※オンラインでの事前予約が必要です。申し込み方法はオンライン予約のみ、日時指定の完全予約制です。
※参加した体験モニターは、オンラインでアンケートへのご協力をお願いします。
※当日の参加料および東京国立博物館入館料は無料です。
※体験モニターは、東京国立博物館の総合文化展(常設展)オンライン入館予約は不要です。
※マスクを着用してご来館ください。東京国立博物館正門にて、参加予約証の確認、検温等を行ないます。
※会場入口前の受付で、参加予約証を再度ご提示ください。状況に応じて、入場制限を適宜行なう場合がございます。
※このプログラムを鑑賞・体験するのにかかる所用時間は1回約5分です。
※事前予約は、各体験日の2日前に締め切ります。