ぶんかつブログ

「53条調査」を知っていますか?

今回は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉保存担当の業務のひとつである、自称「53条調査」を紹介します。

日本のミュージアムで開催される特別展や企画展では、他のミュージアムや寺社、または個人などからお借りした文化財が多く展示されます。これは、文化財の持ち主(所有者と呼びます)にお願いし、貸し出しの許可を得て実現しているわけですが、借用する文化財が国宝や重要文化財の際は、併せてある法律をクリアしなければなりません。

それは、文化財保護法第53条として定められている、「重要文化財の所有者及び管理団体以外の者がその主催する展覧会その他の催しにおいて重要文化財を公衆の観覧に供しようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。」です。つまり、国宝・重要文化財は、所有者と併せて、文化庁長官の許可あってはじめて、借用と展示が叶うわけです。


収蔵庫の調査風景

この許可を申請するために、国宝・重要文化財の借用を予定しているミュージアムでは、展示に使う展示室や展示ケース、お借りした文化財を一時的に保管しておく収蔵庫などの環境が、借用する国宝・重要文化財にとって安全であることを示さなければなりません。そのための調査を、〈ぶんかつ〉保存担当が、文化庁からの協力依頼を受けて行なっています。

具体的な調査方法について少しご紹介します。まず、展示室内の温湿度環境が適正であるかを確認するために、温度と相対湿度(実際の空気中に含まれる水蒸気量と、そのときの気温における最大の水蒸気量との比率)の推移や変動を計測します。また、文化財の変色や腐食等の原因となる化学物質がどの程度あるのかを調べるため、空気中に含まれる有機酸やアンモニアなどの濃度を実測しています。
これらの調査結果から、所見を記した報告書を作成し、調査先のミュージアムへ提出します。これを、先の法律の番号にちなんで「53条調査」と呼んでいるわけです。


データロガー:温度と相対湿度の推移を内蔵のメモリに記録します。

では、どのような環境であれば国宝・重要文化財にとって“安全”であるといえるのでしょうか?文化庁による「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」には、適正な取り扱いを行なうべき事項や留意すべき事項についての指針が示されています。調査先の所見にあたっては、基本的に、この取扱要項を環境基準としています。

▷文化庁「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項」を見る

調査の結果、何らかの改善を要することが判明するミュージアムも少なくありません。その場合は、展示を実現するために、我々が改善のための助言や現地調査を行ない、必要に応じて、機材や資材を貸し出すこともあります。


検知剤:金属腐食などの原因となる有機酸の、空気中の濃度を調べるために使います。所定の時間設置したのちの、青色から緑色への変化の度合いで判断します。

検知管:一定体積の空気を通して、各化学物質の濃度を調べます。

なお、先述の文化財保護法第53条には続きがあり、「ただし、文化庁長官以外の国の機関若しくは地方公共団体があらかじめ文化庁長官の承認を受けた博物館その他の施設(以下この項において「公開承認施設」という。)において展覧会その他の催しを主催する場合又は公開承認施設の設置者が当該公開承認施設においてこれらを主催する場合は、この限りでない。」とされています。
ここに出てくる「公開承認施設」とは、端的にいえば、国宝・重要文化財を公開するにふさわしい設備や体制を整えたミュージアムということになります。公開承認施設では、事前の「53条調査」は免除され、事後報告を行なうこととなっています。
〈ぶんかつ〉のオフィスがある東京国立博物館(トーハク)も、特別展はもちろん、総合文化展(平常展)でもさまざまな所有者からお借りした国宝・重要文化財を数多く展示しています。しかしながらトーハクは公開承認施設であるため、残念ながら(?)私たちが「53条調査」を行なうことはなさそうです。

▷国宝・重要文化財の借用、公開にかかる環境調査のページを見る

カテゴリ: 文化財の保存