環境相談対応の15年を振り返って-前編-
今回の保存担当によるブログは、再び室長の吉田が担当します。2018年7月1日の〈ぶんかつ〉発足にあわせて、保存担当では国内外のミュージアムからの文化財保存環境に関する相談窓口を開設しました。昨年度、つまり2019年3月末日までに、53件のさまざまな相談が電話や電子メールで寄せられました。こうした問い合わせに対しては、詳しい状況を聞いたうえで、必要に応じて現地調査も行ない、改善につながる方策をともに考えていきます。今年度もすでに多くの相談を受けています。
私は前職の東京文化財研究所でも15年近く、同様の相談対応を仕事のひとつとしていました。相談内容にはその時々の傾向があり、いわば「文化財保存の課題の歴史」といえるものがあったように思います。このブログでは、その「歴史」を振り返ってみることにします。
ある日の〈ぶんかつ〉事務所の風景。電話でのご相談もよく寄せらせます。
約15年を通じて、温湿度環境に関する相談は常に多くを占めるものでした。特に展示室や収蔵庫で高い湿度が続くと虫やカビの発生につながり、文化財への被害のリスクが高まるためです。昔から、特に梅雨の時期から初秋にかけて高温多湿となる日本において、その多くが木や紙、繊維を材料とした貴重な「お宝」を守るためには、いかに虫・カビを防ぐかが重要なポイントでした。そのために、正倉院に代表される校倉造(あぜくらづくり)や、中世以降の土蔵などのように、外からの虫の侵入と湿気を極力遮断することを意図した、それぞれの時代の最高レベルの技術による建物に「お宝」が保管されました。こうした努力により人々が大事に受け継いできたものを、今私たちは文化財として目にしているわけです。
明治15年に奈良から東京国立博物館(トーハク)内に移築された、正倉院と同じ校倉造の十輪院宝蔵(どこにあるか探してみましょう)。
現在、多くのミュージアムでは、人の快適性と文化財の保存性とを図るためのさまざまな工夫がなされています。例えば、収蔵庫や展示室の温度と相対湿度は空調機器によってコントロールされていますし、建物は外気の影響を受けにくくするための高断熱、高気密設計となっています。それでも、建物や空調の老朽化に伴う性能低下や、気象変化の影響などによって、適切な温湿度維持が難しくなるケースが少なくありません。これからも、温湿度環境の相談は変わらず多くのミュージアムから寄せられることでしょう。
ここまで、昔から変わることのない文化財保存の悩みを取り上げてお話ししました。次回は、ここ数年で増加している相談内容についてご紹介したいと思います。
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- 2019年07月09日 (火)