〈ぶんかつ〉企画担当のめざすもの
〈ぶんかつ〉企画担当の主な仕事は、文化財に親しむためのコンテンツを開発することです。高度な技術によって製作されたレプリカ(文化財の複製)やICTやVR、AR、8K 映像などの先端技術を駆使したさまざまなコンテンツを皆様にご覧いただいております。
たとえば〈ぶんかつ〉では「高精細複製品によるあたらしい屏風体験」として、国宝「松林図屏風」のオリジナルと寸分違わない複製の屏風を、ガラスケースなしで、畳に座ってじっくり眺めるという展示を行ないました。さらにプロジェクション・マッピングを用いて、作者・長谷川等伯が描いた水墨画の風景を屏風に投影し、描かれたカラスが画面のなかに舞うなど、等伯の描く世界観を余すところなくご覧いただきました。
高精細複製品によるあたらしい屏風体験「国宝 松林図屏風」(2019年1月~2月、東京国立博物館にて開催)詳細はこちら
ではなぜ、文化財そのもの〈オリジナル〉ではなく、複製や高精細映像などが必要なのでしょうか。
それは文化財をより広く〈活用〉するためです。この成果は、文化財に興味をひかれ、多くの方々が文化財にふれることで達成されると考えています。これらのコンテンツは、ミュージアムなどの展示施設では、これまでほとんど行なわれることのなかった挑戦的な企画ですので、戸惑う方もいらっしゃることかと思います。脆弱な材料で作られた日本、東洋の文化財は、ご覧いただける日数や場所が制限され、展示環境を整えるために巨額のコストがかかります。しかし映像や複製を用いることで、時にミュージアムを飛び出してさまざまな場所で、いつでもどこでも、文化財に親しんでもらえる〈新しい展示〉を試みることができるのです。
8Kで文化財 国宝「聖徳太子絵伝」(2018年11月~12月、東京国立博物館にて開催)詳細はこちら
近年、東京国立博物館の来館者数は、年間200万人近くを推移しています。この年間来館者数も、首都圏の人口からすれば1割も満たしません。さらに日本に暮らす人々の数からいえば、1%を超えるくらいです。文化財を1000年先の未来に伝えるためには、莫大なお金と時間がかかります。そのお金の大半は税金です。税金の使途を決するのは、いうまでもなく私たちです。その判断をしていただくために何よりもまず、文化財のことに興味を持っていただくことが第一です。
- 参考:「文化財の保存と活用 ~未来への覚悟と責任~」(視点・論点)2017年11月03日 (金)
- http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/283483.html
もともと日本の美術や伝統文化に興味をお持ちで、歴史に詳しい方々は、ケースの中に展示された文化財をそれぞれの見方、楽しみ方で鑑賞なさっていると思います。しかし〈ぶんかつ〉では、ご自身は無関係だと思われていた方々の目にも留まるよう、直感的でわかりやすい展示を、文化財の楽しみ方を提示できる方法を探究しています。数百年前に作られた文化財の価値や意味だけでなく、当時の暮らしの空気まで感じるような、わくわくする体験ができるとすれば、海外からのお客様にも楽しんでいただけることでしょう。
- posted by
- at
- 2019年05月14日 (火)