ぶんかつブログ

〈ぶんかつ〉保存担当の役割-文化財保存のバックアップとして-

保存担当室長の吉田と申します。私たち〈ぶんかつ〉保存担当は全国のミュージアムからの保存環境管理についての相談対応や改善への支援、また、保存を担当する学芸員向けの研修会やWEBによる情報発信を通じて、いわば文化財保存の取り組みをバックアップする役割を仕事としています。

文化財保存の目指すところは、この世に2つと同じものはない文化財が、今私たちが見ている姿でこの先もあってほしいということです。文化財を所蔵するミュージアムは、地震や火災などの災害、盗難などの犯罪への対策はもちろんのこと、虫やカビによる文化財そのものへの被害を防ぐ努力が欠かせません。さらにミュージアムでは、文化財を良好な状態に保つための環境管理を行なっています。ここでの環境とは、展示や収蔵されている文化財の種類や材質に応じて、温度と相対湿度を適切に管理し安定的に保つこと、空気をキレイにすること、照度つまり光の明るさをコントロールすることなどを指します。

温度や湿度を測って記録する大小の計器。どこかのミュージアムで見たことありませんか?

私たちが生き、活動する環境では、あらゆる物質にはすこしずつ、絶えず何かしらの変化が起こります。さまざまな物質から構成される文化財も、この運命から逃れることはできません。たとえ人にとっては快適な環境であっても、文化財は長い年月をかけて、形や色の変化、表面の剥落、紙や繊維の脆弱化、金属の腐食といったことが起こります。つまり災害や虫カビによる被害ではなくとも、必ず修理が必要な時がやってきます。いま残っている古い文化財の多くは、修理されながら、その技術とともに、現在まで受け継がれてきたものです。

江戸時代末期の浮世絵。役者さんが着ている茶色の衣装は、実はもとは紫色だったのです。光に弱い染料を使っているので、徐々に変色して茶色になってしまったものです。

一方、今日では、建物の中の温湿度や照明環境を人為的にコントロールすることもできます。ミュージアムにおける適切な環境管理によって、文化財の変化のスピードを少しでも遅らせて、修理が必要となる状況から減らそうという考え方が広まりました。これを“予防的保存”と呼びます。予防的保存の考えに基づいた環境管理には、けして少なくはないコストと、これを担う人々の多大な労力が必要です。しかし、先人によって大事に守られてきたからこそ、いまの私たちは公共の財産として文化財を鑑賞し、人々や自然、歴史や来し方に思いを馳せることができます。文化財を守り、いま享受している利益を未来の人々に受け継ぐことは、いまを生きる私たちの義務といえるでしょう。

昨年7月の発足以来、〈ぶんかつ〉には50件を超える保存環境に関する相談が寄せられました。保存担当は、それぞれのミュージアムの事情を汲み取った上で、改善につながる助言や支援を行なってきました。理想とする環境はあっても、建築や設備などの事情から、思うようにはならないことが現実にはあります。具体的にどのような相談があるか、このブログで改めてお伝えします。また、文化財保存はミュージアムだけの問題ではなく、社会の理解と支持があってこそのものです。みなさまに少しでも身近に感じていただけるよう、トピックス的な内容も提供してまいります。どこかのミュージアムを訪れた際には、文化財の魅力を楽しむこととあわせて、これを保存するには何が必要だろうか?そのためにここにはどのような仕掛けがあるのだろう?というような目で見ていただけるようになれば、保存担当としてこれほど嬉しいことはありません。

カテゴリ: 文化財の保存