ぶんかつブログ

茅野市八ヶ岳総合博物館の特別展「古墳の茅野―地域のなかの古墳―」

東京国立博物館〈トーハク〉で、日本考古(古墳時代)の担当をしています河野です。

2025年10月4日(土)~2025年12月14日(日)の期間、茅野市八ヶ岳総合博物館では、特別展「古墳の茅野―地域のなかの古墳―」を開催しています。
▷「古墳の茅野ー地域のなかの古墳ー」の開催概要を見る


茅野市八ヶ岳総合博物館 外観
本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館・東京文化財研究所・奈良文化財研究所が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立文化財機構所蔵品貸与促進事業」による、令和7年度の展覧会です。
▷貸与促進事業とは

今回の特別展では、トーハクから地元茅野へ古墳出土品を貸し出ししています。そこで、我が子(文化財)の活躍を拝見するべく、トーハク古墳時代担当として、特急あずさに乗車し、茅野へ訪問しました。

長野県茅野市といえば、縄文をまず思い浮かべる方が多いことでしょう。茅野駅の構内は縄文に関するサインが多く、駅を出たすぐには国宝土偶の撮影スポットがありました。そう、ここ茅野は国宝土偶が2体も出土したことで考古学的には大変著名な地なのです。


茅野駅の国宝土偶撮影スポット

本数が少ないものの、駅から博物館近くまでバスも出ているのですが、せっかくの機会でしたので、約4km弱の道のりを歩いて訪問しました。その途中、茅野市役所があり、大きな縄文土器のモミュメントがドーンとそびえ立っていました。さすが縄文の里といわれるだけあります。


市役所入口付近にある縄文土器

さて、普段の運動不足がたたったのか、約4kmの道のりで、へとへとになりながら、茅野市八ヶ岳総合博物館に到着しました。開館より少し前の到着でしたので、椅子に座りながらエントランス付近にあったアボカドの木を眺めつつ、アボカドって意外に大きく育つのだと、我が家でも観賞用として育てようかなと思いながら開館を待ちました。


成長したアボカド

9時になり開館したので、博物館の中に入りました。こちらの博物館、1階は特別展会場があり、2階に進むと常設展がございます。まずは常設展を見学しました。
常設展では、茅野市の自然とそこに暮らす人びとの生き方に焦点を当て、自然、歴史、産業、民俗などを総合的に展示しています。それぞれの分野の展示が個性的で、岩石好き、動物好き、石器や土器好き、には心響くこと間違いなし!茅野駅を挟んで反対側にある諏訪大社に興味がある方にも、御柱の展示もありますので、一見の価値があります。茅野が天然の寒天生産量シェア全国一とは恥ずかしながら全く知りませんでしたので、そのあたりの事も学べてよかったです。


【上段】 [左] たくさんある岩石の展示  [右] 魅力的な動物たち
【下段】 [左] 個性的な縄文土器の展示  [右] 寒天づくりに必要な道具

さて、ここからは、本題の特別展「古墳の茅野―地域のなかの古墳―」です。
私は古墳時代を専門としていますが、正直、茅野の古墳というイメージが全くありませんでした。でも、今回の展示は、トーハク所蔵品をはじめ、茅野から出土した主要な出土品を一堂に通史的に見ることができるという、特別な機会になっています。おそらくこのような機会は今後ないという思いで、じっくり拝見しました。


特別展「古墳の茅野」の展示風景

展示を拝見しての感想は、古墳時代中期(5世紀)以降の武器武具や馬具が多いこと。まさしく東国舎人騎兵といった武人が彼の地にいて、王権に奉仕をしたことがよくわかりました。さらに古東山道が彼の地に通っていたという考えは、学ぶことが多かったです。また、長野県の風土という事もあるのでしょうが、考古学史を重視した展示構成ともなっていました。とりわけ終章「地域のなかの古墳」コーナーでは、地元研究者にスポットをあてて、紹介をしているのが印象的でした。

トーハクからは今回の特別展で、重要美術品の疱瘡神塚(ほうそうがみづか)古墳出土品一括を貸し出しました。この疱瘡神塚古墳は、6世紀前半頃における諏訪地域で、最初期の横穴式石室導入例であり、平面形態がT字状の独特な石室形状となっています。出土品のうち馬具は金銅装であり、優品として知られています。また子持器台(高坏)は、トーハクでもよく展示をするもので、古墳に関わるマツリに使われた道具です。今回114年ぶりの里帰りとなりますので、とりわけ地元のかたがたには、この機会にご覧いただきたいです。


[左]疱瘡神塚古墳(長野県茅野市)出土品の展示コーナー
[右]疱瘡神塚古墳(長野県茅野市)出土の子持器台(高坏) 出典:ColBase

▷▷ColBaseで「子持器台(高坏)/子持高坏」を見る

この特別展ですが、充実した図録もあり、今後の茅野における古墳時代を語るうえで必須のアイテムとなりそうです。また、茅野の広報誌にも本特別展の情報が掲載されていますので、こちらもご覧いただければ幸いです。


[左]特別展図録  [右]茅野市広報誌 広報ちの(CHINO)
▷▷「広報ちの」を読む 本展紹介は4~7ページ目にあります!

さて今回の特別展、茅野市八ヶ岳総合博物館だけではございません。スタンプラリーカードなるものを特別展会場でみつけました!


「古墳の茅野」スタンプラリーカード

じつは、茅野市尖石(とがりいし)縄文考古館と茅野市神長官守矢(じんちょうかんもりや)史料館でも、「古墳の茅野」展を同時開催中なのです。3館でスタンプをゲットした方はちょっとした記念品がもらえるとのことで、さっそく両館にも足を運びました。


[左]茅野市尖石縄文考古館の外観  [右]茅野市尖石縄文考古館での特別展「古墳の茅野」

この尖石縄文考古館は、その名の通り縄文をメインとした博物館です。国宝土偶2体をはじめ、数多くの縄文時代の遺物を見学することができます。こちらでの特別展「古墳の茅野―地域のなかの古墳―」では、茅野市域で古墳時代がはじまる前の様子を紹介するために、縄文時代晩期から弥生時代の展示をされていました。
▷▷茅野市尖石縄文考古館・公式サイト https://www.city.chino.lg.jp/site/togariishi/

最後に訪れましたのは、茅野市神長官守矢史料館です。こちらでは、諏訪大社における御頭祭(おんとうさい)の復元展示を行っており、壁一面に飾られた鹿や猪の頭部は迫力があります。こちらの史料館は、建築家の藤森照信氏の初期の作品でもあり、建物をみるだけでも楽しむことができます。


[左]茅野市神長官守矢史料館の外観  [右]茅野市神長官守矢史料館での特別展「古墳の茅野」

こちらの企画展「古墳の茅野―地域のなかの古墳― 高部会場」では、茅野市の古墳出土品の紹介とともに、守矢家に残された古墳に関連する記録類も展示されていました。
▷▷茅野市神長官守矢史料館・公式サイト https://www.city.chino.lg.jp/soshiki/bunkazai/1639.html

 

なお、茅野市神長官守矢史料館は諏訪大社の上社本宮や上社前宮にも歩いていける距離にあります。この諏訪大社の周辺は、古墳がたくさんあり、今回の特別展や企画展「古墳の茅野」でも紹介されています。


茅野市神長官守矢史料館付近にある古墳

地元の方にもぜひ「古墳の茅野」展をご覧いただきたいのですが、遠方の方にもぜひお越しいただければ幸いです。茅野駅から一駅で上諏訪駅があり、諏訪湖周辺には温泉旅館やホテルが沢山あります。諏訪大社でお参りをして、諏訪湖観光をする一連の流れのなかで、今回の「古墳の茅野」展をご覧いただくのはいかがでしょうか?このほか茅野には、白樺湖や蓼科、八ヶ岳など自然あふれる観光スポットや温泉宿もたくさんありますので、茅野市オンリーでの観光でも良いかもしれません。


諏訪湖

ぜひ皆様、この特別な機会に、茅野市八ヶ岳総合博物館、茅野市尖石縄文考古館、茅野市神長官守矢史料館にお越しいただき、お楽しみください。

古墳の茅野―地域のなかの古墳―

会期 2025年10月4日(土)~2025年12月14日(日)

会場 茅野市八ヶ岳総合博物館(長野県茅野市豊平6983)

開館時間 午前9時~午後4時30分 ※見学は午後5時まで

休館日 10月6日(月)・14日(火)・20日(月)・27日(月)、11月4日(火)・10日(月)・17日(月)・25日(火)、12月1日(月)、8日(月)

入館料 大人400円、高校生・大学生300円、小・中学生200円 ※常設展の観覧も含む

茅野市八ヶ岳総合博物館・公式サイト https://www.city.chino.lg.jp/site/y-hakubutsukan/

カテゴリ: 文化財の貸与