ぶんかつブログ

「清朝最後の文人」呉昌碩の世界へ

今回ご紹介するのは兵庫県立美術館にて開催中の「生誕180年記念 呉昌碩の世界-海上派と西泠名家-」(2024年4月7日(日)まで)です。

▷「生誕180年記念 呉昌碩の世界-海上派と西泠名家-」の開催概要をみる


兵庫県立美術館

本展は、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が作品輸送費等を支出し、東京国立博物館・京都国立博物館・奈良国立博物館・九州国立博物館の4つの国立博物館が所蔵する各地域ゆかりの文化財を貸し出す「国立博物館収蔵品貸与促進事業」による、令和5年度の展覧会です。
東京国立博物館と京都国立博物館からあわせて11件の文化財をお貸し出ししています。

さっそく、展覧会の内容についてご紹介していきましょう。
呉昌碩(ごしょうせき、1844~1927)は詩、書、画、篆刻(てんこく)に優れた業績を残した中国の人物です。
清末から中華民国時代に活躍した彼は人呼んで「清朝最後の文人」。現代にいたるまで、中国はもちろん、日本にもその作品に魅了された熱烈なファンがいます。


展示会場の様子

本展では、呉昌碩の作品に加えて「海上派」*や「西泠名家」**など、呉昌碩と親交のあった芸術家たちについても紹介しています。

*海上派(かいじょうは)
19世紀中ごろから中国・上海で活躍した書画家の総称
本展では海上派である倪田(げいでん)、黄山寿(こうさんじゅ)、金爾珍(きんじちん)と呉昌碩が合作した「花卉図軸」(兵庫県立美術館蔵)※前期展示 などが展示されています。

**西泠名家(せいれいめいか)
西泠印社(中国・杭州にある篆刻や金石・書画の研究を目的とする団体で、呉昌碩が初代社長を務めた)を創設した呉隠(ごいん)・葉銘(しょうめい)・丁仁(ていじん)・王禔(おうし)の4人の創始者と、それに続く芸術家のこと。
本展では、葉銘らによる篆刻や、晩年の呉昌碩の弟子である王个簃(おうかい)による作品などが展示されています。

展示作品の多くを占めるのは、「梅舒適コレクション」。
日本の書家、篆刻家、収蔵家である梅舒適(ばいじょてき、1916~2008)が約60年の歳月をかけて収集した文物と梅自身の作品で、2019年と2021年の2度にわたって兵庫県立美術館に寄贈されました。
梅舒適は呉昌碩の熱烈なファンで、日本書道界の要職を歴任する傍ら、西泠印社名誉副社長なども務めた人物です。

本展では「詩」、「書」、「画」、「篆刻」それぞれの名品をお楽しみいただけますが、今回は展示作品の中から、本事業により国立博物館からお貸し出ししている「書」と「画」の作品をご紹介いたします。
なお、本展は前期(1/13~2/25)と後期(2/27~4/7)で展示替えがあります。


臨石鼓文四屛 呉昌碩筆 中華民国元年(1912) 紙本墨書 京都国立博物館蔵 ※前期展示(2/25まで)

最初にご紹介するのは、「書」の作品「臨石鼓文四屛」(京都国立博物館蔵)※前期展示 です。
石鼓文(せっこぶん)とは、太鼓形の10個の石に刻まれた、中国最古の石刻とされる古代文字の銘文(北京故宮博物院蔵)のことです。
「臨」には、そばに置いて手本にする、写すという意味があり、「臨書」(名跡・名筆とよばれる手本を傍らに置いてよく見ながら真似して書くこと、またその書いた書のこと)という言葉もあります。
古代文字というだけあり、なじみのない文字が書かれたこの作品ですが、筆の動きを想像してみたり、元となった石鼓文の画像を検索して見比べてみたりしても楽しむことができます。

本作の落款には「為石隠先生」とあり、これは日本の漢学者・書家である長尾雨山(ながおうざん)に贈られた作であることを示しています。長尾雨山はとある事件に巻き込まれ上海へ移住しますが、その際に呉昌碩とご近所さん同士だったことがあり、親交を深めていたようです。呉昌碩の業績のみならず、日中の文化交流を伝える作品です。
つづいてご紹介するのは、「書」の作品「行書詩翰軸」(京都国立博物館蔵)※前期展示 です。


行書詩翰軸 呉昌碩筆 中華民国4年(1915) 紙本墨書 京都国立博物館蔵 ※前期展示(2/25まで)

行書(楷書をややくずした書体)で書かれたこの作品は全体的に右肩上がりでスピード感があり、その筆跡からはどこか軽やかな印象を受けます。
筆を持つ呉昌碩の、さらさらと文字を書く姿が目に浮かぶようです。
なお、こちらも長尾雨山との交流の中で生み出された作品。雨山の求めに応じて制作したことが記されています。


桂花図軸 呉昌碩筆 清時代・光緒14年(1888) 紙本墨画淡彩 高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵※前期展示(2/25まで)

最後にご紹介するのは「画」の作品「桂花図軸」(東京国立博物館蔵)※前期展示。金木犀(桂花は金木犀の中国名)を描いています。
呉昌碩は30代で潘芝畦(はんしけい)に梅の画を学び、40歳頃に任伯年(じんはくねん)に出会ってから本格的に画を学びはじめたとされます。
輪郭線を引かずに描かれた葉は、実物を鑑賞するとなんともみずみずしく柔らかそうなのですが、写真ではなかなか伝わりません。ぜひ会場でご覧ください!
後期展示には自在な筆線で葡萄の木を描いた「葡萄図軸」や、82歳の呉昌碩による石鼓文の臨書「臨石鼓文軸」(いずれも東京国立博物館)などが登場。こちらもどうぞお楽しみに!


葡萄図軸 呉昌碩筆 清時代・光緒28年(1902) 紙本墨画淡彩 高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵 ※後期展示

臨石鼓文軸 呉昌碩筆 中華民国14年(1925)  紙本墨書 林宗毅氏寄贈 東京国立博物館蔵※後期展示

会場となる兵庫県立美術館はJR灘駅から徒歩10分程度。
駅を出ると、道の先に美術館のシンボルオブジェ「Kobe Frog」(通称:美かえる)の姿が!


駅を出てすぐ。写真だとわかりにくいですが、遠くから「美かえる」がこちらを見ています。


オランダ人アーティスト、フロレンティン・ホフマン氏がデザインした「Kobe Frog」

兵庫県立美術館を設計したのは日本を代表する建築家、安藤忠雄。迷路のような館内を探索してみるのもおすすめです。


各展示棟とギャラリー棟をつなぐ円形テラス

「清朝最後の文人」呉昌碩や、海上派、西泠名家たちの世界をぜひ会場でご堪能ください。

また、2月18日(日)には講演会「呉昌碩の世界」が開催されます。みなさま、どうぞご参加ください。

講師:九州国立博物館長 富田淳、台東区立書道博物館主任研究員 鍋島稲子氏
日時:2024年2月18日(日)14:00〜15:30(開場 13:30)
会場:兵庫県立美術館 ミュージアムホール
定員150名(当日先着順・参加無料・要観覧券)
※兵庫県立美術館「芸術の館」友の会会員優先席あり

※本ブログにおける作品名称および制作年の表記は「生誕180年記念 呉昌碩の世界-海上派と西泠名家-」展で使用されている表記です。

生誕180年記念 呉昌碩の世界-海上派と西泠名家-

会期 2024年1月13日(土)~2024年4月7日(日)
   前期:1月13日(土)~2月25日(日)
   後期:2月27日(火)~4月7日(日)
※ 前後期で作品の展示替えあり

会場 兵庫県立美術館 常設展示室6(〒651-0073 神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1)

開館時間 10:00〜18:00

休館日 月曜日※ただし2月12日(月・振休)は開館、2月13日(火)は休館

観覧料(2023年度コレクション展Ⅲ全室共通)
一般:500(400)〔300〕円
大学生:400(300)〔200〕円
70歳以上:250(200)〔150〕円
障害者手帳などをお持ちの方 一般:100(100)〔50〕円
障害者手帳などをお持ちの方 大学生:100(50)〔50〕円
高校生以下:無料
※( )は20名以上の団体料金、〔 〕内は特別展とのセット料金
※ 一般以外の料金には証明できるもののご提示が必要です
※ 障害者手帳等をお持ちの方1名につき介助の方1名は無料
※ 団体(20名以上)でご鑑賞いただく場合は事前のご連絡をお願いします
コレクション展無料観覧日
1月14日[日]、1月17日[水]、2月11日[日・祝]、3月10日[日]
※ 毎月第2日曜日は、公益財団法人伊藤文化財団のご協賛により、無料でご覧いただけます

兵庫県立美術館 公式サイト https://www.artm.pref.hyogo.jp/