発見から130年。東城寺経塚資料が地元・土浦に里帰り
今年も桜の季節が巡ってまいりました。昨年と同様、静かにお花見を楽しまれている方が多かったのではないでしょうか。
私が訪れた3月下旬、茨城県土浦市・亀城公園でも桜が見頃を迎えていました。
約70本のソメイヨシノが植えられた、桜の名所として知られる亀城公園。 「土浦桜まつり」の会場でもあります。
このブログでは、亀城公園に隣接する土浦市立博物館で好評開催中の特別展「東城寺と『山ノ荘』-古代からのタイムカプセル、未来へ」(~5/5まで)をご紹介いたします。
▷「東城寺と『山ノ荘』-古代からのタイムカプセル、未来へ」の開催概要をみる
土浦市立博物館 外観
本展は令和2年度東京国立博物館収蔵品貸与促進事業のひとつで、発見から130年の節目を迎えた土浦市・東城寺経塚出土資料や、重要文化財「紺紙金字法華経巻第一残欠」(藤原道長筆)など14件の文化財を東京国立博物館(トーハク)よりお貸し出ししています。
この度は特別に、本展を担当された土浦市立博物館 学芸員・萩谷良太さんに展示の見どころをご案内いただきました。
民俗学がご専門の萩谷良太さん。トーハクよりお貸し出し中の東城寺経塚出土資料前にて。
本展は東城寺経塚出土資料の里帰り展示を中心としつつ、山寺・東城寺と里宮・日枝神社を舞台とした信仰と祭りが、現代へと受け継がれた軌跡を辿る展覧会です。
会場に掲げられた、東城寺と日枝神社の位置関係を示す地図
まずは、明治24年(1891)に石材の採掘中、偶然発見された東城寺経塚資料をご紹介いたします。
東京国立博物館所蔵の東城寺経塚出土資料
考古学者の和田千吉が明治37年(1904)に考古学雑誌『考古界』で発表した、東城寺経塚出土品や発掘後の風景をスケッチした資料も併せてパネル展示されています。
経塚とは、弥勒信仰や往生信仰、あるいは現世利益を目的として経典などを地中に埋納した塚のことです。
トーハクからは和鏡や六器、外容器など東城寺経塚から出土した様々な資料をお貸し出ししていますが、中でも注目すべきは、保安3年(1122)ならびに天治元年(1124)の銘が刻まれた2点の経筒です。
(左)経筒 平安時代・保安3年(1122) 茨城県土浦市東城寺経塚出土 東京国立博物館蔵
(右)経筒 平安時代・天治元年(1124) 茨城県土浦市東城寺経塚出土 東京国立博物館蔵
この銘により、東城寺経塚が東日本の中でも最も古い時期に成立した経塚遺跡だと位置づけられています。
とりわけ、展覧会のポスターにも掲載されている、天治元年(1124)銘の経筒にご注目ください。
よく目を凝らしてみると…
上部に、荘厳具である瓔珞(ようらく)の文様が毛彫りで表わされていることがわかります。
徹底して磨き上げられたためか、瓔珞を刻んだ経筒上部の一部が今もなお輝きを保っていることと相まって、当初の華やかな姿が偲ばれます。
みなさまぜひ、900年の時を越えて伝わった経筒の美を、会場でじっくりとご堪能ください。
埋納経の初期例として紹介されている 重要文化財「紺紙金字法華経巻第一残欠」(藤原道長筆、長徳4年〔998〕、東京国立博物館蔵)も必見です。
重要文化財 紺紙金字法華経巻第一残欠 藤原道長筆 平安時代・長徳4年(998) 東京国立博物館蔵
本作は、藤原道長(966~1027)が奈良の金峯山(きんぷせん)に埋納した日本現存最古の経塚遺物で、国立博物館外では近年ほとんど展示されていません。この貴重な機会を、どうぞお見逃しなく。
重要文化財 紺紙金字法華経巻第一残欠(部分)
なお本事業では、国立博物館が貸し出す文化財にかかる輸送費や保険料等を、文化財活用センター〈ぶんかつ〉が負担します。
「トーハクからの文化財借用に際して費用がかからなかった分、ほかの所蔵者様からより多くの作品をお借りすることができました」と、萩谷さん。
例えば、寺外初公開となる茨城県指定文化財「木造広智上人坐像」(東城寺蔵)や、茨城県指定文化財「木造阿弥陀如来立像及両脇侍像」(蔵福寺〔阿見町追原〕蔵)といった、輸送にあたって準備作業に日数や多くの資材を要する彫刻作品の展示に繋がったとのこと。
茨城県指定文化財 木造広智上人坐像 鎌倉時代・嘉禎3年(1237) 東城寺蔵
東城寺の寺務を引き継いだ広智上人の姿を表わしたと考えられている肖像彫刻です。裳裾裏側の墨書から制作年代がわかる貴重な作例。
広智上人の生没年は不明ですが、奈良時代に生まれ平安時代初期に活躍したとされています。
茨城県指定文化財 木造阿弥陀如来立像及両脇侍像 鎌倉時代・建長4年(1252) 蔵福寺(阿見町追原)蔵
像内の銘文から、東城寺の僧侶・玄台坊栄印による造立とわかり、蔵福寺と東城寺の深い関係性が伺えます。
さて、前半は山寺である東城寺の信仰に関する展示でしたが、後半は、里宮である日枝神社の祭礼-とりわけ流鏑馬祭のルーツに着目した構成となっています。
本展では、かつて東城寺周辺が近江日吉社の荘園であったこと、そして日枝神社の流鏑馬祭に一つ物(ひとつもの)が登場するという組み合わせから、本祭礼の源流を近江の日吉山王祭に求めています。
一つ物とは、華やかな出立で祭礼行列に参加する稚児のことです。
日枝神社流鏑馬祭で現在も使われている一つ物の装束は実に華やかで、裾の長い赤色の打掛に金刺繡の陣羽織を纏い、花笠には山鳥の羽が付けられています。
一つ物の衣装 現代 個人蔵
実際の祭礼で用いられている装束を展示しています。
展示ホールでは、平成25~26年に取材した、日枝神社流鏑馬祭の貴重な記録映像も期間限定で上映中です。
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、残念ながら今年は日枝神社流鏑馬祭の開催は中止となりましたが、本展で一つ物の華やかな衣装を間近でご覧いただきつつ、祭礼のルーツと歴史を辿っていただければと思います。
なお、土浦市立博物館では展覧会図録『東城寺と「山ノ荘」-古代からのタイムカプセル、未来へ』(A4判160頁、税込1,000円)が好評発売中です。
展覧会図録『東城寺と「山ノ荘」-古代からのタイムカプセル、未来へ』
豊富な学術資料とともに10名の専門家による論考やコラムを収録した本書は、郵送でもご購入可能です。 購入方法については、土浦市立博物館のウェブサイト[https://www.city.tsuchiura.lg.jp/page/page015559.html]をご確認ください。
発見から130年という記念の年を迎えた東城寺経塚出土資料を、地元・土浦でご紹介する本展は5月5日(水)まで。
東京国立博物館のある上野駅から電車で1時間と、都心からのアクセスも便利な土浦。
みなさま、この春はぜひ、土浦市立博物館へお出かけください。
東城寺と『山ノ荘』
-古代からのタイムカプセル、未来へ
2021年3月20日(土) ~ 2021年5月5日(水)
土浦市立博物館(〒300-0043 茨城県土浦市中央一丁目15-18)
※一部の資料を除き、展示室内では写真撮影が可能です。
公式サイト https://www.city.tsuchiura.lg.jp/page/dir000378.html
公式Twitter https://twitter.com/tsuchiura_city
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- 2021年04月08日 (木)