なりきり日本美術館リターンズで屏風の表と裏を楽しむ
会期も残りわずかのなりきり日本美術館リターンズ、最後にご紹介するのは「風神雷神図屏風・夏秋草図屏風 表と裏でダブルデート」です。風神と雷神、ふたりがデートする屏風の表と裏の関係は…?
このブログではスペシャルゲストとして、大分県立美術館主幹学芸員の宗像晋作さんにお話を伺います。
―琳派について研究している宗像さん。《風神雷神図屏風・夏秋草図屏風》はどんな作品ですか?
一般的にはやはり表に描かれた風神雷神について語られることが多いと思うのですが、私は酒井抱一が好きなので裏側のお話を。尾形光琳が《風神雷神図屏風》を描いた約100年後、酒井抱一がその裏側に《夏秋草図屏風》(文政4年=1821頃)を描きました。現在は保存のために表と裏が分離されて別々の屏風に仕立てられていますが、もともとは表裏一体の屏風でした。
重要文化財 風神雷神図屏風 尾形光琳筆 江戸時代・18世紀
重要文化財 夏秋草図屏風 酒井抱一筆 江戸時代・19世紀
―酒井抱一はなぜ風神雷神の後ろに夏秋草図を描いたのでしょうか?
夏秋草図屏風は、風神雷神図屏風を所有していた一橋徳川家の一橋治済(はるさだ)という人物の古希(70歳)のお祝いのために制作されたものです。治済は当時の将軍、徳川家斉のお父さんにあたる人で、しかも私淑する光琳の裏絵ということですから、抱一自身もすごいチャンスがまわってきたと思ったはず。
出光美術館には抱一による夏秋草図屏風の下絵が残されています。その下絵の裏には、どういう構想で描くかという貼り紙があるんです。表の金地に対して裏は銀地にするとか、表では天の世界を描いているので裏は地面にするとか。抱一が得意とした俳句の対句じゃないけど、そういう発想で描いているんですよね。雷神の裏は雨でしなだれる夏草を描いて…とか、そういうのを全部考えて描いています。一世一代のチャンスだ、という感じで、入念に準備して描いたことがわかります。
宗像さんのご専門は日本美術史。『びじゅチューン!』で歌にしてほしい作品は、大分県出身の画家、福田平八郎の《漣(さざなみ)》だそう。近代の画家ですが、ちょっと装飾的で、色とかたちで勝負しているところに琳派の遺伝子を感じるのだとか。
―じゃあ、抱一としては現在のように表と裏が別々に保存されているのは不本意かもしれませんね。
そうですね、えーー!みたいな感じかも。オマージュなのに、って。(笑)
ふたつの作品が隣に並んでいて説明があればわかるけど、そんな展示はめったにないですもんね。その点で、今回の複製みたいに表裏一体で元の姿を、というのはすごくわかりやすいですね。
―この展示では高精細複製品を使用しています。近くでご覧になってみていかがですか?
印刷技術の進歩に驚きます。すごいな。これは展示室の明るさでみたらほとんどわからないですね。
銀地の部分もすごくよく再現されていますね。銀地のところは本物を見るとけっこう黒くなっているんですけど、あれは抱一が故意にやったと考えられています。光琳の風神雷神の裏に抱一が夏秋草図を描くまでに100年くらいの時間差があるので、自分がピカピカの銀地で描いてもしっくりこないというのがあったんだと思います。古色というか、古い感じを演出したといわれているのですが、その感じが複製でもよく出ていました。
―高精細複製を使った体験型の展示、実際に遊んでみてどう思いましたか?
雷神が雷を鳴らしたところで裏にまわると…という仕掛けで、表と裏の関係がよくわかりますね。
『びじゅチューン!』のアニメーションでは、井上涼さんの解釈で、表では風神と雷神が恋を謳歌するバージョン、裏ではちょっと翳りがみえてきたときの哀愁漂うバージョン。あれはやっぱり涼さんが、作品の根本的な成立原理みたいなところでインスピレーションを受けているのかなと思いました。
私はそれもすごく好きなんですけど、この展示では涼さんとはまた別の世界観で屏風の世界がよく表現されていると思います。井上涼さんの曲から入った人が、じゃあもとの作品はどんなものなのだろうなって思ったときに、この展示を体験することでよく知ることができるんじゃないかな。作品への興味につながる、というのはすごくいい流れだと思います。
雷神スイッチで雷を起こしてみましょう。そのとき、屏風の裏側では…?
―2021年には、なりきり美術館が大分県立美術館(OPAM)に巡回します。(「びじゅチューン!×OPAM なりきり美術館」会期:2021年2月19日~5月9日)風神雷神のコンテンツはOPAMでも展示されますね。最後になりきりOPAMの見どころを教えてください。
なりきりOPAMでは、なりきり日本美術館リターンズで展示中の風神雷神や松林図をはじめ、過去最大規模で体験型のコンテンツが巡回します。美術館でたっぷり遊べますよ。さらに、古美術から近現代まで、大分の美術品も一緒に楽しめるというのがOPAMならでは。例えば、北斎の大波で遊んだ後に、波の動きを表現した竹工芸の作品を鑑賞できちゃうというように、体験型コンテンツと作品を近くに並べる構成にしています。静かに鑑賞するという方法もあるけれど、今回はそういうかたちで楽しんでもらいたいですね。
来年のなりきりOPAMも目が離せませんね。宗像さん、楽しいお話をありがとうございました!
親と子のギャラリー
「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館リターンズ」
日時:2020年10月27日(火)~ 12月6日(日) 9:30~17:00(金・土曜日は21時まで開館)
会場:東京国立博物館 本館 特別5室・特別4室(台東区上野公園13-9)
休館日:月曜日、11月24日(火) ※ただし11月23日(月・祝)は開館
主催:東京国立博物館、文化財活用センター、NHK
料金:総合文化展観覧料金(一般1,000円 大学生500円)でご覧いただけます
※東京国立博物館への入館にはオンラインによる事前予約が必要です。詳細はトーハクウェブサイトをご確認ください。
※会期、開館日、開館時間、入館方法等については、諸事情により変更する場合がありますので、展覧会特設ページでご確認ください。
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- 2020年12月01日 (火)