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弥生時代の“ワザ”に挑む!Part2土製鋳型を用いた銅鐸の復元制作

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、先端技術を用いて国立博物館の収蔵品の複製やデジタルコンテンツを開発し、それらを活用する活動を行なっています。
このブログでは、九州国立博物館(きゅーはく)が2023年度に制作した「六区袈裟襷文銅鐸」の復元模造についてご紹介します。

昨年度、きゅーはくが「四区袈裟襷文銅鐸」を弥生時代当時の技術を用いて再現したことを紹介しました。詳しくは次の二つの記事をお読みください。

関連ブログ
▷「弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作 前編」の記事を読む
▷「弥生時代の“ワザ”に挑む!石製鋳型を用いた銅鐸の復元制作 後編」の記事を読む

そのとき、みなさんに予告していましたね…おぼえていますか?

「来年は、土型でやるよ!!」

きゅーはくでは、石型で作られた四区袈裟襷文銅鐸(よんくけさだすきもんどうたく)と、土型で作られた六区袈裟襷文銅鐸(ろっくけさだすきもんどうたく)という、形や大きさがほぼ同じ銅鐸を所蔵しています。
ところがこのふたつ、前者は約5キロ、後者は約2キロと、重さが倍以上ちがうんです。


左:四区袈裟襷文銅鐸 右:六区袈裟襷文銅鐸 いずれも九州国立博物館蔵

その秘密は、「銅鐸の厚さ」にあります。
石型を用いた鋳造(ちゅうぞう)では、溶けた銅を型に流し込むときに発生するガスを逃がしにくく、「抜け」(欠損部=銅が回りきらずにできた穴)ができやすいという難しさがあります。銅を流し込む隙間を広く作ることで、その失敗を避けることができますが、そのぶん銅鐸は分厚く、重くなります。と、ここまでは前回のブログで詳しくお話ししました。

いっぽう、今回取り組んだ土型を用いた鋳造は、ガスを逃がしやすいという利点があります。このため、銅鐸を薄く(=軽く)作っても、失敗をしにくいのです。
なぜこんな違いがあるのか…このブログを最後まで読めば、みなさんもおわかりになるでしょう!

前回の石製鋳型(いがた)による銅鐸の鋳造と同じく、今回も、京都府の和銅寛という鋳銅工房にお願いすることにしました。

土製鋳型による銅鐸の鋳造工程は、大きく、以下のような流れとなります。

1. 鋳型の外型の「外枠」となる、土器型の製作。
2. 鋳型の外型の「内枠」となる、真土(まね)の貼付け。
3. 外型の文様の彫り込み。
4. 中子(なかご)の製作。
5. 鋳型の焼き固め。
6. 鋳型の組み上げ。
7. 溶けた青銅(湯)の流し込み(鋳込み)。
8. 鋳型の取り外し、製品(銅鐸)の取り出し。
9. バリ外し、磨き(仕上げ)。

今回も、順番に見ていくことにしましょう。

1. 鋳型の外型の「外枠」となる、土器型の製作
ちょっと何を言っているのかわからないですよね…。解説しましょう!
土製鋳型を使った鋳造において、外型は土で作られます。しかし、ただ土を水でこねて乾かしただけでは、もろくて使い物になりません。かといって、型の全体を土器のように焼き上げて固く丈夫にしてしまうと、文様を彫り込むことができなくなってしまいます。
また、文様を彫ってから焼き上げると、焼いたときにゆがみが出て、型同士が合わなくなってしまいます。

そこで弥生人たちは考えました…
「外側は土器のように焼いて硬くしてしまおう。そうすれば型崩れしない。そして、その内側にあらたに土を貼って、それは乾かすだけにしよう。そうすれば、内側に貼った土に文様を彫り込むことができるじゃないか!」

外型の外枠(土器型)は、和銅寛さんの知り合いの陶芸家に製作をお願いしました。
作ってもらったのがこちら!

奈良県唐古・鍵遺跡(からこ・かぎいせき)で出土した土型外枠を参考に、持つための「耳」もつけました。素焼きなので、硬くて、これに文様を彫ることはできません。
そこで、次の工程が重要になります。

2. 鋳型の外型の「内枠」となる、真土(まね)の貼付け
完成した土器製の外枠の内側に、土を貼り込んでいきます。最初は、砂分が多い土を貼ります。
この工程は、あえて土の粒のあいだにすき間を作ることで、鋳込みのときに発生するガスが逃げられる部分を作る、という重要な意味があるんです。

この工程によって、土型ではガスが抜けきらないことが原因で生じてしまう穴(銅の欠落部分)を気にせずに済みます。これが、薄く軽い銅鐸を作ることのできるポイント!
また、同じ銅の量で、より大きな銅鐸を作れます。

しかも、土型は石型より軽くて扱いやすく、より大きな製品を作るのにも適しています。こうして、銅鐸の大型化が進んでいくんですねー…。

これが行きついた先。
なんと、高さ134㎝!小学4年生の平均身長と同じくらい。


重要文化財 突線鈕5式銅鐸 弥生時代(後期)・1~3世紀 滋賀県野洲市小篠原字大岩山出土
▷ColBaseで「重要文化財 突線鈕5式銅鐸」の情報を見る

さて、話を元に戻します。
砂分が多い土を貼り込んだら、その上に粒子が細かい粘土を塗り重ねていきます。

この層が、文様を彫り込む層になります。
「挽き型」を使って形を整えます。銅鐸の外側の滑らかな形状がこれで決まるので、大事な作業。

何度も粘土を塗っては挽き型で削り、きれいな形を作ります。

塗り終わり、乾かしたら、いよいよ文様を彫り込みます!

3. 外型の文様の彫り込み
ここからは集中力の勝負。小さな工具を使って少しずつ文様を彫り込んでいきます。

カーテンを閉めて暗くして、斜めに光を当て、文様を見やすくしながら少しずつ慎重に…。

完成した鋳型外型。これをふたつ作ります…大変です。

4. 中子の製作
完成したふたつの外型を組み合わせて、その内側にまた砂と粘土を貼り込んでいきます。
中子作りです。

完全に乾いたら、外型を外して中子のもとを取り出します。これを薄く削って、銅を流し込む隙間を作ります。
格子目状に削っているのは、削る深さを均一にするための工夫です。

最後に格子のあいだを削り取ると中子の完成です。

5. 鋳型の焼き固め
完成した鋳型をよく乾かします。さらに、鋳込みの直前に鋳型に熱を加え、完全に鋳型から水分を飛ばします。窯で焼くと変形してしまうので、炭でゆっくりと加熱します。

鋳型に水分が含まれていると、溶けた銅を流し込んだときに水蒸気が発生し、最悪の場合、爆発を起こすそうです。
こわいですねぇ…。

6. 鋳型の組み上げ
ここからは、前回の石型での銅鐸制作と同じ工程です。
まず、銅・スズ・鉛を坩堝(るつぼ)に入れ、コークスに火をつけて風を送りながら熱し、溶かします。

真っ赤に熱せられた炉の中で、金属がドロドロに溶けていきます…。

もう一方では鋳型の準備。

鋳型を合わせて、中子を差し込み、固定します。今回は、工事現場の足場の結束に使用する針金(番線と呼ばれるもの)をつかって縛りました。針金よりもやわらかく加工しやすいのが特徴です。

合わせてみたら、少し隙間ができていたので、合わせ目を真土でふさぎます。

鋳型を立てて、逆さにして地中に埋めます。

地中に埋めるのは、万が一の爆発などの際に被害をおさえること、銅を注ぎ込む作業のしやすさ(湯口の高さを下げる)、型からの湯の漏れ出しを防ぐなど、いくつかの理由があるそうです。

逆さに埋めるのは、弥生時代にも銅鐸の裾の方から銅を注ぎ入れた(湯口を裾に作った)と考えられるから。

7. 溶けた青銅(湯)の流し込み(鋳込み)
いよいよ、溶けた銅(湯)を型に流し込みます。緊張の瞬間!

溶けた銅の熱さがこちらまで伝わってきます…!

鋳込んだ直後の様子。
はみ出た部分はすぐに冷えて黒くなります。鋳型の中の銅はまだ真っ赤。

ある程度冷えたら鋳型を掘り出します。

掘り出した鋳型。かろうじて素手でさわれるくらいの熱さ。
冷えるまでもう少し待ちましょう…

取り扱える温度まで冷えました。流し込んだ銅の表面が急激に冷えるときに空気と反応して黒くなっています。また、真土と土器型のあいだに隙間ができています。加熱・急冷したときの収縮率が違うためでしょうか。

鋳型を固定していた番線を切りました。
土型にヒビが入っているのが見えるでしょうか?銅を流し込んだときに真土が膨張し、その圧力に外型が負けたのでしょう。

割れた部分から、型を外していきます。いよいよ、銅鐸がその姿を見せるときが…!
ドキドキ…

あれ?灰色ですね…

外型と真土のあいだに隙間ができているので、外型は外れますが、分厚い真土が銅鐸側に残っています…

気を取り直して、真土を外します。固まっているのできれいなブロック状で外れていきます。

ようやく、銅鐸が見えてきました。ところどころに青銅の地金の色、金色が輝いてますね!

まだ片側が鋳型に収まったままの銅鐸をはさんで右上に写っているのが割れた土器型(外型)。貼り込んだ真土のあとが灰色に残ってます。
左下に写っているのが文様を彫り込んだ真土の部分。「袈裟襷(けさだすき)」と呼んでいる、文様が細かい帯状の部分は、真土の表面が銅鐸に食いついてしまって銅鐸側に残りました。

これが、片面の鋳型をすべて外した状態。
型を彫り込んだ真土はボロボロと壊れながら外れていきます。袈裟襷文など、細かい斜格子文様(しゃこうしもんよう)の施された部分に、真土の表面だけが食いついて残っている状況がよくわかりますね!

ここから、中子を突き崩して取り出します。
最後に、型からはみ出した「バリ」などの不要な部分を切り取って、仕上げの磨きをかけます。

地道な作業です…

完成した銅鐸。「舌」を内側につるして、釣り手を持ち、大きく振れば、大きな音が鳴り響きます!

土器型を用いた銅鐸の鋳造では、型を一度鋳込みに使うと、取り出すときにバラバラに壊れてしまいます。なので、原則として、土型で作った銅鐸には、石型のように同じ鋳型から制作された「兄弟銅鐸」は存在しません。
また、遺跡からは土器で作られた鋳型の外枠は多く出土しますが、内貼りの真土や中子はほとんど出土しません。銅鐸を取り出すときに崩されてしまうために、形が残らないんですね。

今回の事業では、こうした土型による銅鐸鋳造の特徴がよくわかるように、復元銅鐸のほか、鋳込みに使われた鋳型のかけらなども納品していただきました。

そして!今回も、複製品製作のドキュメンタリー映像を作りました。
こちらをあわせてみていただければ、さらによくわかる、かもしれません!

▷「銅鐸複製品製作ドキュメント2」をYouTubeで見る
[https://youtu.be/-a5IXO0DVJU?feature=shared]

さて、九州国立博物館では毎年夏に、複製品(レプリカ)を活用しながらさわって楽しめる企画展示を行なっています。
今年度は、「さわって体験!本物のひみつ2024」と題して、7月17日(水)から10月14日(月祝)まで、九州国立博物館 [4階 文化交流展示室 第9室] にて開催します。
その中で、今回製作した複製品と、さわれる鋳型を展示します!

▷「さわって体験!本物のひみつ2024」展覧会チラシをPDFで見る

みなさん、ぜひ、足をお運びください!

文化交流展示 ~さわって体験!本物のひみつ2024

展示期間 2024年7月17日(水)~10月14日(月祝)

会場 九州国立博物館(福岡県太宰府市石坂4-7-2)文化交流展示室 第9室

開館時間 9:30~17:00 *入館は閉館の30分前まで

休館日 月曜日(ただし月曜日が祝日または休日の場合は開館し、翌平日に休館)

観覧料 文化交流展(平常展)観覧料(一般700円、大学生350円)
その他詳細は九州国立博物館のサイトでご確認ください

九州国立博物館 公式サイト https://www.kyuhaku.jp/

カテゴリ: 複製の活用