ぶんかつブログ

よみがえった飛鳥の伎楽面!!―前編―

こんにちは、文化財活用センター〈ぶんかつ〉の三田です。貸与促進担当に所属している私ですが、企画担当の模造制作を担当したことから、そのお話をします。
〈ぶんかつ〉では、企業や各種団体と連携して、先端的な技術による文化財の複製を制作しています。完成した複製は展示・教育普及事業・イベント等で公開活用するほか、他機関や企業・団体へお貸し出しをして、鑑賞者の文化財に対する理解を深めることに役立てていただいています。

今回、〈ぶんかつ〉は東京国立博物館(トーハク)と共同で、法隆寺献納宝物に伝来する伎楽面(ぎがくめん)のうち「呉女(ごじょ)」と「迦楼羅(かるら)」について復元模造の制作を行ないました。
私は総監修の立場で昨年の秋から制作にたずさわり、この度めでたく完成にこぎつけることができました。
このブログでは、2回にわたってその成果と制作過程をご紹介したいと思います。

まずはその鮮やかな出来栄えを原品の画像とともにご覧ください。


左:法隆寺献納宝物 伎楽面 迦楼羅(飛鳥時代・7世紀)
右:模造 伎楽面 迦楼羅(令和元年)


左:法隆寺献納宝物 伎楽面 呉女(飛鳥時代・7世紀)
右:模造 伎楽面 呉女(令和元年)

えー!ホントにー!!と言ってしまうようなインパクトのある出来ばえですが、かなり厳密な考証をした成果で、飛鳥時代の制作当初はこのような姿であったと考えています。
完成した復元模造の写真をご覧になってどう感じましたか?この強烈な彩色に、飛鳥時代の人々はさぞやビックリしたことでしょう。この驚きこそ、伎楽という演劇が伝えたかった面白さ、色鮮やかな世界観につながるものだと思います。

そもそも、法隆寺献納宝物ってなに?なぜ伎楽面がトーハクにあるの?と疑問に思われた方も多いかもしれません。
トーハクが所蔵する法隆寺献納宝物は、明治11年(1878)に奈良・法隆寺から皇室に献納され、戦後に国の所蔵となった300件ほどの文化財です。これらは、正倉院宝物と双璧をなす古代美術のコレクションとして高い評価を受けていますが、正倉院宝物が8世紀の作品が中心であるのに対して、それよりも一時代古い7世紀の宝物が数多く含まれていることが大きな特色です。この中には飛鳥時代から奈良時代の伎楽面31点も含まれます。

伎楽は、推古天皇20年(612)に百済国の味摩之(みまし)という人物が日本に伝えたとされています。呉楽(くれのうたまい)とも呼ばれ、中国南方の呉という地域で盛んだったようですが、源流はインド・中央アジアに及びます。飛鳥、奈良時代には寺院の法会などで行なわれましたが、平安時代には洗練された舞楽に押されて衰退し、その後廃絶しました。
伎楽面は、大型で頭までおおう点が、舞楽面や能面などと異なる特色です。材質で分けるとクスノキ製、キリ製、乾漆製の3種があり、クスノキ製の仮面は飛鳥時代の作です。

今回の復元模造 「迦楼羅」・「呉女」で注目いただきたいポイントはこの4つ!

1. 最先端の計測技術と職人による伝統技法の融合による成果

2. 原作品の欠損部分について、断片や古写真により形状を復元

3. 木製の面だけでなく、失われた金具も調査成果に基づきながら再現

4. 制作当時の華やかな彩色を、調査成果により再現

 

1. 最先端の計測技術と職人による伝統技法の融合による成果

東京国立博物館保存修復課 調査分析室によるX線CT調査で構造と形状の調査を行ない、調査データに基づき、樹脂原型を製作しました。


YXLON社製ターンテーブル回転型X線CTシステムによる構造と形状の調査


呉女面のX線CT撮影調査画像

2. 欠損部分を断片や古写真により復元

今回の復元模造では、古写真や同時代の絵画・彫刻等を参考に、欠損箇所の復元も積極的に行ないました。


呉女面 額などの再現時に参照した『法隆寺大鏡』12輯に掲載の古写真


迦楼羅面 トサカ部分の再現作業

3. 木製の面だけでなく、失われた金具も調査成果に基づきながら再現

呉女面の頭部を飾っていたと考えられる笄形髪飾りと宝珠形金具を、もともと原品に付属していたものとみられる法隆寺所蔵の金具を調査し、再現しました。
迦楼羅面のくちばしには、今回ひとつの可能性として、同じく献納宝物に伝えらえられる鎖付き金銅鈴を再現し、吊り下げました。


左:迦楼羅面 鎖付金銅鈴(飛鳥時代・7世紀)東京国立博物館蔵
右:復元模造に取り付けられた再現金具

4. 当時の鮮やかな彩色を調査成果により再現

赤外線撮影に基づき、肉眼ではほとんど見えない墨線を確認。これをもとに迦楼羅面の両耳や顎下の羽毛表現を再現しました。


迦楼羅面(原作品)顎部分の赤外線写真

迦楼羅面(復元模造)における顎の毛描き

学術的考証を生かした今回の復元模造。ではいったい、どのようにして制作されたのでしょうか?
後編では、制作過程とともに、これらの見どころを詳しくご紹介します。お楽しみに!

カテゴリ: 複製の活用