ぶんかつブログ

環境相談対応の15年を振り返って-後編-

前回のブログ「環境相談対応の15年を振り返って-前編-」では、全国のミュージアムから寄せられた相談内容の歴史を自身の経験から振り返りました。後編では、近年の「トレンド」ともいうべき相談内容についてご紹介します。

ここ数年の特徴として、照明についての相談が増加しました。これは主に、展示照明への白色LEDの導入に関わるものです。白色LEDが初めてこの世に誕生したのは1996年のことなので、もう20年以上も前になります。しかし、ミュージアムの展示照明に適用できるような、色再現性の高い白色LEDが実現したのは、そのずっと後のことです。国内では、2005年頃より展示照明にLEDを使う例が徐々に出てきましたが、多くのミュージアムで導入が進んだきっかけとなったのが、2011年に発生した東日本大震災での福島第一原子力発電所事故による電力危機、それに伴う省エネ要請でした。さらに、地球温暖化防止や水銀含有製品の規制といった世界的な動きの中で、これまで展示照明の主流であったハロゲンランプと蛍光灯の生産が縮小し、将来的には中止の方向となったために、白色LEDの導入に拍車がかかったという経緯があります。


  東京国立博物館 東洋館の展示照明には、ハロゲンランプとLEDの両方が使われています。区別できますか?

では、白色LEDの導入に関してどのような相談が寄せられたかといいますと、まずはやはり、文化財の保存性についてです。白色LEDは文化財にとって脅威となる紫外線や赤外線を放射しないという利点があります。しかし、可視光、つまり文化財を鑑賞するために欠かせない光によっても、変色や退色は徐々に進行します。ミュージアムでは光に対する展示物の脆弱性に応じて、照度や照射時間を調整しているのですが、白色LEDの導入にあたり、これまでのハロゲンランプや蛍光灯と同じ照度で展示を行なっても大丈夫なのか?という疑問が多く寄せられました(これについては、特に大きな問題はないという結論になっています)。また保存性の問題とは異なりますが、ハロゲンランプや蛍光灯から白色LEDに交換することで、展示物の見え方や展示室全体の雰囲気が変わってしまうのではないかという懸念も少なからず寄せられました。

ミュージアムの空気環境、つまり空気中の汚染物質に関する相談もここ数年で増えています。1960~70年台にかけての高度成長時代には、大気汚染物質の流入と影響が問題になりました。また、新築のミュージアムで油絵の変色が発生する例が1970年代に知られ、この原因がコンクリートの乾燥過程で放出されるアンモニアであることが判明し、その軽減が課題となりました。
空気環境を適切に保つことは常に文化財保存上の課題でしたが、相談件数が目立ってきた背景には次のような要因が考えられます。ひとつは、展示・収蔵空間の温湿度環境を安定させるための高密設計が、その一方で、空間の内部で発生し、文化財にさまざまな影響を与えうる化学物質の滞留を招いているという認識が広まったこと。そしてもうひとつが、ミュージアムの空気環境を比較的簡単に判断できる検知剤が10年ほど前から市販されるようになり、問題点を発見する事例が増えたことです。


  ミュージアムでの空気環境調査に使われる検知剤の一部です。知っている方はかなりの保存通??

このように振り返ってみると、文化財保存上の問題・課題は、社会の変化や科学技術の発展と密接にリンクしているように感じました。ミュージアムについて言えば、地球と人に優しい建築への指向は、文化財にとってもプラスになっていることは間違いありません。ただし、ひとつの問題を改善したことにより、意図せずとも別の問題を生じることもあります。また近年では、展示ケースの中など、局所的な保存環境改善のための商品も多く市販されるようになりましたが、それを使うことにより別の影響が生じないかも考えなくてはなりません。今後、どのような相談が増えるかは予想できませんが、文化財を良好な状態で次世代に伝えるためには、新しい技術にも常に目をひからせなくてはなりません。これも文化財保存の重要な側面であると実感します。

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カテゴリ: 文化財の保存