文化財の保存・活用とデジタル資源
「デジタルアーカイブ」という言葉をご存知でしょうか。ミュージアムや文化財に関心のある方ならば、どこかでお聞きになったことがあるかもしれません。実は和製英語です。1994年に日本画家の平山郁夫氏が主導された「文化財赤十字構想」の中で生まれ、使われるようになりました。
戦争や災害で文化財が失われることは、歴史上枚挙にいとまがありません。平山氏は、自身の創作活動の中で世界を旅し、危機にある文化財のありさまに直面しました。そこで、オリジナルの文化財を守るとともに、その情報を、発達しつつあったデジタル技術で記録し、長く残すことを「文化財赤十字」の一つの柱として提唱されました。
不幸なことに、その後も文化財の滅失はやみません。つい先日のパリ・ノートルダム大聖堂の焼損は多くの文化財が常に危険にさらされていることを示し、世界に衝撃を与えました。その一方でデジタル情報通信技術は予想を超えた発達を遂げ、きわめて質の高い情報を記録し、流通させることが可能となりました。ノートルダム大聖堂も、修復にあたって3次元計測データを利用することがさっそく話題にのぼっています。
明治5年(1872)に行なわれた社寺宝物調査(壬申検査)における記録写真
「東大寺大仏殿」横山松三郎撮影
文化財の調査記録や写真など、私たち国立博物館や文化財研究所が過去に蓄積してきたさまざまな資料は、それぞれの時代の文化財の実態を示す、貴重な情報源です。これまでもそれぞれの施設において、これらの情報を整理し、公開することに努めてきました。しかし、デジタル・ネットワークが世界をおおった現代にあって、これらの情報はデジタル化することにより、幅広い目的と世界中にわたる範囲に提供することができるようになります。私たちはこれを「デジタル資源」と呼び、長期にわたって保存、公開するシステムを「デジタルアーカイブ」ととらえています。
「国立博物館所蔵品統合検索システム(ColBase)」のトップページ
〈ぶんかつ〉デジタル資源担当では、国立文化財機構[https://www.nich.go.jp/]の各施設が蓄積してきたデジタル情報の連携を図り、より使いやすい条件で利用ができるように、情報環境の整備を行うことを当面の課題としています。2017年3月に公開した4国立博物館の所蔵品を横断的に検索できる「国立博物館所蔵品統合検索システム(ColBase)」[https://colbase.nich.go.jp/]と国立博物館所蔵の国宝・重要文化財の高精細画像を公開している「e国宝」[http://www.emuseum.jp/]の整備・改善を進めるとともに、研究成果として作成したデータベースや、近年増えつつある3次元計測データなどについても、公開・活用ができるように各施設との連携を図ってゆきます。
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- 2019年05月21日 (火)