ぶんかつブログ

さわって体験!かりうち土器

文化財活用センター〈ぶんかつ〉は、先端技術を用いて国立博物館の収蔵品の複製やデジタルコンテンツを開発し、それらを活用する活動を行なっています。
このブログでは、奈良文化財研究所が2024年度に制作した、平城宮・京出土の「かりうち」の盤面であった土器の複製についてご紹介します。

奈良時代に大流行した盤上遊戯「かりうち」。これを現代も遊べるボードゲームとしてよみがえらせ、「なぶんけん×ぶんかつ!アウトリーチプログラム よみがえった古代のゲーム「かりうち」で遊ぼう!」として、全国の皆様に「かりうちキット」をお届けしています。
▷▷「天平人も夢中!よみがえった古代ボードゲーム「かりうち」」

「かりうち土器」とは?
複製した土器は奈良時代の代表的な焼き物である「土師器(はじき)」と「須恵器(すえき)」の2点です。これらは本来、食器として使われたものですが、盤面が描かれた土器を総称して「かりうち土器」と呼んでいます。
1点目の土師器は、平城京二条大路の濠状遺構SD5100から、一部が欠けただけの状態で出土しました。口径19.6cm、高さ4.6cmの土器の内側に直径約8cmの円形のかりうちの盤面が完全に残っており、「出」の文字が刻まれています。長年この記号の意味は不明でしたが、秋田県・秋田城跡から出土した瓦製レンガ(磚[せん])に刻された記号と全く同じ配列であることが判明し、かりうちがよみがえるきっかけとなりました。
2点目の須恵器は1963年に平城宮内裏北外郭地区の土坑SK820から出土したもので、口径約27cm、高さ4.6cmの食器がバラバラの破片になった状態で見つかりました。当時、天皇が起居していた平城宮の内裏のすぐ近くでも、かりうちで遊ぶ人がいたことを意味します。先述の土師器の盤面が実際に遊ぶにはやや小ぶりなのに対し、こちらの須恵器の裏に墨で描かれた盤面は復元すると直径は16cmほどで、現代でも遊びやすいサイズの盤面です。


かりうち土器:[左]平城京SD5100出土 土師器  [右]平城宮SK820出土 須恵器片 (ともに奈良文化財研究所蔵)

かりうちの盤面は、これらかりうち土器も含めて、全国で9例みつかっていますが、それらはすべて専用盤面ではなく、かりうち土器のように他の用途のものに盤面を描いた(刻んだ)転用品となっています。

複製品制作のコンセプト
奈良文化財研究所では、実はこれまでもかりうち土器の複製を行なってきました。
一つは、展示用の複製で、平城宮跡歴史公園いざない館のガラスケースの中に収まっています。もともとの須恵器の全体像がわかるように、破片が見つかっていない部分は推定で補って完形の皿として復元しています。こちらはあくまで展示用ですので不特定多数の人びとが触ることを想定していない複製です。
もう一つは、実際に遊ぶことができる複製です。古代の須恵器の窯であった国史跡寒風古窯跡群(さぶかぜこようせきぐん)の近隣で、現代の須恵器作りをされている陶芸作家さんの協力により、須恵器そのものを再現製作したうえで焼成し、これに墨で盤面を描きました。展示用の複製と区別するため「かりうち再現須恵器」と呼んでいます。平城宮跡で毎年秋に開催しているかりうち対戦試合の決勝戦で、この再現須恵器を使用することが恒例となっています。

かりうち再現須恵器

以上、2つの複製は、「古代のかりうち盤面がどのようなものであったのか」を伝えることを主眼に、出土遺物を復元・再現しています。
復元・再現によって、かつての姿をわかりやすく伝えることはできていますが、1300年の時を経て発見された「出土遺物」としてのリアリティはやや失われてしまっています。
今回私たちは、かりうちというゲームが、発掘調査で出土した遺物の考古学的研究を得て実現されたものであるということを伝えるため、「出土遺物」としてのリアリティを追求し、これを触って感じてもらえるものにしたいと考えました。

 

耐久性とのバランス
今日、手に取って触れることのできる土器の複製は、全国の多くのミュージアムで制作されています。特に土器のかけらを立体的に組み立てる「土器パズル」は人気の複製で、出土した遺物が接合・復元されて展示されるまでのプロセスを気軽に追体験することが可能です。
10片の破片の状態で出土した須恵器のかりうち土器については、3つの破片にまとめた上で「土器パズル」のように接合する体験ができるようにする方針としました。
不特定多数の人が手に取るような土器パズルの制作では、ピースに耐久性をもたせるため、実物の土器以上に厚みを持たせ、鋭利な破片の角を丸めて平滑な肌触りとし、彩色の剥げを防ぎかつ清潔に保つために表面を透明な塗料でコーティングすることが多いそうです。しかし、耐久性や安全性を考慮すればするほど、土器本来の質感などは失われていってしまいます。今回の制作では樹脂製であることを最低条件として、土器の厚み・重さに加えて、触った時の感触、破断面などは極力実物に近づける仕様で制作を依頼しました。

 

デジタル技術と職人技の融合
過去の奈良文化財研究所でのかりうち土器の複製品制作では、実物の型取りを行なって「笵(はん)」を作っての制作でしたが、今回は〈ぶんかつ〉で制作されたほかの土製遺物の複製品と同様に、高精細な3次元計測データを取得してモデリングし、原型を出力した上でこれを型取って転写し成形するという方法を取りました。

3次元計測の様子

先ほど復元・再現は行なわない方針と申しましたが、実は一部復元した部分があります。須恵器の破断面です。
須恵器実物の破片は、現在接合して欠損部分を石膏で埋めて固定しているため、これらを解体することなしには観察できない破断面があります。この見えない部分は、データのモデリングと人の手による最終仕上げにおいて、観察可能な破断面を参考に、割れ面のザラザラした触感や焼物の外面と内面の色味の差など“出土した状態の復元”として表現していただきました。


復元した破断面
表面の彩色も、土の中に長年埋まっていた結果付いた汚れまで丁寧に観察した上で複製しました。完成検査の際に実物と並べて確認しましたが、どちらが実物か迷いが生じるほどの仕上がりとなりました。


完成した「かりうち土器」


複製品を片手に説明する奈文研・小原俊行研究員(奈良県・王寺町立図書館)

 

さて、本複製品はアウトリーチプログラム以外でも順次活用をしていく予定です。
「かりうち対戦試合2025」では皆さんに触っていただけるように企画中です。平城宮跡にぜひお越しください。

かりうち対戦試合2025

日時:2025年11月24日(月・振休)午後

場所:朱雀門ひろば(いざない館多目的室・芝生広場)

※詳細は、平城宮跡歴史公園WEBサイトのイベント情報にて告知予定。
平城宮跡歴史公園WEBサイト:https://www.heijo-park.jp/event/

 

カテゴリ: 複製の活用