ぶんかつブログ

修理プロジェクト・「踊る埴輪」の魅力を深堀り!

文化財活用センター〈ぶんかつ〉と東京国立博物館(トーハク)は、皆さまからのご寄附でかけがえのない文化財を未来へつなぐ「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」を今年の4月から実施しています。
ウェブサイト、館内募金箱などを通して、一般・企業の皆さまからすでに多くのご寄附をお寄せいただいておりますことに、心から感謝申し上げます。

プロジェクトで修理予定の文化財のひとつである「踊る埴輪」、正式名称「埴輪 踊る人々」。
2022年6月4日(土)にトーハクで「踊る埴輪」の研究動向や修理についてお伝えする、月例講演会「踊る埴輪の修理プロジェクト」が開催されました。講師は、東京国立博物館 特別展室の河野正訓(かわのまさのり)主任研究員。古墳時代の考古学が専門です。
プロジェクトを担当する私も参加してきましたので、当日の発表もご紹介しながらレポートしていきます!


会場(平成館大講堂)の様子 156名の方が参加されました

「踊る埴輪」は、埼玉県熊谷市の野原古墳で出土した古墳時代・6世紀の埴輪です。野原古墳の周辺には全部で23基も古墳があり、「踊る埴輪」は昭和5(1930)年に山林を開墾中に見つかったそうです。


埴輪 踊る人々 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵


(発表資料より)野原古墳群の一部は現在竹林になっているそう

「踊る埴輪」の特徴は、その見た目。目と口が丸く、鼻筋が頭まで伸びています。一見裸にみえますが帯の表現があり服を着ています。全体に丸みがあり、独特で、大胆に簡略化されているこの特徴が形作られた要因について、河野研究員から解説がありました。

まずこの丸い造形。土器づくりをしていた人が埴輪の製作に関わっていたことが一因とみられています。丸い形をした土器はひも状にした粘土を輪の形にして積み重ねるように作っていきますが、「踊る埴輪」も同じように作られたため、共通した丸い造形がみられると考えられるそうです。
また、6世紀(古墳時代後期)には古墳の数も増え埴輪の需要が拡大し、埴輪がたくさん作られるようになりました。各地で自立的な生産体制ができ、地域ごとに個性的な埴輪がみられるようになってきます。当時の埴輪の中心地(畿内地域)から遠い野原古墳では、独特な埴輪を作ってもよい雰囲気があったのではと推察されるそうです。
一方で、埴輪は基本的に前の埴輪からコピーするように作られるため、古墳時代後期に製作された「踊る埴輪」はもともとの意味合いがうすれ、簡略化が進んだとも考えられるとのことでした。
作り手、地域性、時代、いろいろな要因が背景にあるとはとても興味深いですね。

さて、こちらの埴輪、「踊る…」と名前がついていますが本当に踊っているのでしょうか?

講演では「踊る」説と「馬子(まご)」説の2つが紹介されました。
「踊る」説は出土してから間もない1930年代頃より唱えられ、霊前で歌舞飲食し死者の復活を願う殯(もがり)という古墳時代の風習を念頭に、その様子を示したのがこの埴輪であると考える説です。
一方で馬の手綱(たづな)をひく「馬子」説は、片手をあげる人物埴輪が馬形埴輪と一緒に出土する事例がみられたことから1980年代頃より提唱されるようになりました。
その後も、さまざまな研究がなされているものの、どちらであるかはまだ定かとなっていないそうです。所作や表情がかわいらしいこの埴輪。一体何のために手をあげているのでしょう…。明らかになっていない部分もまた、その魅力に思えてきます。

話は進み、いよいよ今年秋から予定している修理のお話に。
「踊る埴輪」は、経年劣化などの影響で、胴や腕の部分に横向きの亀裂がいくつもみられ、また過去の修理による石膏(せっこう)が一部剥離(はくり)している状態です。そのため、今回の修理では約1年半をかけて解体、旧修理の石膏の除去、クリーニング、亀裂や破断面の強化、接合、欠失部の補てん、彩色などが行なわれる予定です。


胴に横向きの亀裂が入っている様子

右半分が旧修理で施された石膏

河野研究員からは、修理の方針は最新の技術も参考にしながら決められていくことが説明されました。
例として挙げられたのは、X線CT装置による調査。


X線CT装置での撮影の様子※文化財が倒れないように固定して撮影しています

下の画像は小さいほうの埴輪をCT調査した際の胴回りの断面画像です。よく見てみると、以前の修理で破損した場所は石膏で覆われていますが、その内側のオリジナル部分に亀裂のあることが分かります。こうした肉眼で観察できない亀裂も、CTを用いることで確認が可能になり、修理に伴って石膏をはがす際に慎重を要する部分が分かるようになるそうです。
事前の調査によって蓄積したデータをもとに、細かな注意を払いながら修理が進められていくことがよく分かりました。


(発表資料より)表面から見えない内側に亀裂のあることが分かります 

講演を聞いていて修理後の姿を見るのがとても楽しみになったところですが、その前に修理前の姿をもう一度確認しておきましょう。「踊る埴輪」は2022年7月3日(日)までトーハク本館1室で展示中です。「修理前最後のお別れをしていただければ」と河野研究員。ご来館の際にはぜひお立ち寄りください。

「踊る埴輪&見返り美人 修理プロジェクト」では、引き続きご寄附をお願いしています。私たちと一緒に「踊る埴輪」を未来へつなぐおひとりとして、お力添えいただければ幸いです。

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